表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/140

第122話 審判の日

「十日、以内だって」

 アリアの声が、天幕の中に、響いた。

 風読みで受け取ったばかりの、王都からの続報。亜麻色の髪を揺らしたまま、アリアは、その内容を、伝えた。

「『十日以内に、王都・大聖堂へ、出頭せよ』。……それが、期限。守らなければ」

 アリアが、一度、言葉を切った。眼鏡の奥の瞳に、緊張が滲む。

「『聖戦令第九条に基づき、追討令を、発する』……って」

 追討令。

 その言葉の重さが、天幕の中に、沈んだ。硝煙と、乾いた土の匂いの中で、その二文字だけが、やけに、冷たく響いた。レクスが、寝台の上で、赤黒い瞳を、細めた。

 ◇

「追討令ってのは……穏やかじゃ、ないな」

 レクスが、掠れた声で、言った。

 俺は、頷いた。追討令が、どういうものか。聖魔戦争の中で、何度か、耳にしていた。

 リーゼが、碧い瞳を、こちらに向けた。その瞳の光は、聖剣の代償で、まだ弱い。だが、その声には、揺るがない芯があった。

「追討令が発令されれば、私たちは、『聖戦の敵』になる。……大陸中の、聖騎士。教会の勢力。すべてが、私たちを、追う。どこに逃げても、狩られる。……逃げ場は、なくなる」

 リーゼの声が、続く。

「そして、その名目は、『聖戦への非協力と、穢れた術式の行使』。……つまり、あなたの、蝕。私たちが、魔印を止めようとした、その行為そのものが、罪になる」

 巧妙だった。ヴィクトルは、俺たちの「治療」を、罪に仕立て上げている。逃げれば追討、応じれば大聖堂。どちらの道も、あの男の、手のひらの上だった。口の中に、苦い鉄の味が、広がった。

「……もう、選択肢は、ないわ」

 碧い瞳を伏せて、リーゼが、静かに続けた。

「出頭する。それしか、道はない。逃げれば、大陸のどこにも、居場所がなくなる。……それに、逃げたところで、魔印の平衡は、いつか崩れる。時間は、こちらの味方じゃない」

 その通りだった。魔印は、45%で止まっているが、いつまでも保たない。逃げ回っている間に、平衡が崩れれば、それで、終わりだ。前に進むしか、なかった。

 ◇

「でも」

 リーゼの碧い瞳に、静かな光が、宿った。

「ただ、出頭するんじゃ、ないわ。……こちらにも、準備がある」

「準備?」

 俺が問うと、リーゼは、傍らに立てかけた聖剣を──「星断ち」の柄を、そっと、撫でた。

「ヴィクトルは、教会の『正しさ』を、盾にしてくる。穢れを浄めるのが、正義だと。……その正義で、私たちを、裁こうとする」

 リーゼの声が、低く、鋭くなった。

「なら、私は──教会が隠した、『真実』を、突きつける」

 真実。その言葉に、俺は、リーゼの父のことを、思った。シュタイン家の当主。聖剣の吸収機能で、魔力を吸われ、弱り、冤罪で処刑された男。そして、その真実を、審問局が、記録から、抹消した。

「私の父は、この聖剣に、魔力を吸われて、弱っていった。それを知った教会は……真実を隠すために、父に、冤罪を着せた。裁判の記録を、抹消して」

 リーゼの、碧い瞳が、俺を見た。

「教会は、『正しさ』を語りながら、真実を、隠してきた。……その矛盾を、ヴィクトルの目の前で、暴く。教会の正義が、どれだけ、欺瞞に満ちているか。……それが、私の、武器よ」

 リーゼの手が、聖剣の柄を、握りしめた。だが、その手は、わずかに、震えていた。聖剣の代償。まだ、癒えていない体。それでも、リーゼは、父の名誉と、この戦いのために、もう一度、この剣を、握ろうとしていた。

 ◇

「なあ」

 寝台の上から、レクスが、口を開いた。

「俺も、行くぜ。王都に」

 全員の視線が、レクスに、集まった。アリアが、心配そうに、眉を寄せる。

「レクス、あんた、まだ……」

「分かってる」

 レクスが、灰色の手を、持ち上げた。動くが、握力のない手。

「剣は、握れない。戦力には、ならない。……それは、分かってる。でも、それでも、行きたいんだ」

 レクスの赤黒い瞳が、俺を、見た。

「見届けたいんだよ。お前たちが、あのヴィクトルと、どう決着をつけるのか。……二人の追放者の、片割れとして。最後まで、見ていたい」

 レクスが、不器用に、笑った。

「それに、な。腐っても、元・勇者だ。……俺が隣にいれば、多少は、お前たちの、盾くらいには、なれるかもしれない。剣は、なくてもな」

 その言葉に、嘘は、なかった。剣を失っても、レクスは、共に行こうとしている。戦いの結末を、見届けるために。仲間として。

 俺は、レクスを、見た。それから、頷いた。

「……ああ。一緒に行こう、レクス」

 レクスが、満足そうに、頷いた。

 天幕の外に、夕暮れが、迫っていた。

 王都まで、道のりがある。十日の期限。ヴィクトルの、待つ大聖堂。すべての決着が、そこに、待っている。

 止まった時計を抱えたまま、剣を置いた勇者を連れて、俺たちは──審判の場所へ、向かうことを、決めた。


読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ