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だからアナタに殺されたい。  作者: 朝比奈未涼


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6.耐え難い渇き




そしてあの事件から1年以上時は流れ、現在。

ローゼルの行動一つ一つに感じる胸の痛みや高鳴りが恋であるとのちに私は知った。


だが、私は吸血鬼だ。

例えローゼルへの恋心を自覚したとしても、それをローゼルに伝えるつもりはない。


帝国始まって以来の天才騎士であり、誰もを魅了する美貌を持ち、少々わかりづらいところもあるが誠実でまっすぐなローゼル。

そんな彼に私なんて釣り合うはずがない。


だから私はいつもなんでもないフリをして、彼と接していた。




「…あれ?」




荷物を入れている大きな鞄の中を見て、私は首を傾げる。

確かに入れた〝あるもの〟が何故か見当たらない。


入れたはずだ。

絶対に。


見当たらないそれに焦る気持ちを抑えながらも、私はもう一度鞄の中をくまなく探し始めた。


ここは野営の4人用テントの中。

ここで救護隊員は夜を過ごすことになっている。


何故、私が今ここにいるのか。

それは帝国騎士団第二部隊の遠征に薬師として同行しているからだった。


今回の遠征先は帝国最北端の街、キキルだ。

キキルでは今、モンスターが大量発生しており、その討伐へと私たちは向かっている。


遠征期間は移動も含めて、1週間ほど。

最短ルートで帝都から馬車や馬で2日間移動した私たちは、今日も森の中で野営をしていた。


ここまでなんの問題もなく、スムーズに来れた。

明日にはキキルへとたどり着く。


だが、ここで事件は発生した。




「…ない」




私から絶望でいっぱいの声が漏れる。

やはり探しても探しても、鞄の中から〝あるもの〟…タブレットを入れていた小さな缶の箱が見つからないのだ。




「エレノア?」




突然、様子のおかしくなった私にルルが伺うように声をかけてきた。


ルルは当然ながら人間だ。

そして吸血鬼にちゃんと憎悪を抱いている。

そんなルルに本当のことなど言えるはずがない。


平静を装わなければ。

万に一つでもおかしな姿を見せないように。




「何かあった?」




なかなか返事を返さない私にルルは心配そうな表情を浮かべる。

私はそんなルルに努めて明るい声で、困ったように眉を下げた。




「ちょっと預かっていたものが見当たらなくて…。手のひらサイズのシンプルな缶の箱なんだけど…見てない?」




あくまで私のものを探しているわけではない、と主張し、ルルを見つめる。

するとルルは視線を右上に向け、「んー」と考える素振りを見せた。




「…見てないと思う」


「そっかぁ」




ルルの応えに、残念そうに笑ってみせる。

それから私はルルに簡単にお礼を言い、「ちょっと外を探してみるね」とテントから出た。




*****




昨日までは確かにあったのに。


私はタブレットを飲んだ昨日の夜のことについて、思い返していた。


なんでもないことのようにカモフラージュのたくさんの栄養剤と共に私はあれを確かに飲んだ。

そしていつも通り鞄の中にしまった。


それなのに、そこに何故かない。




「…手のひらサイズのシンプルな缶の箱ですか。俺も見てませんね」


「そう…」




マックスの応えに、小さく肩を落とす。

外もくまなく探し、何人かの騎士やこの遠征の同行者にそれとなく缶の箱について聞いてみたが、誰も見ていないと言う。


このままタブレットを摂取できなければ、禁断症状に陥ってしまう。


まずは瞳の色が生まれ持った色のものから濃い血のような赤へと変わる。

それから徐々に理性が奪われ、血を喰らいたいという、恐ろしい本能だけが私の中に残る。


まさにバケモノになってしまうのだ。


溜まっている疲労と、もうすぐタブレットを摂取し24時間になることからじわじわと胸の内に焦りが広がる。


ーーーその時。


ドクンッと心臓が大きく跳ねた。


感じたことのない動悸に、少しずつ上がっていく体温。

初めての感覚に、私は悟ってしまった。

限界が近いのだ、と。


ここにいてはいけない。


気がつけば私はマックスに背を向け、森へと走り出していた。




*****




森を少し進んだ先で、私は足を止めた。




「はぁ…はぁ…」




上がる息をゆっくりと整えながらも、私は考えることをやめない。


どうすれば、いい。


確実にタブレットのある我が家からここはあまりにも遠すぎる。その為、家に帰ると言う選択肢はない。

じゃあ、動物の血を…とも考えたが、生き物の血を直接飲むことにはやはり抵抗があった。

それに何よりも私の能力ではこの短時間で動物を狩ることなどできないだろう。




「…はぁ、はぁ」




荒い息がいつまで経っても整わない。

疲れによるものなのか、緊張によるものなのか、もうわからない。


どこかの村に行けば、そこの吸血鬼たちに助けてもらえるかもしれない。

だが、吸血鬼は基本、忌み嫌われ、その正体を決して知られぬようにひっそりとコミュニティを作っている。

そんな彼らを果たしてこの短時間で見つけられるか。

それに帝都からここまで最短距離で森を進んで来た為、どこに村があるのか、詳しい位置がわからない。




「…っ」




誰にも、助けを求められない。


詰んでしまった現状に、私は絶望した。


月明かりに照らされて、静かに輝く森の木々。

そこから鳴る葉の揺れる音が、いやに大きく聴こえる。


広まる静寂に、得体の知れぬ恐怖がじわじわと広まっていった。


喉が、渇いた。

水が、欲しい。

いや、血が。


よぎった思考に、表情を歪める。


ああ、私は今何を!


抑えられない何かが、私の中でうごめく気配を感じる。


もう、ダメだ…。


失意の中、そう思った、その時。




「エレノア?」




どこからか凛とした声が私を呼んだ。

ザッ、ザッ、と地面を踏み締める音が少しずつこちらに迫ってくる。


つい反射的に声の方へと視線を向けると、そこにはローゼルがいた。




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