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村から戻る途中も、食事をしている間も、寝床に入った後もセレスティーヌは考え続けた。
自分に何ができるのか、どうするべきなのかをひたすら考えた。
夜も更けた頃、セレスティーヌは結論を出した。
明日、体調不良を理由にここを発つ。
同時に、セドリックを先行させてアルフォンスと連絡を取らせる。
アルフォンスと話した後は、王ではなくカリエール卿に相談するべきだろう。
その後は……。
方針を確認すると、ふぅと息を吐き出してセレスティーヌは目を開けた。
カーテンの向こうからはオレリアの寝息が聞こえてくる。
とにかくここから離れなければ
もう一度決意して、セレスティーヌは暗闇に目を凝らした。
晴れていれば布越しに月明かりを感じるのだが、今は何も見えない。外は曇っているのだろう。
雨が降らないといいのだけれど
そんなことを思った時、ふいに入り口で物音がした。
警戒するセレスティーヌの耳が、オレリアの声を捉える。
「何事ですか?」
ぐっすり眠っていたと思ったのに、あのかすかな音で目を覚ましたらしい。
「すぐに殿下を起こして下さい」
セドリックの声だ。
即座にセレスティーヌが体を起こす。
「わたくしなら起きています」
緊張で強張る心にムチを打ち、腕に力を込めて、セレスティーヌはカーテンを開けた。
入り口と反対側の布をナイフで切り開いてセレスティーヌたちは外に出た。天幕の裏側を警護する二人の騎士が、こちらを見てわずかに頷く。
先導するセドリックも、続くオレリアも何も言わない。薄雲の上でぼんやり光る月の明かりを頼りに、セレスティーヌは丘を下りていった。
辿り着いたのは麓の木立。そこに馬につながれた荷馬車があった。
荷馬車の向こうから、軍馬に跨がったレナルドが現れる。
「何があったのですか?」
声を抑えてレナルドが答えた。
「親衛隊が出撃準備を始めました。鎧の上から味方を識別するための白い胴着を着ていたので、夜襲に向かうものと思われます」
「夜襲?」
ここは戦場ではないのだ。夜襲を仕掛ける相手などいないはず。
と思ったセレスティーヌが、突然の喊声に驚いて振り向いた。丘の上の、つい先ほどまで自分がいた天幕の周辺で何かが起きている。
金属がぶつかり合う音がした。それに混じって、切羽詰まった声が聞こえてくる。
「親衛隊を天幕に近付けるな!」
「命に替えてもセレスティーヌ殿下をお守りしろ!」
目を見開くセレスティーヌにレナルドが言った。
「荷馬車にお乗りください。騎士団が時間を稼いでいる間に、できるだけここから離れなければなりません」
声も出せないセレスティーヌの腕を、オレリアが強く引く。
「さあ、お早く」
混乱したままセレスティーヌは荷馬車に乗り込んだ。
オレリアも素早くそれに続く。
セドリックが御者台で手綱を握った。
「行くぞ、セドリック」
「はい」
薄闇の中を、馬と荷馬車が丘を背にして走り出した。
荒れ地を走る馬車は揺れに揺れた。舌を噛まないよう口を閉ざしていたセレスティーヌは、馬車が街道に出たところでようやく息をつくと、御者台のセドリックに聞く。
「こうなることが分かっていたのですか?」
「いいえ。ただ、アルフォンスさんから”常に最悪の事態に備えておけ”と言われていましたので」
予想外の名前が出てきて、セレスティーヌが目を見開く。
「レナルドさんとオレリアさんに相談した上で、騎士団の皆様にも協力いただいて、準備だけはしておいたのです」
「そうだったのですね」
皆が冷静に対処していた理由が分かった。
「助かりました。ありがとう」
「とんでもないことでございます」
答えて、セドリックが前方を指さす。
「この先の小屋で休憩します。そこで、殿下には目立たない服に着替えていただきます」
「分かりました」
「それから、殿下の服はオレリアさんに着ていただきます」
「オレリアに?」
「はい。いざという時、オレリアさんには囮になっていただきますので」
「そんな!」
驚くセレスティーヌの前で、オレリアが静かに言う。
「それが私の務めなのです。どうかお気になさらずに」
薄闇の中でオレリアが笑った。
それを見て、セレスティーヌは拳を握る。
王都に戻るとか、アルフォンスに連絡を取るとか、そんな悠長なことを言っている場合ではなかったのだ。
事態はもっと深刻だった。
それにセドリックたちは気付いていた。
そして、自分はまた何もできなかった。
自己嫌悪でセレスティーヌが激しく落ち込む。
だが、セレスティーヌには落ち込んでいる時間すらなかったのだ。




