私が優秀すぎるため後輩に演習を試みる
飯沼先生が来てホームルームが始まる。そのあと、個人的に廊下に呼び出される。
「今日の3限なのですが、1年の演習をやっていただきたくて」
「2年でもあんな騒ぎになったのにですか?」
「その、1年生は難しい試験を突破した全能感がまだある子が多くて」
「わかりました。全員の鼻っ面をへし折ります」
「そ、そこまでしなくていいんですが…。よろしくお願いします」
というわけで3限に私は演習室に来ていた。
そして阿鼻叫喚になった。パニックは瞬く間に広がり、嘔吐する人も何人かいた。ここから出してくれ!そんな悲鳴まで聞こえる。気絶する人もいる。そんな中、おかっぱで紫頭の奴だけは私を強く睨みつけていた。
飯沼先生があちゃーという顔をするが、何かを唱えると、皆ぼーっとした顔になり、席に戻る。気絶していた奴も起き上がる。
そして先生が指を鳴らすと、皆ハッとした顔になり、正気に戻る。
先生は集団パニックの話や、理解の外側にあるものの話をする。ふむふむと私も聞く。
現代社会の常識と外れたものを見ると、理解しきれずに見なかったことにしたり、パニックになるという、まあ当然の話だ。というか、ここにいる奴らが怪異対策エリートの若い芽なら、そういう経験もしてて然るべきかと思ったが違うのか。
パニックの逃し方などの話をする先生。そのあとで先ほどのより軽めの演習をお願いされたので、プン太に小さい影を全員分出させた。それは勝手に掌の上に乗ったかと思えば、皮膚に沈んで、手首の血管を黒くしていくものだ。そこから血管を上っていく。
「パニックになる前に、自分は今パニックなんだと気付いて下さいねえ~~。それから深呼吸ですよ~~~~」
「ひいあああああああ!」
誰かが叫んだ。おそらくさっき気絶していた奴だ。それを皮切りに、また集団パニックになりかける。
「落ち着け!」
ビシッと言ったのはあのおかっぱだった。
「よく見ろ!これはつまめる!」
おかっぱは掌の黒い影をつまんで私の方へ投げた。プン太がそれをたべる。
おかっぱの言う通り、これは血管を汚すようなものではなく、そう見せるだけのものだ。
みんなおかっぱの言う通りにして、何とかこの場は二度目の集団パニックを防いだ。
「さすがは紫苑委員長ですねえ~~そうなんです。怖いからと目をそらしてもダメなんです」
授業が終わる。全員疲れ切っているのが分かる。それでもチャイムが鳴る前にみんなで汚した床を掃除していた。やはり育ちは良い。
「先生。ありがとうございました」
おかっぱが授業後にそう言いに来た。私にもなにかあるだろうかと思ったら何もなく、睨みつけてくるばかりだった。
「かわいくねえな」
呟きはおかっぱの耳に届いたらしい
「化け物が」
おかっぱは私の目を見てそう言った。
「駄目ですよ」
飯沼先生がいつもとは違った声色で言う。
「首藤さんは演習に協力して下さいました。怪異がどういうものか皆さん、身をもって学べたはずです。それなのにそんなことを言うのは駄目ですよ」
子供から、大人の圧力のある声がした。
「…すみません」
「謝るんなら私の方を向いて謝れよな!」
私は鬼の首をとったように気分が良くなる。
「…すみません」
「へっ。一年坊主が生意気言いやがってよお~」
「首藤さんも挑発はやめましょう」
飯沼先生にそう言われてしまうと何も言えなくなる。しかしおかっぱは私をまだ睨みつける。私もおかっぱを睨みつける。
「ってことがあったんだけどひどくないか!?」
昼休み、いつものメンバーに伝える。もちろん感情の共有のためであり、私に同情してほしいから話題にした。
「いや、最後雑魚い下っ端みたいなこと言うなよ。首藤も」
「そうだよ1年だぜ?それに今7月だから、入学したのは1年の方が先じゃん」
「転校生の首藤の方が後輩だな」
「何その怖すぎる演習…俺も気絶してたかもな…」
「まだ1年なんだぞ。加減してやれよ」
各々好き勝手に言う。
「はあ?私が可哀想という話をしているんだが」
「可哀想には見えねえからなあ」
熊川が言う。
「てか、怪異エリートの皆さんさあ、昔から怪異が見えたりとかはしないの?」
誰から話そうかという雰囲気の中、口を開いたのは須和っちだった。
「不気味なものを感じ取ったり、一瞬みえたりするくらいの奴がほとんどだ。一部、首藤のように、いや首藤レベルはいないが、きちんと見えたり触れたりする人もいる」
「そんなもんなのか。昨日春日井もバケモン殴れなかったし」
「それは…不甲斐ない。てかあの時の絆創膏ってなんだったんだ?」
「私のズボンのポケットに入れてあって、私の気?みたいなのが移ってる」
「すげえな」
「多分」
「曖昧なのかよ」
「こういうのって誰から教わるもんでもないからな」
「まあ、そうか」
春日井は立ち上がる。
「あ、オレ、弟の様子見てくる」
そうやって各自解散となった。須和っちと二人で歩いているときに、白部先輩と出会う。
「ここにいたんですね。探しましたよ」
「あ、白部先輩。連絡先交換しましょう」
「え。ああ。もちろん良いですよ」
白部先輩も連絡先の交換に慣れていないようで、それが妙にかわいかった。
「はい。その読み取りで…はい。これで私を追加できたので…あ、須和っちも交換したら?その方がよくない?」
「そうだけど…。白部先輩、い、良いですか?」
「は、はい。もちろん。私で良ければ」
二人はあまり友達がいないのだろうと勝手な妄想をする。
「で、白部先輩は何の用だったんですか。また実習?」
「いえ、校長先生が、その、様子がおかしくて」
「私のせいっぽいやつですね。私も話したいことがあったので話してきまーす」
「俺も行く」
「まあストッパーは必要か」
「私も行きます。念のため」




