犠牲
「傀儡に任せるという事は、調整者は死なないということか?」
デスペナがないのは、都合がいい。
何度でもやり直しが効くから。
「それは、もちろん。調整者様の身体には傷一つつきません」
身体には……、
なぜ限定したんだろうか?
「まさか、心に傷がつくとでも?」
僕はにやりと笑った。
なぜ笑ったって?
もちろん、格好いいからだ。
「今回の調整者様は、鋭いですな。その通り、死にはしませんが、元の世界に戻ります」
「はははは。じゃあ、わざと負けて死ねばいいじゃないか」
「理屈ではそうなります。しかし、死ねば心が失われます」
「元の世界に戻り、心が失われる……、いったいどういう事だ」
「いえ。心が失われると言っても、大したことではありません。勉強もできるし、笑えるし、喜ぶこともできる。恋もできます。ただ……」
「ただ……」
「その、どう言えばいいのでしょうか。
調整者様の、独特な発想や、想像力が、失われるのです。
まぁ大したことではありません。
思春期特有の感性や想像力、そういうものが消えるだけ」
ちょっと待ってくれ。
それじゃあ。
僕の色んな設定とかはどうなる。
あの積み重ねがなかった事になるのか。
僕は数日前の事を思い出した。
……
「もう剛。この段ボールで作った剣のおもちゃ捨てなさいよ」
ママが言った。
「駄目だよ。まだ捨てちゃだめ、すごいいい出来なんだ。
SNSでもいいね!5つも貰ったんだよ」
「来年は、高校受験でしょ。いつまでも遊んでばかりいないで、現実を見なさい」
「なんだよ。現実、現実って煩いな」
「ママはあなたの事を、思って言ってるんでしょ」
「僕の事を思うなら、自由にさせてよ。
この剣だって、小学校の頃の絵の具で作ったんだし、お小遣いも貯金してるんだから」
「ママはそのエネルギーを、勉強につかいなさいって言ってるの!」
「僕の人生だ。僕の自由にしてもいいじゃないか。勉強だって、ちゃんとしてる」
「あなたね。そのエネルギーを、勉強に使えば、もっと成績をよくできるのよ。もったいないと思わないの」
「思わないよ。僕はね。ちゃんと考えているんだ」
「もう。勝手にしなさい」
ママはそう言った。
いままで何度、同じ台詞を吐かれたことだろう。
ママの勝手にしなさいは、
今回だけは見逃してやろう。
と同じ意味だと、僕は感じていた。
……
「想像力が消える。そんな事許せるはずがないじゃないか」
僕は言った。
「ははははは。何の役にも立たないでしょう」
「あなたが、それを言うのはおかしい。
あなたは、その役に立たない想像の力を利用しようとしているのだから」
僕は吐き捨てるように言った。
「黙れ!小僧。
お前に何がわかる。
お前のような小僧に頭を下げ続ける日々。
ワシはもっとまともな仕事がしたい。
でもな。
これをしなくては、国が亡びるのじゃ」
「そんな事知ったことか。
想像力が滅びるのは、それは国が亡びるに等しい」
「黙れ。黙れ。小僧。
ここには営みがある。
生きておる者たちがいる。
子もおる。孫もおる。
それを守るのが、ワシの役目じゃ」
「だったら、僕の世界にも、僕の世界の住人がいる。
それを守るのが、僕の役目だ」
「だったら守るが良い。
勝ち続ければ、お前の世界は滅びん。
でも逃げる事は許さない。
逃げても、お前の世界は滅びる」
「横暴じゃないか」
「横暴だとも、社会というのは、世界というのは、横暴なのよ。
お前の母親も、想像を奪おうとしただろう。
想像とはな。世界にとって、恵みにも、脅威にも映るのだ。
ならば、こちらの世界で、人を救う力に変えてみろ」
僕は考えた。
分岐はどうなってる。
戦う。
逃げる。
の択一だ。
戦って負けると、想像力が死ぬ。
逃げても、想像力が死ぬ。
想像力が生きるためには、
戦い勝ち続けるしかない。
一度も失敗せず、勝ち続けるしかない。
そんな事ができるのか。
「敵は誰なんだ」
「敵は魔族が用意した調整者の作る傀儡」
「もしかして、僕と同じような立場の子って事か?」
「そうだよ。その通りだ」
ちょっと待て。
それは想像力を持った者達が、想像した世界を守るために戦う。
そういう事なのか。
どこかで、見た光景だ。
あぁそうか。
小説投稿サイトか……、
想像力を持った作者同士が、自分の物語を守るために戦う。
僕は小説投稿サイトが大好きで見ていた。
面白い、面白くない、そう気軽に評価していた。
しかし、
あの世界の後ろには、自分と同じような人がいて。
そして、自分の物語を守るために、必死に戦っていたのかもしれない。
「そんな事をして、何の意味がある?」
「わからぬよ。
遠い昔、人と魔族が争い出した。
決着がつかず、このままでは、人と魔族が共倒れだと気が付いた。そしてこの代理戦争が始まった」
「僕たちには関係のない事じゃないか」
「そうだろうな。でもな、ワシにも、ワシの子たちにも関係のない話だ」
「犠牲になれと」
「そんな事は言わんよ。ほら勝ち続ければ、爵位もやろう」
「勝ち続けるなんて、不可能じゃないか」
「それはワシらの考える事じゃない。お主らは戦うだけじゃ」
「想像力を死なせたくなければ、戦い続けろという事なんだな」
「まぁそうじゃな。励めよ。小僧」
老人はそう言い、部屋から出て行った。
僕は部屋を見渡した。
広い殺風景な部屋に、ベッドが一つ。
机が一つ。
机の上には、端末のような板と一冊の本。
そしてメイドのような服装をした少女が一人。
「あの、あなたは?」
「侍女にございます。身の回りのお世話をいたします」
「なんでも、お願いしても良いのですか?」
「私にできる事でしたら」
「なにか飲み物などありますか?」
「ハーブ水、エール、お茶がご用意できます」
「エールとはなんですか?」
「お酒です」
「じゃあ、お茶で」
「しばらくお待ちください」
侍女は、扉を開け廊下に出た。




