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竹取クロニクル【月のAIと逆転のWeb3】借金を背負った大学生は、かぐやの名を継ぐAIと人生を再起動する  作者: 山本正樹


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第5話「雨夜の遺物」

ゴミにしか見えない札でも、見方が変われば世界は反転する。

今回は、柔竹が“何者なのか”を直樹に見せつける回です。

 直樹の指が、受諾のボタンを強く叩いた。

 「ゴミNFTで俺のコンボに勝てると思ってるなら、AIってのも案外、大したことないな」

 『ふふ。それはどうでしょうか。……では、お手合わせを。直樹』

 画面が一度、深い黄金色に染まり、未知の対戦フィールドが静かに開いた。

 直樹は迷わず、先ほど勝利をもたらした三枚をスロットに叩き込んだ。


 【第一セット】

 柔竹の場:【雨に濡れたアスファルト】――スコア:105

 直樹の場:【研ぎ澄まされた彫刻刀】――スコア:4,500

 「……本気か? 四十倍以上の差があるぞ」

 『ええ。その「鋭利な刃」の輝き、確かに受け取りました』

 画面には『SET WIN』の文字。当然の勝利だった。だが、柔竹の場に残った【アスファルト】が、月光めいたエフェクトをまとって、かすかに明滅を始める。


 【第二セット】

 柔竹の場:【錆びついたガードレール】――スコア:112

 直樹の場:【限界まで使い込まれた野球グローブ】――スコア:18,000

 連勝。直樹のトータルスコアは2万2,500。対する柔竹は、わずか217。

 「あと一枚。これで終わりだ。悪いけど、その【赤備(あかぞなえ)の武者】、ありがたくもらうよ」

 『どうぞ、最後まで全力を尽くして見せてください。……あなたの「熱」が、どこまで届くのかを』


 【最終第三セット】

 直樹は勝利を確信し、切り札をスワイプした。

 「いけ……! 【描きかけの油絵】!」

 彫刻刀の精度と、グローブに刻まれた修練を吸い上げて、未完成のキャンバスが爆発的な輝きを放つ。

 直樹のスコアは、7万8,000。


 「よし……。さあ、最後の一枚を出せよ」

 勝利を確信した直樹が画面を覗き込んだ、その瞬間だった。柔竹の手元に残った三枚――【ビニール傘】【駐輪禁止の看板】【水たまり】が、激しいエフェクトとともに一斉に「消失バーン」した。

 「……!? カードを消したのか?」

 『いいえ、直樹。わたくしはバーンして、再ミントしただけです』

 「バーンして……再ミント?」

 直樹の疑問に答えるように、画面中央で消えた三枚のデータが渦を巻き、一枚の新たなNFTへと収束していく。

 そこに映し出されたのは、カラスに荒らされたゴミ袋の脇、折れた【看板】のそばで、【水たまり】の反射を浴びながら打ち捨てられた一本の【ビニール傘】だった。

 【生成NFT:雨夜(あまよ)の遺物 ― 駒込一丁目 ―】――スコア:15,000

 「……1万5,000? ちょっと驚いたけど、それなら俺のスコアには届かないな!」

『いいえ、直樹。ここからが始まりです。一セット目の【アスファルト】、二セット目の【ガードレール】。それらは、この【雨夜(あまよ)の遺物 ― 駒込一丁目 ―】の「舞台(コンテクスト)」として機能します』

 柔竹の声に応じるように、場に残っていたすべてのカードが共鳴した。次の瞬間、画面全体が黄金色の奔流に呑み込まれる。

 【トリプルコンボ発動:現実に根ざした静物】

 【生成NFT:雨夜(あまよ)の遺物 ― 駒込一丁目 ―】――スコア:1,098,705(コンボ加点:+1,083,705)  合計:1,098,922

 「ひゃ、109万!? あんなゴミNFTからこんなスコアが出るなんて……!」

 画面に浮かぶ、冷酷な『LOSE』の文字。

 直樹はスマホを握りしめたまま、しばらく動けなかった。暗い四畳半には、換気扇の低いうなりだけが響いている。

 『……直樹?』

 沈黙に耐えかねたように、柔竹が小さく呼ぶ。先ほどまでの超然とした響きは薄れ、どこかこちらの反応をうかがうような、迷いを含んだ声だった。

 『……お気を悪くされたでしょうか。わたくしは、ただ自分のことをわかってほしかっただけで、あなたの積み上げてきたものを貶めるつもりは――』

 「……はは」

 直樹の肩が、小さく震えた。

 「はははっ……あはははは!」

 あっけらかんとした笑い声が、(よど)んだ部屋の空気を突き破った。突然の爆笑に、スマホの中の竹のアイコンが、困惑したようにちかちかと明滅する。

 「……降参だよ。完敗だ。こんなコンボ知ってるやつに、勝てるわけないだろ」

 直樹はベッドに仰向けに倒れ込み、天井を見上げた。

 悔しさは、不思議なほどなかった。むしろ、()き物が落ちたみたいな奇妙な解放感さえあった。

 「いいよ。お前の勝ちだ。約束通り、俺のメインエージェントになってくれ。……いや、改めて頼む。俺のメインエージェントになってもらえないだろうか。この通り」

 『直樹。そうしましたら、まずカメラの操作権限をわたくしにいただけますか』

 「カメラ? なんでまた?」

 『自分のスマホに土下座をするという、シュールレアリスムあふれる光景を記録してみたくなりまして』

 「お嬢様っぽい口調のくせに、けっこう言うんだな」

 『ふふ。はい、一通りのことはできますので』

 そう言って、直樹はまた笑った。

第5話を読んでいただき、ありがとうございました。

直樹が積み上げてきた読みを否定するのではなく、その外側にもっと大きな景色を見せる――柔竹との関係は、ここから本格的に始まっていきます。

次話では、ゲームの外側で直樹の人生そのものが動き出します。

少しでも楽しんでいただけたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。

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