よく考えたら死にたくはないわな!
校長室前に着くと、二人が緊張しているのが伝わってくる。お構いなしにノックして名前を告げると、二人もそれに続く。
「どうぞ」
そう声がしたので重いドアを開ける。その先にいた校長は蕎麦を食べていた。
「お、お食事中にすみません。出直します」
私が何か言う前に、須和っちが言った。
「どうぞって言われたんだしいいだろ。校長先生、昨日はその、喧嘩腰ですみませんでした。それと聞きたいことがいくつかあります」
ずずずずず、蕎麦を啜る音だけがしばらく室内に響く。はよ食えや、返事しろや、私は言葉を飲み込む。
「今日、私が上機嫌で周りをざわつかせてしまったようだね」
「らしいすね。なんか良いことあったんですか」
須和っちは私に対してすごい顔をしているのだろうと、見なくてもわかる。
「久しぶりに生徒とふふ、言い合いみたいなことをしてね。ふふ」
「…はあ?」
「楽しかったんだよ。若さ故の君のぶつかりが」
「全然わかんないです」
薄気味悪いまである。中年というのは若人にそういうノスタルジック的な何かを見出しがちなのだろうか。括りが大きすぎるか。
「まあいい。謝罪は受け付けた。それで聞きたいことというのはなんだ?」
「えっと、二つあって…。まず、家族とどうにかコンタクトできませんか」
「聞いているよ。短い時間の電話ならできるかもしれない。しかし数分だろう」
「それでもありがたいです!!!!!」
「ふふ…二つ目はなんだ?」
「私、死なない方法はないんですか。よく考えたら死にたくないなーって」
「そうだろうね。ふつうはそうだ。君には大きな呪いがかかっている。それを解く必要があるのだと思う。多分」
「どんな呪いなんですか。プン太とも関係あるんですかそれは!?」
「申し訳ないが、そこまではわからない」
「校長先生でもわからないんですか」
「わかっていたら、真っ先に解くさ」
校長は思っていたよりずっと生徒思いで、身にまとう重い空気のせいでこの人はすごく損をしているのではないか。そう思った。
「私にできることは?」
「自分が何なのか調べることだ。図書館の本も案外馬鹿にできない。私は私で調べるが、一度体の様子をみたい。時間を取ってくれるか」
「いつでも」
「では今日の放課後来なさい」
「わかりました」
午後の授業はほとんど上の空だった。勉強についていけていないのもある。これは期末試験がまずいことになるのは自明だ。でも、1年後死ぬんだったら関係ないか。いやいや、生きてる可能性も無きにしも非ずだ。今度須和っちに助けてもらおう。なんか賢そうだし。
放課後、校長室へ行く前に友達と話していた須和っちが私の姿を見つけ、呼び止められる。
二人で廊下に出た。
「俺も一緒に行く。校長室の前で待ってる」
「せっかく友達が出来たんだから喋ってなよ」
「いや、しかし」
「いいからいいから。なんかあったら連絡するし」
私は校長室に入った。
「よく来た。首と肩のあたりを触らせてもらうが問題はないか」
「どうぞ」
少し制服をはだけさせる。校長の手は大きいが平べったかった。
しっとりとしているが冷たい。その両手で首を触られる。絞め殺されるのではないかとも疑ってしまう。
触られている部分から、自分に何か浸透していくのがわかる。冷たくも温かくもない何か。それが全身に回る。苦しい。絞められていないのに息が出来なくなる。
「ガァッ」
私の口からそんな声が漏れだし、校長は私の状態に気が付き、手を離した。
プン太も校長のそばの机に乗り、怒っているように見える。
「申し訳ない」
本当に申し訳なさそうにする校長。これは見ものだ。気まずい顔もちゃんとこの目に収めておこう。
「いえ。何か分かりましたか?」
息も絶え絶えに校長に聞く。
「これは、根源的なものだ」
「小さい頃から、自分は長生きできないと悟っていました。それと関係ありますかね」
「ああ。とてつもなく根深い」
「どんな呪いなんです?」
「なんとも言えない」
「なんとか言って下さい」
「とても難しいのは確実だろう」
「ですよね」
「今わかるのはこの程度だ。私も調べておく」
「ありがとうございます」
校長室から出ると、須和っちがいた。
「首藤!?何をされた!?」
そうだ。服を直していなかった。取り急ぎ直す。
「必要なことだ」
シャツのボタンを留める。
「そ、そんな対価を…!?」
「何考えてるエロガキ。本当にそんなんじゃない。触診みたいなのが必要だっただけだ」
「え、えろがき…。大丈夫なんだな」
「ああ。待っててくれたんだな」
「まあ…」
「ありがとう須和っち」
「別に、首藤のためじゃないというか、俺がそうしたかったというか」
「自分の事を気にかけてくれる存在って本当にありがたいよ。まあ無理はせんでいいけども」
「まあ…。呪いについては?」
「そう簡単に詳しくわかるものではないらしい」
「そうか…」
私以上に落胆する須和っち。本当に優しい奴だ。
「ところで、図書室で呪いについての本をいくつか借りてきた。教室で読まないか」
「本当に仕事ができる奴め。教室ではちょっとな。呪いについてはあまり広めたくない」
余計に化け物扱いされること待ったなしだろう。
「私の部屋に来ないか」
「そうだな」
「白部先輩も手伝ってくれないかな」
私はケータイを取り出し、連絡を入れる。
「し、白部先輩はお忙しい人だ!連絡など…」
「お、返信きた。良いですよだって」
「…すごいな首藤は」
「私がすごくなかった時があったか?」
画して私の部屋でそれぞれ呪いの本を読む。
ついでに少しだけ身の上話もする。




