17の婚約
僕はハンナから気を失った先生を引き取る。
ハンナは不満だった表情はそびえる壁の高さに対する悲しみに変わった。
果てしない困難が絶望という感情ではなく、悲しいという心に変わる。
僕達は世界最強クラスとされるドナ先生にどこか依存していた。
サラは自分より遥かに強く、自分達の命を狙って来た相手。
魔法使いだからなんとか復活出来ただけで自分達を殺した相手でもあり、仲間3人は復活もできていない。
それでもドナ先生に導いてもらえれば勝てる為の道を見つけられるかも知れない。”ひょっとしたら”
その想いは確かにあった。
その望みはひょっとするような事はなく、予想通りハンナがドナ先生に完勝した事で潰えた。
いや、弟子が師匠を超えるなんて事はいずれ起こり得る事ではあるのだが、今サラと戦う力をつけるために時間を稼ぐ方法がないのだ。
先生をベッドに寝かせハンナを見送りに向かう。
ドナ先生の鍛えられた肉体、ハンナと戦った際の眼光は手負い獣。
先生はもう遥かに実力を越えられた後輩に全力を尽くしてくれた。守ろうとしてくれた。そこには感謝しかない。
結果として勝敗が予想を覆さなかったに過ぎない。
僕とハンナは別れのキスをする。
僕とハンナはもう前を向いている。
少なくとも前を向いた振りはできている。
前を向いた振りが出来る事が前を向く事。
どんなに困難でも、前を向く。壁は目の前にあり、希望は壁の向こうにある。
壁が思った以上に厚く険しいか分かっただけ。
エリーがいつ起きてくるか分からないため抱擁とくちづけを早くきり上げる。
妹のいる僕の家では普段は控えているが、今日そうしなかったはそれだけ2人が気持ちに整理をつけたかった証だろうか。
「あなたの師匠はあなたに壁の高さを認識させ直す為に私との勝負を受けてくれた。あなたは流石にニアさんのうちにはいけないから、ニアさんは私が治す。あなたはエリーちゃんを救う手を考えて。私達は2人。だから、私達はやるべき事を互いに任せられるの」
ハンナはまっすぐ僕を見据える。
僕はそれに答えるように強く頷く。
僕達はその日婚約をした。
妹が治ったら結婚する。そう約束した。
若さゆえのヤケだったのだろう。
小さな子が自分の親と結婚するという方がまだ近い婚約。30歳から成人とされるこの国で、まだ16と17の2人。
壁の困難さは変わらない。
壁に挑む事への恐怖だけは取り除く事ができた。




