第20話 学園の制服と、初めての友人達
長く、そしてあまりに濃密だった夏休みが終わりを告げようとしていた。
私は自室で、鏡に映る《《美しい》》自分を見つめながら、背後に控えるマリアに問いかけた。
「ねえ、マリア。わたくしの制服はどこにあるのかしら? 記憶にないのだけれど……」
「……お言葉ですが、お嬢様。学園に入学される際、『こんな粗末な服は着られないわ! わたくしに相応しいのは最高級のシルクだけよ!』とおっしゃって、ドレスでの通学を特例で認めさせたのはお嬢様ですが」
「……まあ。それはひどいわね。……認めるお父様もだけど、学園も学園だわ。校則をなんだと思っているのかしら」
(教育現場において、服装の乱れは心の乱れ。特例なんて、示しがつかないじゃない。元教師として許せないわ)
「はい。おっしゃる通りでございます」
「マリア、あなた最近性格が悪くなったって言われない?」
「はい。主人に似てきたとはよく言われます」
「……。コホンッ。あー、まあ、いいわ」
私は咳払いをして、気を取り直した。
「それで、その『粗末な制服』は残っているのかしら?」
「はい。一応、奥に保管してございます」
「そう。では、二学期からは制服で通学します。準備しておいてちょうだい」
「……かしこまりました」
驚きを隠せない様子のマリアに、私はさらに「爆弾」を投下した。
「それから、明日は『友人たちを招いて』お茶会をします。準備をよろしくね」
「はい! お嬢様がご友人を招かれるのは《《初めて》》のことですので、屋敷を挙げて歓迎いたしますわ!」
「初めて? そうだったかしら……」
「はい! これまで《《お友達のいらっしゃらなかった》》お嬢様にとって、一生に一度あるかないかの大切なご友人ですもの!」
「……そんなに大きな声で喜ばれるのも、なんだか複雑な気分だわ」
エスメラルダが『初めて友人を招く』というニュースは、またたく間に公爵邸を駆け巡った。使用人たちは色めき立ち、庭園の手入れから銀食器の磨き上げまで、かつてない熱量で準備に取り掛かった。
当然、その報告は父ギルバートと母ベアトリスの元にも届く。
「何? エスメラルダがお茶会を?」
「はい。明日、学園のクラスメイトであるご友人をお招きして、初めてのお茶会を開催されます」
父は書類を置き、感慨深げに呟いた。
ここ最近、見違えるほど優秀で高潔な淑女へと変貌した愛娘。その急成長ぶりに、両親の喜びもひとしおだった。
「それで、参加者はどこの家の方々だい? フォード公爵家かな、それとも……」
「いいえ。子爵家と男爵家の方が数名と、それから伯爵家がお一人です」
「……なに? あの、選民意識の強かったエスメラルダが、下位貴族の学友を招いて茶会を?」
父の驚きはもっともだった。以前の彼女なら、自分より家格の低い者など「道端の石」程度にしか思っていなかったはずだ。
「はい。お嬢様からは、『くれぐれも粗相のないように。身分に関わらず、わたくしの大切な友として最高のおもてなしを』と仰せつかっております」
「……そうか。彼女は、本当の意味で上に立つ者の誇りを理解し始めたのだな」
ベアトリスは震える手で目元を拭い、ギルバートはその肩に優しく手を添えた。
一方、そんな感動の嵐が巻き起こっているとは露知らず、私は自室で、侍女エミリーの弟であるマイクから取り寄せた最新の『クラス内勢力図』を広げていた。
(明日のお茶会は、二学期という名の『授業』を円滑に進めるための重要な戦略会議。招待するのは、トルドー子爵家のメリッサとヤスミン、ノイズ男爵家のロマリー、そしてライトン伯爵家のナタリーとビビアン。マイクから得たクラス内勢力図も、しっかり頭に入れておかなきゃ。お茶菓子も、とびきり美味しいものを用意させなきゃね)
『悪役令嬢』が制服を身にまとい、下位貴族を従えて学園に登場する。
その光景がどれほどの衝撃を周囲に与えるか、私は今から楽しみで仕方がなかった。
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