↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の中身は、定年退職した元教師 〜絶世の美女に転生したので、愛の鞭と美貌で人生を楽しみます〜  作者: 恋せよ恋
生まれ変わった十六歳の悪役令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/43

第14話 ターゲットの徹底分析

 夏休みも終盤、学園復帰を目前に控え、私は公爵邸の図書室で、今後の対策を練ることにした。


 かつての教員時代、荒れたクラスを立て直す際に最初に行うのは、生徒一人ひとりの人間関係、家庭環境、そして『なぜその行動に至ったか』という動機を分析することだった。


「さて、まずは『学園でのエスメラルダさん』が、周囲にどう映っていたか、そして敵方の戦力を正確に把握しなければね」


 情報源は、今回の謝罪で和解し、私の『熱烈な信者』となったメリッサ子爵令嬢をはじめとする令嬢たちだ。


 真摯に謝罪し、名誉回復にも尽力したことで、彼女たちは社交界の情報を正確に教えてくれる、心強い協力者になっていた。


 だが、今の私に必要なのは、学園内部で『目』となり『耳』となる現役の生徒たち、つまり信頼できる友人だ。


「エスメラルダ様。学園へ戻られるにあたり、心強い協力者を連れて参りましたわ」


 成績優秀でSクラスに在籍する二年生だと紹介された彼女は、驚いたことにエスメラルダと同じクラスだと言うではないか。


( エスメラルダさん、あなた、優秀者が集まる《《Sクラス》》に在籍してたの? この学力で? 完全に公爵家のゴリ押しね。教育現場で一番扱いに困るタイプじゃないの!)


 前世の私なら頭を抱えていた案件だが、今はその『特権』の恩恵を受けている身だ。

 以前のエスメラルダは、身分の低い子爵令嬢など相手にしていなかった。そのため、ヤスミンの顔も名前も、まったく記憶に残っていない。


 ノイズ男爵家の嫡男マイクも、ライトン伯爵家の次女ビビアンも同じだった。三人とも私と同じSクラスなのに、私にとっては、まるで初対面の相手のようだった。


 教師にとって、クラスの人間関係を把握することは基本中の基本だ。

 彼女たちの警戒心を解き、信頼してもらえるよう、私は最高の『微笑み』を浮かべた。


 公爵令嬢という立場に、優秀な協力者たちの情報網。これで準備は万端だ。

 三人から提供された情報は、私の知らない学園の実態を克明に浮かび上がらせていた。


「ヤスミン。マイク。ビビアン。今まで、あなたたちの存在を無視し続けていたことを許して。これからは、学園での『学び』において、あなたたちを一番の友人として頼らせてほしいの」


 私が丁寧に頭を下げると、三人は信じられないものを見るように目を見開いた後、頬を赤らめて深く頷いた。


 私は、三人が教えてくれた今の『クラスの現状』を頭に叩き込み、不敵な笑みを浮かべた。



「殿下は……決して、問題になるようなお相手には手を出しませんわ」


 ヤスミンの言葉通り、エドワードは女性を身分や立場によって、巧みに使い分けていた。


 婚約者がおらず、家格が低くて有力な後ろ盾もない下位貴族の令嬢や、高位貴族の未亡人など、関係が終わっても自分の立場を脅かさない相手ばかりだった。


 彼は決して、女好きなわけではない。彼にとって彼女たちは、愛情を注ぐ相手ではなく、気まぐれに可愛がるだけの存在だった。気分転換に、可愛いから戯れる。ただそれだけの、学園時代における一時の慰みに過ぎない。


(……教育現場にもいたわね。弱い立場の生徒を狙って、自分の権力を誇示するタイプ。それも、表面上は『面倒を見ている』フリをしてね)


 エドワードは優秀で頭の回転も速い。女性を嫌っているわけではないが、心を奪われるほどの存在だとも思っていなかった。彼にとって、傲慢な婚約者エスメラルダは、政略結婚のために押し付けられた相手に過ぎない。


 だからこそ、彼は婚約者がいながら、悪びれることなく他の女性たちと遊んでいた。


 表向きは「エスメラルダに振り回され、疲れた心を癒やしている」という態度をとっていた。


 周囲には、こんなふうに漏らしていたのだ。


「彼女のあの醜い顔を見てくれ。あんな婚約者がいては、僕がほかの女性に安らぎを求めたくなるのも無理はないだろう?」


 そうして、まるで自分が被害者であるかのように振る舞っていた。


 すべては、両陛下にエスメラルダとの婚約破棄を認めさせるためだった。彼はわざと私を怒らせ、私が激怒すれば、それを理由にこう主張するつもりだったのだ。


 『これほど王妃に相応しくない女性とは、もうやっていけない』と。


 つまり、私の傲慢さは、彼にとって自分の不誠実な行動を隠す『隠れ蓑』であり、婚約破棄を正当化するための『口実』だったのだ。


(なるほど。私が嫉妬に狂って騒ぎ立てるのを利用して、自分は涼しい顔で目的を果たそうってわけね。……その余裕、いつまで続くかしら?)


 私は冷ややかに笑った。


 相手を『馬鹿な女』だと決めつけて立てた計画ほど、思いどおりにいかなくなったとき、もろく崩れるものなのだ。


 ◇


 三人の側近――オリバー、フレデリック、チャールズも、それぞれ異なる分野で優れた能力を発揮していた。


 騎士団長の息子、オリバー・バーガンディ伯爵令息は、武術に秀でた行動派。

 魔導師長の嫡男、フレデリック・ジョルネ侯爵令息は、研究熱心な理論派。

 宰相の嫡男、チャールズ・デビットソン公爵令息は、頭の回転が速く、規則や制度にも精通した実務派だった。


 それぞれ異なる分野に秀でた三人は、王太子エドワードを支える側近として、学園でも一目置かれる存在だった。


「ですが、彼らもまた、自分たちの婚約者が不満を口にすると、決まってこう言うのです。『またエスメラルダ嬢のように癇癪を起こすのか? 君にはがっかりだ』と」


 私は思わず、持っていたペンを握りしめた。


 なるほど。彼らは私の悪評を利用して、婚約者たちの不満を封じ込めていたのだ。


(……優秀なのは認めるけれど、その頭脳をそんなことに使うなんて。自分たちの非を認めず、私を引き合いに出して相手を黙らせる。まったく、厄介な連中ね)


 収集した情報を元に、私は羊皮紙に戦略を書き込んでいく。


 中身は六十二歳、教師歴四十年のベテラン教師である私にとって、彼らは更生指導が必要な問題児に過ぎない。


(オリバー、フレデリック、チャールズ、そしてエドワード殿下……覚悟なさい。わたくしが学園に戻ったら、あなたたち四人に、教師として『真の倫理』と『人の道』を叩き込んであげるわ!)


 『美人は七難隠す』というけれど、わたくしの場合、この美貌で隠せるのは毒舌くらいのものよ。教師としての厳しさまで隠せると思ったら、大間違いだわ。


 六十二年の人生経験と四十年の教師経験。さらに、相手の逃げ道を塞ぐだけの知性と、正論を武器にする覚悟もある。


(エドワード殿下。あなたたちが都合よく作り上げた『嫉妬深くて愚かな令嬢』は、もういないわ。これからあなたたちを待ち受けるのは、悪事を見逃さず、理屈の通らない言い訳を一つずつ潰していく、筋金入りの元教師よ!)


 私は三人が教えてくれた今の『クラスの現状』を頭に叩き込み、不敵な笑みを浮かべた。


「ありがとう、三人とも。これからも力を貸してね」


 私が微笑むと、ヤスミンたちは顔を見合わせ、やがて晴れやかな笑顔で頷いた。


 こうして、私の学園復帰に向けた準備は整った。


「面白かった」と思っていただけましたら、

・ブックマーク

・作品ページ下部の「⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎」欄にて

ポチッとクリックしていただけますと、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。