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③波打ち際の仲間たち

「もー、ハルカ、イツキ。さくらが怖がってんじゃん。一気に捲し立てんな」


地元の少年・日向に誘われ、彼と共に豊漁祭りのポスターを手がけることになったさくら。

翌朝になると、さっそく日向がさくらの家を訪れ、ポスターのネタ集めのためにとさくらを町歩きに誘う。

その道中で出会ったのは、個性豊かな彼の仲間たちだったー




―翌朝。

いつものように布団を整え、顔を洗い、髪を整え、

軽く身支度をしていると、洗面所のドア越しに

祖母の呼ぶ声がした。


「さくら。日向くんが来てるわよ」

「…え」

「船橋さんちの子でしょ。感じが良くてすごくいい子ね」



ドア越しににこにこと笑う祖母を尻目に、

慌てて部屋に戻り、服を着替える。

 


「さくら!」

 


玄関先では、日向くんが満面の笑みを浮かべて手を振っていた。

その眩しい笑顔の後ろには、雲ひとつない、突き抜けるような青空が広がっている。



「…ひ、日向くん。いきなりでびっくりしたよ…」

「ポスターには締め切りがあるからね。やるなら早くやらなきゃ」

 

 

戸惑う私を横目に、日向くんはカバンからがさごそと何かを取り出す。

ぱっと出てきた手のひらには、QRコードが表示されたスマホがあった。



「LINE。こないだ交換してなかったでしょ?」

「あ、そういえば…」

「これから打ち合わせもしなきゃだし、交換しよ?」



言われるがままに、QRコードを読み取り、日向くんを追加する。

アイコンは、青空を背に堂々と咲き誇る向日葵の花だった。



「…向日葵、好きなの?」

「うん、好き。これ、うちで毎年咲いてる向日葵なんだ。

花が大きくて堂々としてて、カッコよくない?」

「うん。カッコいい」

「さすがさくら。わかってるね〜」



日向くんは、そう言ってふざけて調子に乗るそぶりをみせる。

そんな明るくて無邪気な日向くんに、ぴったりのアイコンだと思った。



「じゃあ、行こっか!」

 

 

にっと笑う日向くんを合図に、私たちは海沿いの大通りへと繰り出す。燦々と照りつける日差しが、アスファルトの道を煌々と照らしていた。

 


「…あ、ちょっと待って」



大通りを歩いていると、不意に日向くんが立ち止まった。



「どうしたの?」

「インスタ用に写真を撮りたくて」



そう言って日向くんはおもむろにスマホを港に向ける。

角度や構図を試行錯誤しながら数枚撮影し、指先で素早く加工をすると、清々しい港の風景が画面いっぱいに広がった。



「すごい…」

「ほんと?嬉しい」



日向くんは心底嬉しそうに笑い、インスタのアカウントのホーム画面を私に見せてきた。

 

 

「これ、日間浦町の公式インスタ。

俺たちが役所の人に提案したんだ」

「そうなの?すごい」

「へへ。結構苦労したけどね。観光課の課長が理解のある人で、色々助けてくれたんだ」



そう言って照れ笑いする日向くんの横顔は、どこか誇らしげで。

ポスター作りに町の広報活動と、町のために奔走している日向くんの姿を知り、私も頑張らねばと身が引き締まった。



「…ま、そんなに気をはらなくても、あの時描いたみたいに、俺たちらしい作品を作ったらいいんだよ」



私の緊張を見抜いてか、日向くんは私の目を見てニコッと笑う。

初めて会った時から、この笑顔には安心させられてばかりだ。



「そういえば、祭りについて説明してなかったね」

「たしかに…」



そういえば、あのときは絵を描くか描かないか、そのことばかり考えてて、具体的なお祭りの話については一切していなかった。



日向くんは、再びスマホの画面に指を滑らせた。



「…これ見て」



そう言って見せられたのは、魚をモチーフにした、コミカルだがどこかレトロなデザインのモニュメントの写真だった。



「…鯛?」

「おっ、よくわかったね」

「この町の名産品の一つだから」

「知っててくれたんだ。まじ嬉しい」



にこにこと笑いながら再度スクロールすると、そこにはさっきよりはリアルな鯛をモチーフにした、大きなお神輿が写っていた。



「この町では毎年9月に、名産品の鯛を祀った豊漁祭りをやるんだ。結構大掛かりなお祭りで、お神輿を担いで歩くフィナーレは結構な迫力なんだけど、この町はアクセスが悪いし、毎年夏休みが終わった後にやるから、あんまり外からの人には知られてないんだよね」



日向くんの声に、寂しげなトーンが混ざる。これだけ大きなお神輿が町を闊歩するのは、さぞ迫力があるだろう。それなのに、時期やアクセスの問題で地元の人以外に知られていないのは、たしかに勿体無い気がする。



「そのお祭りの宣伝が、ちょうどお盆の後半ごろに始まるから、それまでにポスターを完成させたいんだ」



そう言って日向くんは、笑いながらも真剣さのこもった眼差しで私を見る。日向くんの瞳から伝わる責任の重さに、内心怖気付きそうになるも、一度引き受けた話なのだから、やるしかないと腹を括った。



「…わかった。頑張るね」

「うん。一緒に頑張ろう!」



そう言って私たちは、えいえいおー!と、手のひらを空にかざし、握手をする。

グッと私の手を握る日向くんから伝わる温もりと力強さに少しドキドキしながらも、どこか心強さを感じた。

 


こうして私は、日向くんと一緒に、ポスターのネタを探しながら町を歩いた。水着や浮き輪、バーベキューセットなど、海水浴に必要なものが揃った地元のコンビニに驚いたり、昔ながらの町の建物を見ながらアイデアをスケッチしているうちに、気づけば祭りの準備が行われている観光案内所に着いていた。



観光案内所は小高い丘の上にあり、海を見渡すことができた。

小さなコンクリートで出来た建物の周りには、若い人からお年寄りまで様々な人たちがいて、打ち合わせやお神輿の準備にと、忙しそうにしていた。

せっかくだし課長に挨拶に行こう、と日向くんに言われ、着いて行こうとしたその時だった。




「お、さくらちゃんじゃん!」



ふと声の方向に視線を向けると、そこにははちまきのように巻いたタオルと白のタンクトップを身につけた、地元の出身らしき男の子がいた。



「おー、トウマ!」

「日向じゃん!ちょっとそっち行っていい?」

「いいよ、ちょっとならね」



彼の周囲には同年代らしき男女が数人いて、日向くんの返事を合図に私たちの方へ駆け寄ってきた。



「ね、さくらちゃん。東京から来たんでしょ?」



そう声をかけてきた女の子は、こんがりと焼けた小麦色の肌に黒く長い髪を揺らしていて、パッチリとした大きな瞳が印象的だった。

 


「…うん。そうだけど…」



私は急な来訪に少し戸惑い、言葉に詰まる。

口元がきゅっと引き締まった。



「可愛い〜!色白〜!やっぱ都会の子は違うね〜!」



女の子は身を乗り出し、興味津々な眼差しで私を頭のてっぺんからつま先までまじまじと見つめてきた。



「ね、さくらちゃんてさ、白樺高校っていうめっちゃ頭いい私立なんでしょ?制服かわいい?生徒会がすごい権力持ってたりする?もしかしてF4的な人たちがいたりする?」



「質問攻めやめろ。てか後半ハナダンじゃん、漫画の読みすぎ」



唐突な質問攻めに戸惑っていると、サングラスに金色のアクセを何重にもつけた、派手な身なりの細身の男の人が横から軽くツッコミを入れる。



「うるさいなー、田舎もんはだまってろ!」



女の子は大袈裟に怒ったような素振りで、男の人の肩をはたく。



「お前だって田舎もんだろ。てか俺一応先輩だぞ?」



男の人は呆れながらも、決してやりかえさずに女の子を見下ろしている。



私はどう答えていいか分からず、口ごもった。

田舎の噂が速いのは、ドラマや小説などでなんとなく聞いたことはあったけど、…正直、ここまでとは思ってなくて、かなり戸惑った。



「もー、ハルカ、イツキ。さくらが怖がってんじゃん。一気に捲し立てんな」



日向くんがおおげさにため息をつく。



「この子はハルカ。高校の同級生でクラスメートなんだ。こいつはトウマ。花火職人の息子で、俺と同じ高校に通いながら親元で修行してる。

…で、このチャラくていかつい人がイツキ。」

「こら、先輩を呼び捨てにすんな」

「ガキの頃からの付き合いなんだからいいじゃん。イツキは高校の先輩で、漁師しながらi2kiって名前でシンガーソングライターやってるんだ」

「…!聞いたことあるかも…」

「まじ?俺の名も売れてきたもんだなぁ」

「さくらちゃんが気を使ってくれてるだけだよ」

「なっ?おま、こう見えて音楽番組で紹介されてんだぞ?」

「深夜の関東ローカルね」



初対面のハルカちゃんとイツキさんの、相変わらず小競り合いをする姿がなんだかおかしくて、微笑ましくて。

緊張しながらも思わず吹き出しそうになる。



「ま、いつもこんな感じだからそんなに気にしなくていいよ」



日向くんがさりげなくフォローする。

視線を合わせ、にこっと笑うその安心感に、私はほっと胸をなでおろした。



「すごいじゃん、絵も描けるの?」

「見せて見せて」

 


町のみんなが私のスケッチを見て、目を輝かせる。

 


「うん、ちょっとだけ……」

 


はにかみながら笑顔を返す。口元の緊張が少しほぐれ、高校生たちとの距離が自然に縮まるのを感じた。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

これまでと打って変わって軽快なテンポで進んだ3話でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

日向の仲間たちが加わり、物語も賑やかになってきましたね。


次回は再びさくらと日向の2人に戻り、集めたネタを元にポスターのラフ案を作っていきます。

そこでさくらが日向にかけられた言葉とはーー

次回もお楽しみください。✨


登場人物たちの気持ちを振り返りたいときは「シリーズ一覧」ボタンをどうぞ。


よければコメント、ブクマ等いただけると嬉しいです。☺️

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