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書店部の内部事情  作者: 片羽京介
第三章『期間限定イチャラブキャンペーン(死)』
33/103

絶賛恋愛中


まとまった時間がとれないです(´・ω・`)

申し訳ない…




明けて木曜日。

部活は休みだが色々と作戦が開始される日なので朝からテンションは最底辺だ。


結局、玲菜主導で開始されることになった此度のイチャラブキャンペーン。

その詳細について今朝方玲菜からメールが来たのだが、俺はその内容に戦慄した。


…ああ、こいつは本気だ。本気で俺たちの偽装恋愛を売り上げアップのプロモーションにしようと考えている。

そう思わされる内容だった。


「結局、少女マンガを手本にしたみたいだな」


手繋ぎと手紙とその他いくつかは使っていくから、と昨日の彼女は言っていたが、どうやらそれらは計画の本筋から外れた小ネタとしてということのようだ。


宣言しておく。今日これから始まる学校での一日において、俺の身にいくつかの災難が降りかかる。

それはマンガ、ドラマなどの想像上の世界においては日常的に描かれていることなのだが、用法・用量を守って正しい対象に使用しなければ人体に悪影響を及ぼす劇薬なのだ。


物語の主人公が登校中に通学路の曲がり角で誰かとぶつかったとしよう。それがその日初登校してきた転校生(異性)だったなら問題ない。何が問題ないのかは異次元間での理なのでスルーしてくれ。


しかし、もしそのぶつかった相手が最恐音痴のガキ大将(当然同性)だったなら大いに問題ありだ。


今回の計画は、そういう関係の二人が仲睦まじくして周囲から注目されようとするという、ある意味二次元ですら試みたことのない狂気の作戦である。


幸いなのはそのガキ大将が他者からは超絶美少女と目されていることくらいである。当人の俺には何らメリットもない。


「このままだと、計画の全てがあいつの言うがままにされてしまう。早くこちらも探さなければ」


というのも、昨日あの後少し話し合った結論として、「お互いに使えそうな恋愛ネタを見つけたら作戦に順次組み込む」という意向で同意したからだ。


俺はそういう色恋沙汰が描かれたマンガなり映画なりを持っていないので、まずはそこから探す必要がある。


そこで、俺は並行するもう一つの計画も考慮し、今日の放課後に少し遠出をする予定だ。


もう一つの計画とは、昨晩閃いた玲菜との冷戦に社会的勝利する為の策のことである。つまり、愛だ!


「あの後、帰宅してから何度か

思い直そうかと思ったけど…」


しかし、やはりこの搦め手を試してみようという結論に至った。

詳細は後々語るが、キーワードは「本気まじの恋愛」と「仕事への愛」である。


「見てろよ玲菜。今日の苦行を乗り切った後は、こちらが反撃する番だぜ」


昨晩の店での出来事は極力考えないよう努めつつ、俺は学校への重い道のりを少しずつ進んだ。


始業ベルの鳴る五分ほど前に俺は教室の扉の前へと到着した。


…。


メールによると、玲菜は既に先に登校しているらしい。


メールには更に、教室に入り、最初に俺がやる行動が記されている。その行動は「玲菜を起こす」である。


「…起こすだけなら、まあ」


教室の前で少し立ち止まっていた俺だったが、意を決して扉に手をかけた。

それは、俺たちのイチャラブキャンペーン作戦の開始を意味していた。


「おはよーっす」


ごく自然な所作で扉近くのクラスメートに挨拶し、俺は自分の机へ向かう。


……んん?


俺の机で、誰かが寝ている。

言うまでもないが玲菜だった。


「くそ、みんながニヤニヤしているのはこのせいか」


机上には玲菜の髪が綺麗に広げられていた。うつ伏せの姿勢なので表情を見ることはできないが、恐らくは起きているのだろう。

しかし、俺の机で寝ることにどんな意図があるというのだ?

これは恐らく少女マンガからの引用なのだろうが、そういう類を読まない俺には玲菜がドジっ子を演じている可能性しか思いつかなかった。


ーーつまり。


『おい、玲菜』

『きゃっ!』

『あれ? ゆうくん? …あ! いっけなーい! あたしったらドジってゆうくんの机で眠っちゃってたー!』


ーーである。



突発的に空間把握能力が低下するのはドジっ子の真骨頂である。故にクラスメートは『相変わらず玲菜ちゃんはおっちょこちょいだなー』と返すわけなのだが、しかしこの属性を玲菜が演じるのは…。



「いや、待てよ」


俺は伏せる玲菜の前で一瞬考え込む。

もし、この他人の机で眠る少女が意図的にここで眠っているとしたらどうだ?


まず最初に声をかけるのはその席の人間だろう。

つまり、形はどうあれその二人は始業前の教室で会話をする機会を得る、ということである。


会話のきっかけ作りとしての行動か。なるほど、読めたぞ。


「おい、玲菜」


トントン、と。

俺は眠る(フリの)玲菜の肩を叩く。

推測だが、今の玲菜はテンプレートな幼なじみを演じようとしているのだと思う。

一見すると謎の行動に見えるこの机占拠は、その実「あなたは私の物」という独占欲を暗喩的にアピールした高等技術なのだ! ふふ、俺には分かったぞ。


…ふう、危ないところだった。またこいつの意図も分からずこのシチュエーションに遭遇していたら、またテンパるどころか玲菜に遅れをとるハメになってたぜ。


やがて、玲菜は緩慢な動作で机から起き上がり、眠い目をこすりながら俺を見上げてきた。


…うぐ、こいつやけに本格的だな。

玲菜の演技の精巧さは今更驚くほどでもないが。今の寝起き顔はいつもの鋭角さが削り取られていてとても良い。なんていうか俺ですらこいつに高嶺の花という言葉を贈りたくなる…って何言ってるの俺?!


「…おはよう、悠里」

「お、はよう」


セリフ二発目にして緊張から言葉が途切れた。喋れば喋るほどボロが出そうで怖い。


玲菜はそう言うと、またも緩やかな動作で椅子を後ろに引き、立ち上がろうとしている。


…あれ? てっきりそこで少し会話をして、ちょいイチャアピールでもするのかと思ったのだけど。実際の玲菜はまだ夢心地のようなふわふわした表情である。

昨日の心理学じゃないが、予想が外れると不安になってくるものだ。


玲菜が立ち上がる。その動きは相変わらずゆったりとして優雅だ。


俺は、その一挙手一投足を固唾を飲んで見守る。

病院で診察中に、医者か後ろを向いて機器を弄くり始めたのを眺めているような緊張感。


「……」

「ど、どうしたんだ玲…」


様子を窺おうとしたその瞬間、玲菜の右手が俺の左肩に伸びた。

気がつけば玲菜は俺の目と鼻の先まで近づいていた。

そして、俺の肩に置かれた右手を支点に少し身体を背伸びさせ…。


「「「………っ!」」」


俄かにざわついていた教室が、息を呑むような声で満たされた。


よもや、俺たちが教室でこのような行為に及ぶとは思ってもいなかったのだろう。



周囲から見れば、まるでそれは玲菜が、俺の頬に、頬に…。


「……くすっ」

「お、おま……」


とっさに表情を隠すために口元を手で覆ったが、それが逆に女子達の妙な琴線にふれたようで、ちょっとした黄色い声がちらほら飛び交った。


アオイの時と同様、玲菜は俺の頬に触れる寸前で唇を留めていた。

正に「恋人の演技」とでも言うべきその行動の後、姿勢を直した彼女は静かに笑う。


それは、周りには朝の淑やかな雰囲気が見せた優雅な微笑に映ったのだろうが、俺には「何赤くなっているの? これだからガキは」という意の嘲笑に見てとれた。


…こいつ、一度ならず二度までも…っ。

実際にキスされたわけでもないのに、俺は最早虚勢しかはれない骨抜きにされてしまっていた。


…もうやだ、家帰りたい…。


朝の始業前、俺と玲菜の第一ラウンド。

チームとしては大いに役目を果たしたが、互いの勝負としてはいきなり俺がTKOされた様相である。


教室が再び俄かに騒ぎだし、この後の校内への余波をじわじわと感じさせる中、後ろの席の奈留だけは不機嫌そうに読書に耽っていた。







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