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【第十三話】 お掃除の英雄、ヘラクレス

※前回に引き続き、ゴミ屋敷掃除の話。お食事中に読んではいけませんよ~

 

 会う人ごとに驚かされるが、彼の登場には度肝を抜かれた。

 ヘラクレスって言えば、カブトムシの名前にまでなってるすごい英雄だ。

 どういう神話とかに出てきたかは覚えてないけど、すげー人なのは確か。

 強い奴を片っ端からその怪力で倒しまくったんだよな、多分。

 そんな人が来てくれたとは。

 オレは思わず、握手を求めていた。


「会えて嬉しいよ。うわ、やっぱ手もでかいね」

「光栄です、アポロン様。このヘラクレス、全力で神殿を清掃させていただきます」

「でも……何か悪いな。君みたいなすごい人に掃除なんかさせちゃうなんて」

「何をおっしゃいます。掃除も、私の伝説の1つですよ?」

「えっ」

「あの『アウゲイアースの家畜小屋』を一発でピカピカにしたスゴ技をこれから御覧に入れましょう!」


 アルテミス曰く。

 アポロンは過去に、ものすごい事をやらかしてしまったヘラクレスに試練を与えたらしい。

 昔は人間だったヘラクレスにアポロンが「お告げ」として命じたのが、「ミュケーナイっていうところの王様でエウリュステウスっていう人の部下になって、めっちゃ大変なお仕事を10個やってくる」だったとの事。

 その一つが、アウゲイアースっていうレートーに負けず劣らず掃除のできない王様の牛小屋を掃除すること。

 ハイレベルなバツ掃除だった。


 牛小屋は3000頭も牛を飼ってる大牧場。

 にも関わらず、30年も掃除をしたことがなく、ウ○コでべったべたのガッピガピだったらしい。

 そこを何と驚きの洗浄力であっという間にピッカピカにしたのだと、ヘラクレスはドヤ顔で語ってくれた。


「川を2つ引きこみましてね。そこから水をドバーっとね。いやぁ、爽快でした」

「……それ、牛は無事だったの? ていうか、小屋もやばいんじゃね?」

「牛は事前にちゃんと避難させましたよ。小屋も頑丈だったんで何とかなりましたし」

「えっと……まさか今回もそれで行くつもりだったりする?」

「さて、どうしますかね。とりあえず現場を見てから判断します」


 まさかの神殿丸洗いが実行されるのか。

 オレは不安な気持ちでヘラクレスに現場を見てもらった。

 ヘラクレスはふんふんと神殿の中を見て回り、ドアなどの立てつけを見て頑丈さを確かめていた。

 相当の悪臭と汚れだったが、やっぱり30年掃除してない牛小屋よりはマシだったらしい。

 すぐに何とかなるとの事だった。


「これなら時間もかかりません。アポロン様、貴重品だけ出していただけますか?」

「貴重品か。どこにあるんだろうな……」

「アポロンの大事なものはみんなさっきの一番上の奥の部屋にあるわ。後は、壁の絵画とかかしらね」


 レートーに案内され、ゴミに侵されていない部屋から高価なものから順に出してくる事になった。

 引越し屋さんとかが来た時も、「貴重品や宝石類はお手元に」なんて言われる。

 ヘラクレスもそうらしい。

 後でなくなって、「パクっただろ」って言われてもつまらないもんね。

 アレースやクレイオーの手を借りて、ざっと大事なものだけ外に出した。

 高そうな布地とか、有名画家の絵とか、宝石も何だか知らないけどめっちゃあった。

 あとは、箱に入ってたものすごい量の金塊。

 レートー曰く、アポロンの「へそくり」とのことだったが、それが一番重かった。


「は、母上……アポロン、ていうか過去のオレはいったい、いかほどの金持ちで?」

「こっちじゃ人間の世界と違ってお金を使わないから、金額とかはよく分からないわ。でも、だいたいゼウス様の半分くらいかしらねぇ」

「マジすか」


 相当である。

 結局、金塊は力自慢のヘラクレスに下まで運んでもらった。

 重さは「だいたい100kgくらいですかねー」なんてヘラクレスは言ってたけど、奴はその100kをまるでざる蕎麦のせいろでも運ぶみたいに片手で持って行ってた。

 この人、どんだけ力あるんだろ。

 その疑問は間もなく明らかになった。


「では、よろしいですねアポロン様。これから掃除にかかります」

「悪いね。よろしく頼みます」

「じゃあちょっと離れててくださいね」


 ヘラクレスはオレ達に家から50mほど離れているように言った。

 一体何をするのか。

 そう思っていると、ヘラクレスは神殿の裏に回った。

 暫くすると、辺りの地面が何故か揺れ始めた。


「え、ちょ、地震?!」

「きゃぁあ! アポロン様っ!」

「あ、危ない!」


 こけそうになっていたクレイオーを抱えて抱き起す。

 レートーはアルテミスがちゃんと支えていた。

 流石姉さん、逞しい。

 震度5くらいあるんじゃないかというくらい、ぐわんぐわん地面が揺れていた。

 何なんだ、一体。

 そう思っていたら、目の前の神殿が大きく傾いた。

 と、思っていたら、浮いた。


「えええっ! ちょ、ちょちょ、何何!?」

「あ、兄上ヘラクレスが……!」


 アレースの指差す先。

 浮き上がった神殿の下から足が二本出ていた。

 怪力自慢の神、ヘラクレス。

 彼が、ゴミ屋敷を掃除するのに選んだ方法。

 それは、神殿を逆さにして振る、という荒技だった。


「へ、ヘラクレスー! 大丈夫なのそれー!」

「問題ありませんアポロン様ー! 暫くこっちに来ないでくださいねー!」

「う、うわすげっ! 二階のバルコニーから……!」


 ドザザザザ……と外に出てきた大量のゴミ袋。

 ヘラクレスは神殿を四方八方に傾け……というか振り回し、中のゴミを一カ所にぶちまけた。

 なんかもう、ゴミ箱扱いだな。

 燃えるごみの日に母ちゃんが家じゅうのゴミ箱を指定ゴミの袋にぶちまけてるあの感覚だ。

 と、思っていたらアレースが何か思いついた顔をした。


「なるほどね。あの方法でいけちゃうんだったらオレでもできましたよ、兄上」

「え、アレースも力自慢なんだっけ?」

「今のままじゃ無理です。でも、『変身』すればイケますよ」

「……変身?」

「オレの得意技。『巨大化』です」


 そう言うと、アレースはたたっと庭の何もないほうに走っていった。

 何やら、忍者みたいなポーズをとる。

 すると……何という事でしょう!

 アレースの身体はみるみる大きくなり、見上げる様な大男に。

 オレがポカーンとしている前で、アレースの顔がどんどん遠くなり……。

最終的に、東京にある超高いビルと同じくらいの高さで止まった。


『兄上ー? どうですかー? これがオレの本来の身長なんですー』

「で、でかっ! ていうか、声もでかっ!」

『多分部屋の中とかー、ゴミ出しただけじゃ汚れとか落ちないんでー、湖まで行って洗ってきますねー』


 ズシーン、ドシーンという足音をさせて神殿に近づくと、アレースはヘラクレスが振り回していたそれをひょいと抱え上げた。

 身長が東京都庁レベルの奴が持つと、そうとうでかい神殿もドールハウスに見える。

 アレースはそのまま神殿を持ってどこかへ行ってしまった。

 仕事をとられたヘラクレスは悔しそうな顔をしていた。

 彼も最後は川に持ってって洗って仕上げるつもりだったらしい。


「困ったお方ですね。アレース様のお役目は掃除じゃないでしょうに」

「あー……いいんじゃない、あいつヒマそうだったし。それより、このゴミどうしたらいいかな。燃す?」

「ゴミは引き取ってくれる方がいらっしゃるんで、私が持って帰りますよ」

「そんな人いるんだ」

「ヘーパイストスよ、アポロン。『炎』と『鍛冶』の神。オリュンポス12神の1人だわ」


 アルテミス曰く、近くに住んでいる武器をつくる神様がたくさん燃料を使うため、ゴミも引き取ってくれるらしい。

 とりあえず、ぶちまけた中からゴミでないものを分別してほしいとの事だったので、ざっと確認する。

 マスクをして漁ってみると中から純金製の椅子とか食器とかが出てきてギョッとした。

 ヘラクレスに丸投げしちゃった気でいたけど、結局最後は自分たちでやんなきゃだめなのね。

 

 アレースはすぐにきれいになった神殿を持って帰って来たけど、なかなか分別って時間かかるね。

 結局、夜までかかってみんなで全部見る事になった。

 ヘラクレスの賃金は相場が分からなかったのでどうしたらいいか聞くと、「いらない」と言われた。

 オレは奴にとって恐れ多い存在らしく、ボランティアのつもりだったらしい。

 でも、あれだけやってもらったのにそれは申し訳なさすぎる。

 そう言うと、お金じゃなければ何でもいいと言われた。


「アポロン様からいただけるものでしたら、何であろうと一生大切にいたします」

「うーん……一生ってほぼ永久的にって事だよな。どうしようかな」


 ふと、オレはアポロン神殿の入り口にあったでっかい太陽を思い出した。

 すんごい趣味悪いモニュメントだったけど、多分アレは結構な価値のあるものだ。

 そうだ、アレをやっちゃおう。

 オレはヘラクレスに門からバカでかい太陽をひっぱがして持って帰るように言った。

 ヘラクレスは飛び上がらんばかりに驚いていた。


「あ、あれは『太陽神』たるアポロン様の象徴的なものではありませんか……! そんなものを私めがいただくなどめっそうもない!」

「いや……その、オレからの感謝の証だと思ってよ」

「しかし、他の神々に何と言われるか……!」

「誰かに聞かれたら、『アポロン神殿の掃除をした証』とでも言ったらいいんじゃない?」


 ゴミ屋敷と化したアポロン神殿をその怪力で制した、英雄ヘラクレス。

 それは新しい伝説になって語り継がれるだろう……って冗談で言ったら本気にされた。

 リヤカーにゴミを載せ、太陽を背中に担いでヘラクレスはぺこぺこ頭を下げながら帰っていった。

 一応、アルテミス姉さんとクレイオーも大変な目に遭ったのでお礼をする。

 じゃらじゃら出てきた宝石品類の中から好きなアクセサリーを1つ選んでもらった。


「で、アレースはどうしよう。なんか好きなものあるかな」

「オレはいいです、兄上。何もいりません」

「でもさ」


 聞くと、アレースはかなり遠くの湖まで行って神殿を洗ってくれたらしい。

 大活躍してもらったのに、何にもなしは悪い。

 ヘラクレスにもちゃんと御礼したんだから何か、としつこく聞くとアレースはこう言った。


「でしたら……どうかこれからも兄弟として仲良くしてください、兄上」

「え、そんなんでいいの?」

「はい。それがオレの何よりの望みです」


 アレースは澄んだ瞳でオレを見つめ、そう言った。

 もう夜遅かったため、アレースは帰宅。

 オレ達はアルテミスも一緒に神殿に止まって帰ることになった。

 その夜、ささやかな宴を催した。

 オレの快気祝いだ。

酒を飲みながらアルテミスはこんな事を言った。

アレースは過去にいろんなことをやらかしたせいで、周りにあんまり好かれていない。

だから、寂しい奴なのだと。


「戦いの神じゃない、あの子。直接的にも間接的にも、いっぱい殺してるからねぇ」

「ああ……」

「昔は粗暴で荒々しくて、自己中で。しかもアポロンと一緒で女の子にだらしなかったのよ。だから未だに嫌われてるのよね。何千年も経つのに」

「だからバッカスさんとか、よそよそしかったのか……」

「今は反省して大人しくなってるみたいね。今日も、あなたのために頑張って。あんなアレース、初めて見たわ」


 元ヤンキーが大人になっても地元で嫌われてるわけか。

 だから、事情を知らない(忘れてる)オレなら優しくしてくれると思ったのね。

 まぁ、でも今は反省してるならオレは構わんよ。

 人間時代は一人っ子だったから、弟がいるのは正直嬉しい。

 そう言うと、クレイオーが嬉しそうな顔をした。


「アポロン様はお優しいですね。アレース様も、きっとすごく喜ばれます」

「え、普通じゃないのこれくらい」

「そう普通とお考えなところが素晴らしいのです。だからきっと、アポロン様の周りには戻られた直後からたくさんの方が集まってこられるのですね」

「そうね。いろんな人から聞くわ。今のアポロンと一緒に飲みたいって」


 アルテミスも気持ちよさそうに酒を煽り、そう言って笑う。

 パーン、バッカス、エロース、それからアスクレーピオス。

 それからあと10人くらいの神がここ1か月の間にヒュポレボレイオスの野にあるオレの神殿じたくで飲んで帰ったらしい。

 失恋直後のあの飲み会か。

 酔っててあの4人以外はよく覚えてないけどね。

 アルテミス曰く、ぐでんぐでんになったオレは「もっと誰か呼べよ! 酒いっぱいあんじゃん! バッカスさんもいんじゃん!」と、みんなに絡んで知り合いを呼ばせていたのだそうだ。

 

 それをみんなが方々で言いふらし、羨ましがってる人たちがいるんだとか。

 知らない間にお友達が増えていた感じなのかしら。

 だったら、絡み酒の癖があるのも悪くないな。

 人間時代はウザがられるだけだったけど。

 そんなんだったら、月1か2くらいで飲み会開催しようかな。

 そう言うと、レートーが顔をしかめた。


「ダメよアポロンたら。まだ戻って来たばっかりなのにお酒ばっかり飲んでたら病気になっちゃうわ」

「え、でも付き合いって大事じゃないすか母上……」

「平気ですよ、母上。私も今度から参加しますから。あと、医神のアスクレーピオスがいるからちゃんとストップかけてくれてるみたいですし」

「そうねぇ……アルテミスとアスクレーピオスがいるなら安心かしら」


 母上レートー様はお酒がお弱いようだ。

 グラス一杯で真っ赤になってすぐにうとうとし始めたため、クレイオーが寝室に連れていった。

 ちなみに、アルテミスの姉上はザル。

 いくら飲んでも平気そうな顔だった。

 今度から来るのね。

 うーん、男だけのが気楽なんだけどなぁ……。

 姉さんの忙しい時を狙って開催するか。


 クレイオーが戻ってきて暫くしてから、アルテミスが何かを思い出した顔をした。

 昼間、ゼウスに言われた事。

 オレの復活&新任の宴会をする話だ。


「さっき父上から戻ってきた手紙にちらっと書いてあったのよね。幹事はいつも通りヘルメースがやるらしいわ」

「ヘルメースって?」

「私達の弟で、オリュンポス12神の伝令役なのよ。ゼウス様に命じられていろんなお知らせをして回るのが役目だから、そのついででいろんな宴の幹事もやってるの」


 早い話が、ゼウスのパシリって事ね。

 ヘルメースはゼウスに言われてさっそく宴会の準備を始めているらしい。

 まだ、参加の可否を回収してる最中らしいけど多分、オリュンポス12神は全員参加だろうという事だった。

 開催日は1カ月半後。

 バッカスさんが漬けた特別なワインが解禁になる日らしい。

 イイネ!


 それから、ごちそうもヤバいらしい。

いろんな神様が来るから美味しいものが何でも揃う。

さらにゼウス神殿を全部使う様なものすごい大宴会になるんだそうだ。

 参加者は1000人は最低でも、とかアルテミスはサラッと言う。

 ひいいい、祭りだ!


「楽しみでしょう、アポロン。三日三晩の大宴会よ!」

「え、そんなにやんの……?」

「恐縮するような規模じゃないわ。ちなみにゼウス様の誕生日のお祝いは1週間続くのよ」


 マジか。

 まぁ、確かに何千年も何万年も生きる人たちだもんな。

 そういう規模でやるくらいなんでもないのかも。

 と、すると再来月は三日三晩飲み、っていうことになるのか。

 うーん……大丈夫かオレの肝臓……。


 しかし、1000人規模のお祝いとか想像つかないな。

 誕生日会でも5~6人が最高だったぞ、子供の頃。

 そんな事を考えていたら、何だか隣に座っていたクレイオーが急に燃え始めた。

 オレのためにゼウスが開催する宴。

 そこには気合を入れて臨まなければならないとクレイオーは言った。


「今回、アポロン様は主役として皆様の前に出なければなりません。ですから、私達も念を入れて準備をしなければ!」

「あ、ああ……そうだね」

「アポロン様、明日は早めに帰りましょう! 姉上や妹たちも集めて、全員で作戦会議です!」


 作戦会議って、おいおい。

 普通に出ればいいんじゃないのかなぁ。

 とか思いつつ、翌日は午前中に帰宅。

 速攻でミューズ9姉妹が集められ、会議が開かれたのだった。


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