7-1
「わたくしが戦う!?」
セレスティーヌが立ち上がった。
「大声を出すな。そして立ち上がるな」
アルフォンスに言われて慌てて座り直すが、とても平静ではいられない。
レナルドたちも目を丸くしている。それほどアルフォンスの話は突拍子もなかった。
驚くみんなに向かって、落ち着いた声でアルフォンスが話し出す。
「王国で暗躍する”企む者”の目的は、おそらく国家の転覆だ。だからこそ、第二王女の悪評を広めたり、各地で反乱を起こして民の不満を煽ってきたんだろう」
皆が小さく頷く。
「第二王子も”企む者”に利用されている可能性が高い。短慮で傲慢な王子が次の王になると決まれば、国民の不満が高まるのは間違いないからな」
オレリアが顔を曇らせる。
「第二王女の首を撥ねて歴史を再現するかわりに、第二王子の首を刎ねて英雄になる。”企む者”の新しいシナリオは、そういうことなのかもしれない」
レナルドがゴクリと唾を飲み込んだ。
「第一王子が暗殺されたのなら、王の暗殺だってあり得る。王が死んだ混乱に乗じて事を起こしてもいいし、新王が悪政を始めてから旗を揚げてもいい。いずれにしても、”企む者”が表舞台に立つ下地は整ったってことだ」
セレスティーヌが不安げに聞いた。
「まさか、モーリスも」
震える声に、アルフォンスが答えた。
「第三王子は生かしておくだろう。性格的に害はないし、事を成した後、旧勢力が第三王子の元に集結してくれれば、それを一網打尽にできるからな」
ひどい言いようだが、残念ながらアルフォンスの見解は正しいように思える。
セレスティーヌもほかの三人も、青ざめた顔でアルフォンスを見た。
「状況は絶望的だ。”企む者”が圧倒的優位に立っている。だが」
張り詰めた空気の中で、アルフォンスがふいに問い掛けた。
「一つだけ、”企む者”の思い通りになっていないことがある。それは何だと思う?」
皆が首を捻るが、答えは出てこない。
アルフォンスが、にやりと笑いながら言った。
「それは、第二王女が生きているってことさ」
全員が目を見開いた。
「第二王女が兵を上げる。大義名分は、第二王子の悪行を断罪し、政権内にいる”企む者”の存在を明らかにして、王国の秩序を取り戻すこと。順調に進んでいたシナリオにとんでもないイレギュラーが発生するんだ。”企む者”はさぞかし慌てるだろうよ」
皆の顔に希望が浮かんだ。
しかし、セレスティーヌは冷静だった。
「兵はどうやって集めるのですか? わたくしが声を掛けたところで、動いてくれる人物がいるとは思えません」
アルフォンスが驚いたように答える。
「お前、なかなか鋭いな」
「わたくしを馬鹿にしているのですか?」
不機嫌になるセレスティーヌをアルフォンスが笑った。
「お前の言う通り、第二王女の呼び掛けに応える者は少ないだろう。王国西部を除けば、お前の評判は最悪だからな」
「言われなくても分かっています」
不満顔に向かってアルフォンスがダメ押しする。
「特に、南部では第二王子のおかげで王族自体に嫌悪感を抱く者も多い。挙兵なんて夢のまた夢だ」
「だから、その状況でどうやって兵を集めるのかと聞いているのです!」
顔を真っ赤にして迫るセレスティーヌに、アルフォンスが答えた。
「南部の諸侯から信頼の篤かった、ビゼー伯爵を探し出して説得する」
「ビゼー伯爵?」
「そうだ」
アルフォンスが力強く頷いた。
「伯爵が第二王女を旗頭に兵を挙げれば、多少なりとも賛同する者が現れるだろう。陣営がある程度形になれば、それでいい。戦いに勝つことが目的じゃないからな」
「?」
セレスティーヌが首を傾げた。
「目的は、第二王子の暴挙と”企む者”の存在を公にすること。挙兵の事実とその大義名分を、王国中に知らしめるんだ」
「あ、なるほど」
頷くレナルドにアルフォンスが顔を向ける。
「兵は挙げるが、戦いは極力避ける。討伐軍が来ても、まともにぶつかる必要はない」
セドリックが身を乗り出した。
「つまり、兵を挙げた時点で目的の半分は達成できるということですね」
「その通り。第二王子の暴挙をもみ消すことができなくなれば、王位継承は棚上げになる。名指しをされた”企む者”も動きにくくなるだろう。その状況を作り出すことが重要だ」
「そうなれば、国王陛下やカリエール卿も、セレスティーヌ殿下の話に耳を貸さない訳にはいかなくなりますね」
二人のやり取りで、セレスティーヌも納得した。
「ですが、ビゼー伯爵はどうやって見付けるのですか?」
オレリアが疑問を投げ掛けた。
それを聞いたレナルドが、セドリックに聞く。
「伯爵がいる場所とか、見た目の特徴とかは分かるのか?」
「使用人の証言から、伯爵が反乱前に屋敷を離れたことだけは間違いありません。ただ、向かった先は不明です。伯爵の特徴は、初老の男性で、白く長い顎髭があり、左手に傷があることくらいでしょうか」
「その特徴で探すにしても、捜索範囲が絞れないことには厳しいな」
レナルドが難しい顔をして腕を組んだ。
「それについては俺に考えがある。ただ、少し時間が掛かるかも」
アルフォンスが言い掛けた、その時。
「わたくし、その男性に心当たりがあるのだけれど」
全員がびっくりしてセレスティーヌを見た。
「つい先日、この町で」
セレスティーヌが、アルムセインのティーセットを売ろうとしていた初老の男性の話をする。
「凄い偶然だな」
アルフォンスが呆れたように言った。
その顔を引き締めて、アルフォンスが突然立ち上がる。
「じゃあ行くか」
「行くって、どこへ?」
「伯爵を探しにだ」
「今からですか?」
「今からだ」
アルフォンスが歩き出したのを見て、セレスティーヌも慌てて立ち上がった。
レナルドたちも立ち上がるが、アルフォンスがそれを制する。
「大勢で探すと目立つ。お前たちはここで待っていろ」
そう言うと、アルフォンスはさっさと部屋を出ていってしまった。
「ちょっと!」
セレスティーヌが駆け足で追い掛ける。
宿の外でようやく追い付いてきたセレスティーヌに、アルフォンスが言った。
「お前、天運って言葉、知ってるか?」
「何ですか、急に」
怪訝な表情のセレスティーヌを、真面目な顔でアルフォンスが見る。
「たぶん、お前は天に愛されているんだよ」
「はい?」
驚くセレスティーヌを見て、アルフォンスが楽しそうに笑った。




