表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/48

5-6

 村から戻る途中も、食事をしている間も、寝床に入った後もセレスティーヌは考え続けた。

 自分に何ができるのか、どうするべきなのかをひたすら考えた。

 夜も更けた頃、セレスティーヌは結論を出した。


 明日、体調不良を理由にここを発つ。

 同時に、セドリックを先行させてアルフォンスと連絡を取らせる。

 アルフォンスと話した後は、王ではなくカリエール卿に相談するべきだろう。

 その後は……。


 方針を確認すると、ふぅと息を吐き出してセレスティーヌは目を開けた。

 カーテンの向こうからはオレリアの寝息が聞こえてくる。


 とにかくここから離れなければ


 もう一度決意して、セレスティーヌは暗闇に目を凝らした。

 晴れていれば布越しに月明かりを感じるのだが、今は何も見えない。外は曇っているのだろう。


 雨が降らないといいのだけれど


 そんなことを思った時、ふいに入り口で物音がした。

 警戒するセレスティーヌの耳が、オレリアの声を捉える。


「何事ですか?」


 ぐっすり眠っていたと思ったのに、あのかすかな音で目を覚ましたらしい。


「すぐに殿下を起こして下さい」


 セドリックの声だ。

 即座にセレスティーヌが体を起こす。


「わたくしなら起きています」


 緊張で強張る心にムチを打ち、腕に力を込めて、セレスティーヌはカーテンを開けた。




 入り口と反対側の布をナイフで切り開いてセレスティーヌたちは外に出た。天幕の裏側を警護する二人の騎士が、こちらを見てわずかに頷く。

 先導するセドリックも、続くオレリアも何も言わない。薄雲の上でぼんやり光る月の明かりを頼りに、セレスティーヌは丘を下りていった。

 辿り着いたのは麓の木立。そこに馬につながれた荷馬車があった。

 荷馬車の向こうから、軍馬に跨がったレナルドが現れる。


「何があったのですか?」


 声を抑えてレナルドが答えた。


「親衛隊が出撃準備を始めました。鎧の上から味方を識別するための白い胴着を着ていたので、夜襲に向かうものと思われます」

「夜襲?」


 ここは戦場ではないのだ。夜襲を仕掛ける相手などいないはず。

 と思ったセレスティーヌが、突然の喊声に驚いて振り向いた。丘の上の、つい先ほどまで自分がいた天幕の周辺で何かが起きている。

 金属がぶつかり合う音がした。それに混じって、切羽詰まった声が聞こえてくる。


「親衛隊を天幕に近付けるな!」

「命に替えてもセレスティーヌ殿下をお守りしろ!」


 目を見開くセレスティーヌにレナルドが言った。


「荷馬車にお乗りください。騎士団が時間を稼いでいる間に、できるだけここから離れなければなりません」


 声も出せないセレスティーヌの腕を、オレリアが強く引く。


「さあ、お早く」


 混乱したままセレスティーヌは荷馬車に乗り込んだ。

 オレリアも素早くそれに続く。

 セドリックが御者台で手綱を握った。


「行くぞ、セドリック」

「はい」


 薄闇の中を、馬と荷馬車が丘を背にして走り出した。


 荒れ地を走る馬車は揺れに揺れた。舌を噛まないよう口を閉ざしていたセレスティーヌは、馬車が街道に出たところでようやく息をつくと、御者台のセドリックに聞く。


「こうなることが分かっていたのですか?」

「いいえ。ただ、アルフォンスさんから”常に最悪の事態に備えておけ”と言われていましたので」


 予想外の名前が出てきて、セレスティーヌが目を見開く。


「レナルドさんとオレリアさんに相談した上で、騎士団の皆様にも協力いただいて、準備だけはしておいたのです」

「そうだったのですね」


 皆が冷静に対処していた理由が分かった。


「助かりました。ありがとう」

「とんでもないことでございます」


 答えて、セドリックが前方を指さす。


「この先の小屋で休憩します。そこで、殿下には目立たない服に着替えていただきます」

「分かりました」

「それから、殿下の服はオレリアさんに着ていただきます」

「オレリアに?」

「はい。いざという時、オレリアさんには囮になっていただきますので」

「そんな!」


 驚くセレスティーヌの前で、オレリアが静かに言う。


「それが私の務めなのです。どうかお気になさらずに」


 薄闇の中でオレリアが笑った。

 それを見て、セレスティーヌは拳を握る。

 王都に戻るとか、アルフォンスに連絡を取るとか、そんな悠長なことを言っている場合ではなかったのだ。

 事態はもっと深刻だった。

 それにセドリックたちは気付いていた。

 そして、自分はまた何もできなかった。


 自己嫌悪でセレスティーヌが激しく落ち込む。

 だが、セレスティーヌには落ち込んでいる時間すらなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ