並行世界ではスマホは圏外だった
「何言ってんだよ!」
校長室から出てすぐ、須和っちは言った。
「私にはもうこれしかない。死ぬんだから」
「でも…」
須和っちは言葉を失い、握りしめていた拳を力なく開いた。
「俺のせいだ…役に立たなかったから」
「違います。いずれにせよ首藤さんはその回復力に気付き、校長に直談判していたと思います」
「そうそう。早かったおかげでいっぱいお金取れる!」
「その金だって!生きてなきゃ使えないだろ!」
須和っちはまた声を荒げる。
「私はなんとなく長生きできないって昔から思ってた。うちは貧乏で、私が遺せるものつったら金しかないんだよ」
私は須和っちの肩に手を置きながら諭すように言う。
「そんな。そんなのって…!」
須和っちは走り出してどこかへ消えた。
「私、ヘンですか?」
白部先輩に聞いてみる。
「どちらの言い分も分かります。ただ、あなたの環境がやるせない」
「まあ、そうっすよね。須和っちにも白部先輩にもそう言われて、私はちょっと救われるところがあります。ありがとうございます」
「…ただ、無意味に体を傷つけるのはもうやめてくださいね」
「はい。そいつはもう」
部屋に戻る。夕方を過ぎて夜になっていた。食堂まで向かうのが面倒だが、空腹には耐えられない。ヨタヨタと食堂に向かうと、春日井がいた。
「実習おつー!須和っちも無事そうで良かったよ」
「まあ、私にかかればイチコロよ」
「あはは。でもなんか疲れてない?」
「まあ、初めてのアレだったし。体力不足だな私は」
「食券買ってくるよ。何食う?」
「カツ丼!」
春日井は良い奴だ。クラスで人気なのも分かる。
そのうちカツ丼と水を持ってきて春日井は私の前に置いてくれる。
「弟さんの調子はどうだ?」
「すっげーいい!ちょっと前まで会話も出来なくて、出来ても意味不明で、たまに泣いたり怒ったりしてたのに、前の弟に戻ってきた」
「なら何よりだ。兄弟でこの学校に入るのって珍しいのか?」
かつ丼を口に運ぶ。おいしい。体があったまっていくのを感じる。
「たまーにいるくらいかな。兄弟だと体質が似ることも多いし」
「そうなんだ。春日井は弟さんと仲いいの?」
「あんまり。でも弟があんなんなった時はさすがに落ち込んで。今は前より仲良いと思う」
「そうか。良かったな」
「首藤さんのおかげだよ」
「そうだな。盛大に感謝しろ」
「あはははは。一生かけて感謝します」
私の一生というのはあと一年程だが、まあそれだけ感謝してもらえれば十分か。
「春日井は夕飯食べないのか?」
「食った」
「じゃあなんでここにいるんだ?」
「ここにいたら、首藤さんに会えるかなと思って。実習って何があるか分からないし」
「そうか。心配かけたな。でも私は無敵だから平気だ」
「あははは。そうだね」
私を待っている間、この春日井はどんな気持ちだったのだろう。弟が実習で何かあったらしいし、気が気でなかったのではないか。
「春日井。ありがとうな」
「いいええ。こんなことくらいしか出来ないし」
「クラスで初めて出来た友達が春日井で良かったよ」
「須和っちは?」
「あれはクラス以前だからなあ。そうだ。連絡先交換しないか。そしたら待たせたりせずに済む」
「確かに」
私はポケットに入れていたスマホを取り出す。圏外だった。
「悪い。異世界人だってこと忘れてた」
「圏外になるんだ!おもしろ。まじで異世界人なんだ」
「スマホ準備してもらうから、そしたらまた言うわ」
「おっけー」
春日井は寮へ戻った。
私はかつ丼を食べ終え、食器を返却口に戻し、部屋に戻る。
新しい制服が用意されていた。
プン太を持ち上げるとどこまでも伸びる。傷などがないかチェックしたかったのだが。
「プン太、痛いところはないか?」
プン太は何も言わず、掛け布団の中に潜り込む。
「今日は助かった。というか毎日助けられてる。ありがとう」
プン太は私の腹に乗っかってくる。撫でていると眠気が襲ってくる。やはり疲れているらしい。
「おやすみ」
私は電気を消した。




