航行不可能
まったり、穏やかな航海が始まってすでに五日が経ち、中継の港によっていた時の事だった。
「お客さん、すまんがここまでだ。どうやら、この先にある国が戦時中で航行できねぇみてぇなんだわ」
乗務員のモヒカンさんが言うには、陸を遠回りしていかなければ、目的地にはいけないらしい。
「まぁ、気長に行くか」
俺は、事情を他の四人に話さないまま、車を走らせる。
なんせ、この四人、寝てたからな。
バカめ、寝坊する方が悪いのだ。早起きは三文の徳ってね。まぁ、俺も起きた八時だったけど。
そのまま、町を通り抜け、車を走らせる。
「あれ当夜?船は?」
「無理になった。だからこれから陸路だ」
「あら、そうなの」
起きてきたノリスの質問に簡潔に答える。
ノリスは興味が向かず、あくびをしながら去っていった。
かくいう俺は、運転席にて運転をしている。どうにも、船旅中、何もしなさ過ぎて、自分が怖くなっている。もう少し、仕事をしておきたかった。
故に、ここから先は自分で運転だ。
やがて、他の三人も起きてきて、後ろがにぎやかになる。
そろそろ、港の近くの町を出て行こうという時、待ったがかかった。
イリアからだ。
何やら、買い物をしたいらしい。
「すみません、少し、この世界の料理が恋しくなってしまって」
だそうだ。
「あ、それ私も―」
同調するクリス。
「うむ、ここの食べ物はうまいが、久しぶりにあのまずい味も食べたい」
最後にはアリスにまで言われてしまい、一度止まることになった。
停車中、俺はキャンピングカーの機能について調べていた。
するとどうしたことか。このキャンピングカー、異世界転生ならではの仕様があった。
何と、外見を変えられるそうだ。
いやまぁ、部屋を作ったり、空間を作るなんてできてる時点でチートなのだろうが、それでも、この機能は非常に面白い。
何故なら、デフォルトのキャンピングカー以外、すべて、バス仕様なのだ。
深夜バスに市営バス、はては路線バス。
とりあえず、面白そうなので、深夜バスの二階建て使用にしてみた。
すると、外から見ると、黒い窓ガラスと青いボディーの、深夜バスのそれと全くの同じ外見だった。
運転席の隣の助手席が無くなり、バスによく見る決済する機器が鎮座していた。最も、仕様は変わっていないのか、ただ祐逸、金が必要ではなかった。切符の発行や、行先表示のタブレットなどはある。扉がエアーで開くようになったり、一階にあった和室はどこへやら、談話室のように、木製の椅子、ソファーなどと一緒に暖炉までついてきた。おまけに、二階には数個の部屋が出現していた。
明かりは、左右に模様の入ったガラス電球で、レトロな雰囲気が醸し出されていた。それでいて、窓が大きく、向こうから見えない為か、落ち着きがあり、中は非常に明るかった。
これは、中々に自分のセンスに会っている。
雰囲気に合わせるため、俺も運転席の下に置いてあった制服を着て、帽子をかぶる。
にやけながらバックミラーを見ると、割と似合っていた。次にタブレットを操作して、号数を特バス系統、特別バスの略称にし、行先を回送にした。
次に、魔法的要素で、バス停の幻影が出来るとのことなので、適当に、商店前と書いて、クリックした。すると、バスの乗り口の前に、バス停留所の置物が置いてあった。
一度キャンピングカーを降りて、触ってみると、質感もあった。
だが、これは幻影らしい。
そこで、俺はようやく周りの目を引いている事に気が付き、自慢したのだった。
やがて、四人が帰って来た。
「ねぇ、トウヤさん。これどうなってるの?」
「お?気づいたか。今日から、キャンピングカーの仕様はこれで行く!と言うか、ノリスが知らない機能ってあったのか?それはちょっと怖いっていうか・・・」
「う~ん、でも本当に記憶には無いわね。オプション設定の時何か、触っちゃったのかしら?」
首をかしげながら中に入っていくノリス。
そのまま普通に談話室でくつろげる辺り、何も考えていなかったのだろう。
もうどうにでもなれ。
中々に気に入った俺は、このまま走らせることにした。
「これはまた、ずいぶんと変わった外装だな」
アリスが、ため息をつきながら、見上げていた。どうやら、このバスの魅力に気が付いたらしい。
「まあ、まあ、はいこれ、皆の部屋の鍵」
四人に、四人の部屋の鍵を渡す。
どれも、番号が書かれており、それぞれ201、202、203、204と書いてある。
正直誰がどの部屋なのか知らんが、この四つだけすでに埋まっていた。
「で、買い物は終わったか?」
俺は呆けている四人に話を振る。
「え、ええ、終わりました。こちらです」
イリアが示した場所には、抱えるほどの大荷物があった。
「よし、クリス、ちょっと手伝ってくれ、三人は中入っててくれ」
「えぇ、面倒くさいんですけど」
「いいだろ、お前、唯一何もやってない?」
「うっ」
そう、コイツは一緒に旅をする間何もやっていないことに気が付いた。
だから、ここでこき使おう。
「で、何をすればいいの?」
「その荷物を荷物入れに入れるの」
俺は、トランクを開け、側面に行く。
「ここに入れてくれ」
「え~、前は中に入れてたじゃん」
「これは中からでも取り出せるが、この仕様にしたからには、ここから入れたい」
「はぁ、分かったよ」
と言うことで、クリスに荷物を入れてもらい、無事出発の準備はできた。
幻影を切り、クリスが乗ったことを確認して、扉を閉める。
定型文を読み始める。
「扉が閉まりまーす。ご注意ください。運転中の移動は大変危険ですので、おやめくださーい。それでは、特別バス、発車いたしまーす」
丁寧にアクセルを入れ、バス仕様のキャンピングカーは走り出す。
「ちょっとー!この部屋誰よ!酒瓶がいっぱいなんですけどー!」
ノリスの叫びが聞こえたのは、空耳だろう。




