失意の翌日
ニゲルは今までの自分の生き様を振り返り、
そして、涙する。
いつの間にか寝てしまっていた。
◯登場人物
ニゲル
24歳。闇属性。
中央都市リーウルスのC区画の雑貨屋で働く。裏の顔は暗殺稼業
僕は雑貨屋のカウンターに突っ伏したまま、寝てしまっていた。
外はもう、明るくなっている。
組織の回収班は、無事に後片付けが出来ただろうか。彼女は……
コンタクトを鳴らす。
『ニゲルさん、大丈夫ですか?』
「ん? 寝てただけだよ、大丈夫。あれから何か進展はあった?」
『それなんですが……回収する前にやられてまして。きっと、相手側もかなり警戒しているようです』
そうなんだ。でも僕はもう、そのことにもあまり興味が湧かなかった。なぜだか頭はスッキリしている。ぐっすり寝たからかな。
「わかったよ。引き続き待機しておくね、何かあったら知らせるよ」
コンタクトを切る。
◇ ◇ ◇
待機しておくと言ったんだけど、僕は図書館に向かっていた。特に何かを探しに行くわけではないんだけども、彼女の。エミリアさんとの思い出の場所に足を運びたかっただけなのかもしれない。
そういえばA区画の依頼。王国騎士団の幹部というのが、例のスパイを裏で糸を引いているやつなのか。結局こちらが狙っていることを知り、警戒しているということか。
図書館に着いて、僕は癖のように、いつもの本のある書棚の方へ向かう。
微かに……だが。
カモミールの香りがする気がした。
多分だけど、騎士団シリーズの並んでいる辺り……そういえばあの時、僕がずっと借りていた第五章をエミリアさんに渡してから、それからは彼女がずっと借りていたはず。
その王国騎士団シリーズの騎士団内の恋愛について描かれた第五章が。
書棚に納められていた。
僕は反射的にそれを手に取る。
王国騎士団の女性騎士団長と、騎士団の見習いの若者が恋に堕ちる話。
この第五章から、カモミールの香りがした。
「エミリアさん……」
第五章のページをパラパラと捲っていく。その真ん中あたりに、小さなメモが挟まっていた。
——光は闇の全てを受け入れたもう。一泊宿にて、正午に待つ。
「エミリアさん!!」
全く確信はないけど。僕の勝手な想像かもしれないけども。
僕はそのメモを抜き取り服のポケットに入れ、すぐにC区画を目指した。ホントは全速力で行きたかったけども、念のために目立たぬように、ゆっくりと、遠回りをして、向かった。
やはり、僕が始末した光の女は……
しばらくして、C区画の外れの一泊宿に辿り着く。
能力を使うまでもなく、彼女がいる部屋はわかった。僕は扉を開けて、部屋に入った。
そこには、僕がずっと会いたかった人がいた。
「ニゲルくん……来てくれたんだね」
「エミリアさん……」
たくさん聞きたいことはあった。でも、でもまずはエミリアさんをこの肌で感じたかった。僕は彼女の側に駆け寄って、強く、抱き締めた。
「んっ……ニゲルくん。ごめんね、急に居なくなって」
「ううん、ううん。大丈夫だよ。めちゃくちゃ会いたかった」
「私もだよ。でも、ニゲルくんに私。たくさん謝らないといけない」
きっと、エミリアさんも。何かを打ち明けようとしてくれているんだろう。
「いや、僕もだ。僕はエミリアさんを殺してしまったんだ。ううん、エミリアさんみたいな人を……」
一瞬、彼女は驚いた顔をして。でも、何故か安心したような表情にも見えた。そして、僕のことを優しく抱き締め返してくれた。
「ニゲルくん。驚くかもしれないけども、あなたが殺したという、私に似ている女性は……私の双子の姉なの」
何だって!!?
「たくさん聞きたいことや、言いたいことあるかもしれないけども、私の話をまず聞いてもらっていいかな?」
僕は黙って頷く。
「前にニゲルくんのお話を聞いた時に、ニゲルくんが孤児だったという話を聞いたじゃない? 実は……私と、私の姉も孤児だったの。孤児院で会っていなかったのは、私達とニゲルくんが年齢差があるからだね。ニゲルくんが来る前に、私達は外に出ていた」
エミリアさんと……その双子の姉も孤児。
「ニゲルくんの組織のことは詳しくは知らないけども、なんとなく私達の事を聞いていたとしたらだけど……私達と言うか、私の姉は王国騎士団のスパイの仕事をしていたの」
姉が王国騎士団のスパイ。では、やはりあの女性はスパイで間違いなかったのか。でも、じゃあエミリアさんは……??
「姉がスパイなら私は……となるよね? そう、私は直接のスパイという活動はしてなかったんだけども、ニゲルくんも知ってる通り、マッサージ屋さんで働きながら、そこに通うお客さんから情報をたまに聞き出したりしてたの。姉の補助みたいなものかな」
なるほど……マッサージ屋さんの場合、平民だけでなく、客には貴族もいる場合もある。常に情報が入るわけではないにしても、間接的な情報収集は可能なのかも。
「でね。最近というか……少し前に姉から言われたのは、王国騎士団を直接狙う悪い奴がいて。その悪い組織の情報を得たいと言われたの」
「エミリアさんは、それで僕と……?」
「ううん、ううん。違うの! ニゲルくんが打ち明けてくれたのはつい最近だったけど、決してその暗部組織の情報を得るためにニゲルくんに近づいたわけじゃない」
それは僕にもわかった。僕が彼女と出会った時は、まだA区画の依頼は受ける前だったからね。
「うん、それはエミリアさんを信じるよ。でも引っかかるのは、エミリアさんは……お姉さんのスパイのお手伝いは前からしていたんだよね?」
僕のことを知らなかったにしても、王国騎士団とは関わりがあることになる。
「さっき、ニゲルくんが私の姉を殺したことを聞いた時。薄情かもしれないけど、私、実はホッとしたの」
どういうことだ?
「一緒にご飯に行った時に話したこと覚えてるかもだけど、私、結婚はしてたことあって、今は別れてるって言ってたでしょ? その元旦那が、実は騎士団内の人間で……姉はそれを知っていたから、それで私を強請っていたのよ」
なかなか、ヤバい姉だ。実の妹を強請るなんて。
「もちろん、私も脅迫される筋合いはなかったんだけど、揉めたくもなかったのもあって、嫌々ながら姉の言いなりになってたんだ……」
「じゃあ……今はエミリアさんを縛るものは何もないということなの?」
そうではないことは分かっていたけど、僕は聞いてみる。
「姉からはそうだね。でも、王国騎士団と……ニゲルくんのいる組織からと、両方狙われることになるかもしれない。姉のことは知ってるわけだから」
そうすると、僕も立場は似たようなものだな。
「わかったよ。エミリアさん、こっちにきて……」
彼女の手を引き、部屋のベッドにいざなう。
「ニゲルくん……」
そして、そのまま彼女をベッドの上に寝かせ、その上に覆い被さった。そして、そのまま彼女に口づける。
「会いたかったよ」
エミリアさんは、僕を全身で受け止めてくれた。




