消えた光の女
ニゲルはエミリアに真実を話す。
そして、何か話そうとするエミリアを止め、
ただ、何も言わず抱いた。
そして、目が覚めると……
◯登場人物
ニゲル
24歳。闇属性。
中央都市リーウルスのC区画の雑貨屋で働く。裏の顔は暗殺稼業
エミリア
38歳。光属性。
ニゲルと同じく、リーウルスのC区画のマッサージ店にて働いている。王国のスパイかもと疑われているが……?
目が覚めると、エミリアさんは居なくなっていた。
ただそこには、微かなカモミールの香りが漂っているだけだ。やはり彼女は……いや、僕の話を聞いてただ怖くなっただけ、ということもあるよな。
あの時エミリアさんは何を言おうとしていたのか。ホントは僕に何か打ち明けようとしてくれていたんだろうか。
きっと僕はそれがわかっていたんだ。そして僕は、その言葉を聞きたくなかったんだ。だから、何も言わず彼女をただ抱いた。僕は卑怯者だ。
コンタクトが鳴る。
『あれ、明日の朝にしか取れないんじゃなかったでしたっけ?』
「逃げられちゃったよ、例の彼女。ごめん、信じてるかどうかは別として、まぁまぁ彼女に話してしまった」
相手は、少しの間黙る。
『マズイですね……その光の女がスパイでなかったとしても、あまり良くないですよ。早めに始末しないとですね』
そりゃそうだよね……自分でも、何故あんなにべらべら喋ってしまったのか、謎だ。
もしかしたら、何もかもを終わりにしたかったのかもしれない。今までの嘘にまみれた仮初めの姿の僕を。そして、僕自身を。僕のありのままを受け入れてくれた彼女になら、洗い浚い話してしまってもいいと思ったんだ。
でも、彼女はそうではなかった。
もうこれ以上、話したくなかったのかもしれない。顔も見たくなかったのかもしれない。でも、それなら何故、あの時……僕のことを抱きしめてくれたんだろう? 僕の愛に応えてくれたんだろう?
『ニゲルさん? ニゲルさん? 聞いてます?』
「あ、ごめん。ぼーっとしてたよ。何か言った?」
『例の光の女、こちらで手配しましょうか? それとも……?』
どっちみち、このままでは大変なことになる。
「元々僕の撒いた種だからね。僕がやるよ」
『わかりました。できれば早急にお願いしますね。例の件もあるので』
もうエミリアさんにも話してしまったし、今更隠しても仕方ないので言うと、僕は暗部組織の一員だ。
と言っても僕の場合は、拾われた身なのもあるけども、ただ言われたことを実行する駒の一つだ。王国に不利益をもたらす、もしくは不必要な人間を監視したり、陥れたり、時には始末する。
こそこそ闇に隠れて動く、何も自慢できるようなこともない仕事だ。
普段いる雑貨屋はもちろん隠れ蓑なので、実質ほぼ稼働していない。一応ちゃんと店舗としては成り立ってはいるけども。
コンタクトを切ったあと、僕は身支度をした。
この夜のうちにカタをつけなければ。
◇ ◇ ◇
C区画のあたりをなるべく音を立てずに移動する。
商業区画のB区画は夜でも割と賑わっているが、C区画は日が沈むと割とひっそりとしている。
エミリアさんも、たぶんこのC区画にまだいるはずだ。物音は立てないように、周りの音や動きには注意深く。
闇属性の特性で、物の動きに敏感に反応できるようにはなっている。あと、常時は使えないが暗視能力もある。どちらかというと日中よりも暗闇のほうが僕らは活動しやすい。
C区画全体の物の動きを捉えつつ、光の属性、そして、女性にターゲットを絞る。
居た。
何やら、物陰に隠れているような気もする。
逃げている? それとも、何かを探っている? やはり、スパイなのか。
音を立てず、少しずつ、少しずつ、彼女に近づく。
僕の能力の有効範囲は、目視で全体を捉えた瞬間だからだ。
エミリアさん。
エミリアさん。
心から、愛している。
だからこそ、僕のこの手で。
近づくごとに、少し彼女の雰囲気とは違うような気もしたが、間違いはないはず。背丈も年齢も見た目も、エミリアさんだ。
夜の暗闇のせいかもしれない。そして、街の大通りから少し外れた、脇道へ入ったところに彼女はいた。
能力を使う瞬間、僕はつい声が出てしまった。
「エミリアさん……ごめんね」
僕は自分の体の前で自らの拳を握りしめる。そして、標的の心臓に穴を開ける。僕の最大の闇属性の能力はこれだ。
だいたい数秒で死ぬ。
「エミリア……!?」
彼女は、驚愕の表情をしながらそう言った。
そしてその場に崩折れた。
ニゲルは組織のために、自分の手でエミリアを始末することにする。
そして、C区画で彼女を見つけた。
ただ、事切れる前に彼女が放ったひと言は……?




