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シャブラン公国兵を味方に付けたことで、この反乱の裏側が見えてきた。兵士たちの隊長が情報提供に協力してくれたのだ。
この隊は、シャブラン公国大公の直轄部隊だった。普段は首都を守る精鋭で、密命を受けて派遣されてきたという。
隊長が受けた命令は二つだ。
一つは、ロベール卿と協力して第三王子モーリスを捕らえること。ただし、第二王女のセレスティーヌは逃がすこと。
もう一つは、反乱後もこの地に留まって王国の反撃に備えること。
一つ目の命令はともかく、二つ目の命令の遂行は容易ではない。人質があるとは言え、王国がその気になれば地方領主の反乱など簡単に鎮圧されてしまうだろうし、そこに三百の兵が加わったとしても、焼け石に水としか思えない。
それを上官に問うと、王国からの反撃はないから心配するなと言われたそうだ。
上官が語ったシナリオは次の通りだった。
反乱後、人質を盾にしてロベール卿が王国に自治権を要求する。同時に、シャブラン公国がその後ろ盾となることを宣言する。
その混乱を利用して、王国内の”協力者”がクーデターを起こし政権を奪う。
政権奪取後は、ロベール領を一旦自治領とした上で、後日シャブラン公国の属領に組み込む。
この作戦が成功すれば、公国の悲願である大陸進出が叶う。命懸けで当たるように。
そう言われて隊長は送り出されてきた。
話し終えた隊長が、苦笑いをしながら言う。
「我が国の有力貴族の一人が、最近しきりに大陸への進出を主張しておりました。その貴族に押し切られて、今回の作戦が立てられたのかもしれません」
「その方は、国を動かすほどの力をお持ちなのですか?」
「大公の外戚に当たる方なのですが、その、何と申しますか、とにかく面倒な人物なのです」
「なるほど」
セレスティーヌも苦笑した。
「我が国は、昔から貴族同士の小競り合いが絶えませんでした。そんな国が大陸進出を夢見るなど、考えてみれば愚かなことです」
小さくため息をついた隊長が、ふいに背筋を伸ばす。
「くだらない国内事情のために、多くの部下を無駄死にさせるところでした。殿下のお申し出には、心から感謝を申し上げます」
隊長が頭を下げた。
「国内事情という意味では我が国も同じです。むしろ、きっかけは我が国側にあります。謝るべきはこちらですわ」
謙虚な返事を聞いて、隊長が微笑む。
「殿下が我が国の王女でないことが残念でなりません」
「あら、光栄ですわね」
セレスティーヌもにこりと笑った。
もし今回の反乱が成功していたら、王国は未曾有の混乱に陥っていたことだろう。まさに瀬戸際でそれを防いだと言える。”企む者”はシナリオを大幅に変更しなければならなくなったはずだ。
それはシャブラン公国も同じだ。
反乱は失敗し、兵士たちは捕らえられた。これは公国にとって非常にまずい状況だ。
開き直って王国に宣戦布告をする、などという博打は打てないだろう。そもそも国力は王国が上。まともに戦って勝てるはずがないし、”企む者”が同調するとも思えない。
公国が取り得る選択肢と言えば、今回の件を兵士たちの独断として片付けることくらい。つまりトカゲのしっぽ切りだ。そうなったら兵士たちは処刑を免れない。
だが、王国が兵士たちを”恩人”とし、公国に感謝をするとなると話はまるで変わってくる。処刑するどころか、兵士たちを英雄として扱わなければならなくなるだろう。
「両国の未来のために、お互い全力を尽くしましょう」
「はっ!」
表情を引き締めて隊長が敬礼をする。
大きく頷いて、セレスティーヌも表情を引き締めた。
隊長の証言を受けて会議が開かれ、その後、改めて領民に向けた発表がされた。
シャブラン公国から情報提供があったこと。
それによると、ロベール卿が何者かに騙されて反乱を起こした可能性があること。
情報提供の礼のため、セレスティーヌがシャブラン公国を訪問すること。
嘘と真実が入り交じる内容となったが、今後の茶番には必要な発表だった。
発表後、ロベール卿の親族は地下室から屋敷内の部屋へと移されて緩い軟禁状態となった。反乱に加担した兵士たちも全員解放された。
この時、親族と兵士たちには、アレットの死がセレスティーヌに起因するものではないことも伝えられた。
それを素直に受け取る者は少なかったかもしれないが、現時点では仕方ないだろう。残念ながら、真実がすべて明らかになるまでセレスティーヌへの恨みが消えることはない。
とは言え、一連の措置の結果、領民たちの間では王国に対する不信感が急速に薄らいでいった。
生活が落ち着いてきたこともあって、多くの民が第三王子の統治を歓迎するようになっている。
様々なことが慌ただしく動く中、セレスティーヌの旅の準備も急ピッチで進められていった。
それに先立って、シャブラン公国へは使者が送られている。
この度、貴国の兵士の勇気と決断によって反乱を抑えることができた
ついては、第二王女が訪問して謝意を伝えたい
使者を迎えたシャブラン公国はさぞや困惑したことだろう。
その使者の帰国を待つことなく、セレスティーヌの出発の日はやってきた。
従うのはたったの三人。
騎士レナルド。
小間使いセドリック。
そして、どうしても同行すると言って聞かなかったアンナ。
セレスティーヌを含めた四人を護衛するのは、シャブラン公国兵三百だ。
「姉上、どうかお気を付けて」
「わたくしよりあなたの方が大変なはずです。頑張るのですよ」
「ははは」
モーリスは半笑い。
モーリスには、中央からの使者や指示をはぐらかすという難しい役割が待っていた。
二人の後ろでは、騎士団長がレナルドの肩を叩いている。
「殿下を頼むぞ」
「はっ!」
険しい表情でレナルドが敬礼した。
皆に見送られて馬車が動き出す。
澄み渡る空の下、セレスティーヌ一行は西に向かって進み始めた。
第三章 了




