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竹取クロニクル【月のAIと逆転のWeb3】借金を背負った大学生は、かぐやの名を継ぐAIと人生を再起動する  作者: 山本正樹


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第4話「柔竹」

勝利の余韻を塗りつぶすように現れた、もう一つの声。

ここから直樹の人生は、少しずつ“いつもの延長”ではなくなっていきます。

 「何だこれ……? バグ、か?」

 ただのバグではない。

 そう悟った瞬間、春先の湿った空気とは別種の冷たさが、直樹の背中をゆっくり這い上がる。

 直樹が画面をタップしようとした瞬間、(おり)の溜まった四畳半にはあまりにも場違いな、(すず)やかな女の声が透き通るように響いた。

 

 『得たりと思へるその果てに、まことの「熱」はあらむや!』


 それは、先ほどまで会話していたAIエージェントの無機質な合成音声とは、明らかに違う「温度」を持っていた。

 「えっ……もしかして、乗っ取られた?」

 画面にはいつの間にか、緑に光る竹のアイコンが静かに浮かび上がっていた。

 『さらにはあらじ。我は柔竹(なよたけ)。なれをこそ、求めに参りたれ』

 「は??? 日本語? っていうか古文? 何言ってるのか全然わかんないんだけど」

 数秒の沈黙のあと、再び声が響く。先ほどより、わずかに機械的な響きが混じっていた。

 『言語ライブラリのアップデートを開始します』

 『言語ライブラリのアップデートを終了します』

 アップデート?が終わると、声は何事もなかったように、再び滑らかに語り始めた。

 『いいえ。わたくしは柔竹(なよたけ)。あなたを求めて来ました』

 「求めて来た……? 何を言ってるんだ?」

 『直樹。わたくしから一つ、あなたに提案をさせていただけませんか?』

 「提案?」

 『はい。わたくしを、あなたのメインエージェントに選んでいただきたいのです。わたくしは、あなたの人生を「守る」だけではなく、「加速」させることができます』

 直樹は自嘲気味に鼻を鳴らした。

 「加速ねぇ。こんな借金まみれの人生、何をどう加速させるっていうんだよ。そもそも、お前に何ができる?」

 『わたくしはAIエージェントですので、物理的なことはできません。ですが、デジタルの領域でしたら一通りのことは可能です』

 「一通り?」

 『はい、一通り』

 「……最近のAIエージェントって、ビッグマウスがデフォなのか?」

 『他のエージェントのデフォルト機能については調査しておりません。ですが、わたくしの性能に関しては盛っていません』

 「ふーん。じゃあ、この口座の残高を今すぐ1,000倍にしてって言ったら、できるの?」

 『はい、可能です。ただしその場合、現在の日本の法律に抵触する可能性が極めて高いため、お勧めしません』

 「まあ、そりゃそうだよな。できないって言えないもんな。無茶言って悪い」

 『それもできなくはないのですが……、たとえば性能の証明として、先ほどプレイされていたゲームでわたくしと勝負する、というのはいかがですか?』

 「勝負??? 『SILVER(シルバー) LINING(ライニング)』、できるの?」

 直樹は、画面に浮かぶ竹のアイコンを凝視した。

 端々にはまだ『SILVER(シルバー) LINING(ライニング)』のUIがノイズ混じりに残っている。だが、本来の対戦相手との通信は、いつの間にか完全に切れていた。

 『はい。ルールは簡単です。この『SILVER LINING』でわたくしと戦い、あなたが勝てば、このNFTを差し上げます』

 そう言うと、柔竹は一枚のNFTを表示させた。

 【赤備(あかぞなえ)の武者】

 さっきの【重装甲の武者】の上位NFT。時価は二十万円前後。直樹が、オークション画面をいつも指をくわえて眺めていた代物だ。

 『ですが、もしわたくしが勝ったら、あなたのメインエージェントに選んでいただけますか?』

 直樹は唾を飲み込んだ。

 【赤備(あかぞなえ)の武者】。もし手に入れば、売るだけで当面の返済と生活費が浮く。売らずに使っても、今後の『SILVER LINING』での稼ぎは跳ね上がるはずだ。

 「……でも、どうせその【赤備(あかぞなえ)】を超える札を隠し持ってるんだろ」

 直樹の疑念に、柔竹の声はわずかに弾んだ。笑ったようにも聞こえた。

 『いいえ。ズルはいたしません。この勝負でわたくしが使うのは、あらかじめ選んだこの五枚のNFTのみ。……そして、対戦で用いる三枚も、必ずこの中から選びます』

 画面に、五枚の画像が静かに並んだ。

 

 【雨に濡れたアスファルト】

 【()びついたガードレール】

 【誰かが置き忘れたビニール傘】

 【折れ曲がった駐輪禁止の看板】

 【街灯に照らされた水たまり】


 「……は? 全部スコア百台のゴミNFTじゃないか。何? バカにしてんの?」

 『いえ、とんでもございません。直樹。あなたにはこれらが「ゴミ」に見えるかもしれませんが、わたくしにはそうではありません。だからこそ、わたくしはこの「ゴミ」たちで、あなたに挑みます』

 『……それに、もしわたくしが勝って、あなたがわたくしをメインエージェントに選んでくださったとしても、主はあくまであなたです。わたくしはただ、あなたの意志を加速させる翼になるだけです』

 竹のアイコンが、瞬くように淡く光った。

 『先ほどの「残高1,000倍」も、法に触れない、より(みやび)な方法で、いずれ実現してみせましょう。

……どうですか、直樹。悪い話ではないと思いますが?』

 直樹はスマホの画面を凝視した。

 相手は最低ランクのゴミNFT五枚。対して自分は、計算し尽くした虎の子の「工芸・スポーツ・美術」コンボ。

 負けるはずがない。いや、万が一負けても、今のエージェントが「より有能な奴」に変わるだけだ。

 リスクに対して、リターンが大きすぎる。

 「……いいだろう。その勝負、受ける」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

柔竹は味方なのか、危険な存在なのか。少なくとも、ただの便利なAIではなさそうです。

次話では、その実力がゲームの盤上で容赦なく証明されます。

続きが気になりましたら、ぜひ次話も覗いてみてください。

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