表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

⑦恋とアイスティー

夜の海岸で、日向に夢を打ち明けたさくら。

後押しするような日向の言葉に、嬉しさと共に寂しさが入り混じる。


数日後。さくらはハルカとカフェで課題を片付けていたがー




―それから数日後。

日向くんは観光課の人との打ち合わせで、朝から町役場に出かけていた。

私はハルカと夏休みの課題を片付けるため、トリトンで勉強していた。



アイスティーを飲みながらひと息ついていると、スマホの画面が淡く光る。



「夕方には終わりそう!」

「つかれた〜」



画面の上にはお決まりの向日葵のアイコン。

こうやって些細なことでも短文で報告してくる日向くんに、思わず頬が緩む。



日向くんに返事を返していると、不意にハルカがにやにやしながら頬付えをつき、口を開いた。



「…さくらってさ、日向のこと好きでしょ」



思わずアイスティーを吹き出しかけて、私は慌てて口を押さえる。



「…なんで…?」

「見りゃわかるよー。海で遊んだ時の態度もそうだし、さっきの表情だってそうだし。2人ともバレバレだって笑」

「2人とも、て」

「日向もあんたのこと好きなの。要するに両思いってことだよ」



胸の奥がぎゅっと熱くなる。信じたい気持ちと、信じてはいけないような気持ちが入り混じる。



「…ほんとにそうなのかな」

「どう見てもそうだって!もしかしてさくら、今まで彼氏いたことない?」

「…!そんなことっ…」



ハルカはくすくす笑いながら続ける。



「ははー、いないな、その顔は。つまりさくらの初恋の相手は日向なわけか。日向も罪な男だね〜」



私は思わず頬を押さえ、目を伏せる。心臓がどきどきして、冷たく湿ったカフェの空気が甘く染まったように感じた。

 


「いーじゃん、付き合っちゃいなよー!日向自覚してないだけで意外とモテるし、今のうちにモノにしないと〜!」

「でも、この休みが終わったら私、東京に帰るし…」

「いーじゃん、先のことは考えず今を楽しもーよ」

「それができたら苦労しないよ」



無邪気に笑いながら私の肩を叩くハルカ。

そんなハルカとは対照的に、私の心には暗いモヤがかかる。



「夏が終わったら終わってしまう関係だよ。…傷ついて終わるだけの恋に、踏み出す勇気なんてないよ」



自分で口にした言葉に胸の奥が苦しくなり、黙って目を伏せる。

静かな店内に、クーラーの音が響く。

アイスティーの結露が汗のようにグラスを伝う。

その様子を眺めながら俯いていると、おもむろにハルカが口を開いた。



「…でもさ、恋なんていずれ終わっちゃうんだし、早いか遅いか、それだけの違いじゃない?せっかくここに来て、日向のこと好きになれたんならさ、今この瞬間を大事にしなくてどうするよ?」



私は思わず視線を逸らす。胸の奥がぎゅっと熱くなる。ハルカの言葉は、心の奥底でずっと押し込めていた気持ちを、そっと浮かび上がらせるようだった。



「…ハルカって、意外と現実主義なところあるんだね。」

「あはは、まーね。あたしこう見えて意外とモテるからね」



たしかにハルカの顔立ちははっきりしていて、かなり可愛い。

たとえるなら、女優の戸田恵梨香と有村架純を足して2で割り、肌を浅黒くした感じだ。



隣で笑うハルカを見ていると、私の心も少しだけ軽くなる。

日向くんのこと、まだ整理はつかないけれど…この瞬間だけは、自分の気持ちに正直でいられるかもしれない。




ーー



ハルカとの会話を終え、胸の奥が少し軽くなった気がした。

カフェを出て、海沿いの道を歩く。波の音が静かに耳を満たす。




海辺の堤防に登ると、日向くんはコンクリートの地面に腰かけ、遠くの漁船を眺めていた。



「…日向くん」

「…さくら」




堤防の上を並んで歩いていると、潮風がふっと強く吹いて、日向くんのシャツが私の腕にかすかに触れた。

その一瞬だけで心臓が跳ねる。



「あはは、さくら軽すぎて飛んでいきそ笑」



からかうように笑いながら、日向くんは半歩こちらに寄ってくる。

距離が近い。肩が触れそうで触れない。

その微妙な距離が、余計に意識させてくる。



「……大丈夫」



声が震えたのをごまかすように、視線を海に逸らす。

傾きつつある日の光が波間に揺れて、余計に胸がざわついた。



ふと横を見ると、日向くんもこちらを見ていて、視線がぶつかる。

慌てて逸らしたけれど、耳の先まで熱くなるのが自分でもわかった。



「さくらってさ」



不意に名前を呼ばれて、思わず立ち止まる。



「……なんでもない」



日向くんはそう言って笑って誤魔化した。



笑い声は軽いのに、その目が少し真剣に見えて、余計に鼓動が早くなる。



堤防に腰かけて、日向くんと並んで話していると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。



「おー、青春してんな」



振り返ると、イツキさんが自転車にまたがっていた。にやりと笑って、わざとらしく口笛を吹く。



「…べ、別にそういうのじゃないです!」

「へぇ? まぁいいけど。女の子ってのはな、そうやって言い訳する時が一番かわいいもんよ」



そう言い残して、イツキさんはひらひらと手を振りながら走り去っていった。



残された私と日向くんは、顔を見合わせて、同時に視線を逸らす。

胸がどきん、と跳ねた。

――ほんとに、そういうのじゃないのに。



やがて、夕陽が海をオレンジ色に染める。頬を撫でる潮風に、トリトンでのハルカの言葉ががよみがえる。



「―日向もあんたのこと好きなの。要するに両思いってことだよ」

 


おずおずと日向くんの方を見る。

日向くんは黙ったまま、視線を揺れる水面に落としている。

…日向くんは、今、どういう気持ちなんだろう。



私たちは黙ったまま、堤防に座り、揺れる水面を見つめる。

2センチもない間隔で並んだ指先は、触れそうで触れない。



潮風に吹かれて生まれた波は、沈む夕陽を反射し、まるで万華鏡のように光を放ちながらゆらめく。



海辺の花壇に咲く2本の向日葵は、穏やかな潮風に吹かれ、私たちを見守るように小さく揺れていた。





ここまで読んでくださりありがとうございます!

ハルカ曰く「両思い」だけど、どこか微妙な距離感のさくらと日向。

この2人の関係は今後どうなっていくのでしょうか。

次回「⑧海風と夕立」、ドキドキしながら読んでもらえたら嬉しいです!


登場人物たちの気持ちを振り返りたいときは「シリーズ一覧」ボタンをどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ