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悪役令嬢の中身は、定年退職した元教師 〜絶世の美女に転生したので、愛の鞭と美貌で人生を楽しみます〜  作者: 恋せよ恋
生まれ変わった十六歳の悪役令嬢

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第15話 モン・ルージュの再編

 私が開発を主導した領地北部の保養地『モン・ルージュ』から、領地の代官が挨拶に訪れた。


「エスメラルダ様! ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです! 早速ですが、領地の収益報告に馳せ参じました!」


 領地代官を務めているのは、ミッテラン公爵家の遠縁にあたる子爵家の当主、オリビエだ。父ギルバートとは乳兄弟の間柄であり、現在アラフォー。これまた、溜息が出るほどの美形である。


(……待って。公爵家の家門は美形しかいないの? 恐るべしミッテラン公爵家の遺伝子!)


 内心の驚きを『完璧な淑女の微笑』で隠す私の前で、オリビエは晴れやかな顔で報告を続けた。


「エスメラルダ様、売上は右肩上がりで、収支も大幅な黒字です。これまでダイヤモンド鉱山のみが収入源だったモン・ルージュにとって、金銭だけではなく老若男女問わず働ける職場が生まれたことは、真に画期的なことです」


 ダイヤモンド鉱山では力仕事が多く、主な働き手は屈強な若い男たちに偏っていた。

 街を真に活性化させるには、女性や年配者、そして力の弱い若者たちの働き口を作らなければ、街としての繁栄はない。


 そこに投じられた私の『保養地計画』は、領民にとって願ってもない救済案だったのだ。

 もちろん、当初はオリビエも顔を顰めた。我儘で傲慢、悪評轟く公爵令嬢が『領民のために』などと言い出したのだ。罠か、陰謀か、何らかの策略を疑うのが代官としての正常な判断だろう。


 彼は乳兄弟である父ギルバートに詰め寄ったという。

 

 だが、父は静かにこう返した。


「オリビエの言いたいことはわかる。だが、最近のエスメラルダは何かが違うんだ。上手く言えないが……《《まるで別人だ》》。信じてみてもいいんじゃないかな。もし失敗しても、私が責任を持つ。あの子の好きなようにやらせてみてくれないか。頼む」


 父の深い信頼と、オリビエの英断。それが、現在のモン・ルージュの大成功を支えていた。


「そう、順調で何よりだわ。次は領民の暮らしを支える仕組みを整えましょう。『福利厚生』に収益を回しましょうか」


「フクリ……コウセイ、ですか?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げるオリビエに、私は流れるように指示を出す。


「学校と診療所、そして孤児院を整備するの。鉱山で怪我をした労働者の待遇改善、子供たちへの基礎教育。そして、不幸にして命を落とした者の家族への救済よ」


「……! はい! 素晴らしいお考えです。さすがは、我らがエスメラルダお嬢様だ!」


(教育と医療こそが、街の地盤を強くする。これは慈善事業じゃない、持続可能な都市開発よ)


 こうしてモン・ルージュは、単なる保養地から、最先端の都市開発へとその歩みを進め始めた。

 公爵令嬢という最強の権力と、ベテラン教師の『社会を見る目』。この二つが組み合わさった時、この国に新しい『理想郷』が生まれようとしていたのである。


 ◇


 王都の社交界では、今やミッテラン公爵領北部の『モン・ルージュ』の話題で持ちきりであった。扇の陰で交わされる噂話は、日を追うごとにその熱を帯びていく。


「先週、やっと予約の順番が来て『ヴィラ・エスメラルダ』へ行って参りましたのよ! 温泉も、お食事も素晴らしかったですわ。見てくださる、このスベスベのお肌! なんでも、体の中からきれいになるという薬膳料理のおかげらしくて……。実は、お通じも良くなって、いいことずくめですわ!」


「まあ、素晴らしい場所なのね。でも、あそこは北の田舎でしょう?」


「あら、そう思うでしょう? それが王都に引けを取らない……いえ、王都以上かもしれないわ。カフェはどこもオシャレだし、『パンケーキ』や『チーズケーキ』の専門店まであるんですもの」


 その場にいた令嬢たちが身を乗り出す。

 彼女たちにとって、未知のスイーツや美容法は何よりも魅力的な『武器』だ。だが、噂はそれだけにとどまらなかった。


「それにね、私、滞在中に持病の頭痛が出て困っていたら、『診療所』という医療施設を紹介されたの。平民も多くいたけれど、医師は貴族出身だったし、すぐに診てもらえて助かったわ」


「まあ。平民も病気になったら診てもらえるのかしら?」


「ええ。モン・ルージュで収入のある者なら無料、それ以外でも僅かな診察料で済むらしいわ。運営費は、温泉宿や鉱山から得られる収益の一部を、医師や薬の確保、施設の維持費に充てているそうよ。その一方で、私たち貴族からは『寄付金』を募り、運営資金に充てているの。合理的だと思わない?」


「……なんだか、底知れない街ね」


 驚きに目を見開く友人に対し、経験者は得意げに声を弾ませる。


「さらに驚いたのは、平民の小さな子供たちよ。七歳くらいの子が『学校』に通って、文字や算数を勉強しているんですって!」


「まあ、平民が? 学費はどうしているの?」


「モン・ルージュに暮らす者なら無料なんですって。なんでも『住民登録』という制度を導入していて、どこの家に誰が住んでいるのか、家族構成まで把握しているらしいわ。そうして支援を必要とする人を把握し、学校や診療所の利用、住居の紹介につなげているそうよ。『行政支援』……だったかしら。そういう仕組みのおかげで、必要な人に支援が届きやすくなるのね」


「住民登録……すごいわね。それでは悪いこともできないわね」


「ええ。それどころか、学校に行き、安心して診療を受け、住む場所に困れば家まで紹介してもらえるそうよ。街を歩いていても、路上で暮らす人や、行き場のない子供を一人も見かけなかったわ。平民にとってはまさに理想郷でしょうね」


 かつては荒くれ者の集まる鉱山の街だったモン・ルージュ。


 それが今や、高度な行政システムと福祉、そして最先端の流行が共存する『理想の地方都市』として変貌を遂げている事実に、王都の貴族たちは戦慄と羨望を隠せなかった。


(よしよし。王都の『口(くち)コミ』マーケティングも順調ね。教育と医療が行き届いた街は、それだけで最強のブランドになる。……さあ、エドワード殿下。あなたが切り捨てようとした『エスメラルダ』が、どれほどの価値を領地に生み出しているか、そろそろ思い知る時間よ)


 王都から届く報告書を読みながら、エスメラルダは優雅にハーブティーを啜り、勝利を確信する微笑を浮かべた。


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