光の女には気をつけろ
エミリアとカフェバーで飲みながら、本の話に花が咲く二人。
話の流れで放ったエミリアの言葉にニゲルは何を思うのか。
◯登場人物
ニゲル
24歳。闇属性。
中央都市リーウルスのC区画の雑貨屋で働く。
エミリア
38歳。光属性。
ニゲルと同じく、リーウルスのC区画のマッサージ店にて働いている。
「恋愛は……」
僕はそのあとの言葉に詰まった。
恋愛はします。僕のこの脳天気な脳内の悪魔はなぜか、その恋愛の相手が僕だと言っていた。
「……くん? ニゲルくん?」
「あっ、すみません。少し酔いが回ってきたのかぼーっとしちゃってました。エミリアさんはまだまだ綺麗だし、とても可愛らしいですよ」
「あはは、ニゲルくんもお酒そんなに強くないのかな? 私も普段はあまり飲まないから、何杯か飲むとぽっとしちゃうの。そうそう、ニゲルくんさっきも言ったけども、あまり歳上のオバサンをからかっちゃダメですよ〜。ニゲルくんみたいなシュッとしたイケメンさんに言われたら、すぐ本気にしてしまうんだから」
エミリアさんも少し酔いの勢いもあってか、良く話しているような気がした。でも向かい合わせに座った彼女が言葉を発している唇は、とても可愛らしくて……
「僕は嘘と社交辞令は嫌いなので、思ったことを言いますよ。なので、本気にしてくれて……いいですよ」
「はいはい、ありがと。ニゲルくんは優しいからモテるでしょ? あっ、そうそう、これ本のお礼にと思って持ってきたの」
彼女は持ってきていた小さめのショルダーバッグから小さな紙包みを取り出す。
「カモミールティー、ニゲルくん調べてたでしょ? 図書館で。あと、一緒に柚子のジャムを入れてるからそれをティースプーンで一匙入れると飲みやすいよ」
エミリアさんの香り。
「わっ、ありがとうございます。僕の働いてるお店で扱ってないから問い合わせようと思ってたくらいなんですよ」
「あはは、そこまでしなくてもいいでしょ。B区画にね、ハーブティーとか、お茶系の品揃えが多い雑貨屋さんがあるから、今度よかったら一緒に行く?」
「あっ、行ってみたいかも。ありがとうエミリアさん、この本も元は図書館の本なのにね。あ、返却は一週間後ですよ〜」
僕はエミリアさんからのプレゼントを受け取りながら答えた。
その後も本の話とか、ハーブの話、彼女がマッサージ店で働いていることなどを聞いた。
◇ ◇ ◇
次の約束とかを具体的にはせず、エミリアさんと別れた。
なんというか……次に会わないと行けない。そういうような約束は嫌だったからだ。偉そうな言い方かもしれないが、心から会いたいと思ったり、話をしたいと思う相手なら、自然に行動に出るような気がする。
それを約束という束縛で縛ることはしたくない。
それに、どちらにしても図書館に行けば会えるような気はしていたからだ。
家への帰り道、コンタクトの知らせが来た。
「なに〜? さっきお酒飲んだ帰りで仕事の話はやだよ〜」
『ニゲルさん、おつかれさまです。あ、昨日は無事に処理していただいて、ありがとうございます。ボスも喜んでましたよ』
「んー、喜ぶほどのことでもないような……まぁ最近は機嫌いいからね」
『そうなんですね。あ、ボスからの伝言なんですけどね……光の女には気をつけろ、とのことです』
光の女……
「あ、そうなんだ。大丈夫大丈夫、特に何もないよ〜。じゃあ切るよ」
コンタクトを切って、僕は歩く速度を少しゆっくりしながら考えた。
光の女に気をつけろ。エミリアさん?
まぁ闇属性の僕達がそもそも対極の光属性持ちの人達と関わることのほうが少ないのは少ないんだけども、でも……
今のところ彼女からは何の怪しさもないし、心の奥底に秘めたものも僕には感じない。
仕事に支障が出るとか、そういうことかな……
もちろんボスには、拾ってもらい、育ててもらった恩もある。これから一生をかけて恩返ししていくつもりだ。でも……僕は自分の心に嘘はつきたくない。
僕がずっと前から抱えていた、いや、今も抱えているこの闇を。
きっとあの人なら、彼女なら照らしてくれると思ったんだ。エミリアさんから貰った包みを取り出し、包みの上からカモミールの香りをそっと嗅ぐ。
優しくて爽やかな香り。カモミールの香りは緊張をほぐしリラックスさせる効果があると言っていた。確かにホッとする。
でも今の僕はこの香りを嗅ぐと、ちょっぴり切なく。そして、今まで感じたことのない己の欲望が湧き上がってくる気がした。
「また、あいたいな」
僕は、声に出して言った。
食事の帰りに受けたコンタクトで聞いた伝言、
『光の女に気をつけろ』
果たしてそれはどういう意味なのか。
ただ、ニゲルの中では、その意味がどうであれ、
自身の中で抑えることのできない気持ちが芽生えてきていることを知った。




