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私は一年以内に呪いで死ぬらしい。けどそれ以外では死なないので肉壁になります  作者: 湯瀬木


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2/21

学校案内されるようだ

食堂は朝には数名しか人が居なかったが、ランチタイムの今、そこそこ人がいた。

翌朝の未明に起きる。いくら私でもこんな状況で深く眠ることは出来なかったらしい。ふかふかのベッドに申し訳なくなる。プン太は足元にいたので抱きかかえる。体温はないが、落ち着く。

服を着替える。男子校らしく、制服も男子のものだ。少しサイズが大きいが許容範囲内だろう。この制服は一見カチっとした素材に見えるが、柔軟性がすごい。股割りにも余裕で耐えた。

髪も結ぶ。後頭部の高い位置に一本結びだ。


ノック音に返事をすると、須和っちと白髪がいた。朝食用が三食分入ったカートを押している。


「おはよう須和っち。そして野蛮な白髪」

「ちょ、白部先輩になんてことを…!」


須和っちは慌てる。白髪はそれを片手で静止した。


「昨日は何から何まで本当に申し訳ありませんでした」

「ほんとだよ。まあ何となく上からの指示とかそういうのもあるって分かるけど、学生なのに中間管理職やってて大変だな」


白髪は困ったように笑う。


「まあ…そうかもしれませんね」

「あんたも学生なんだろ?教師に甘えられてちゃわけないよ」

「ふふ」


今度は困っていない風に、思わず漏れてしまったように笑った。


「自己紹介も遅くなりました。私は3年の白部と言います」

「おん。私は首藤。よろしく」

「てっきり、昨日の一件で嫌われたかと」

「意外と気にしいなんだな。あんた」


白部はまた困ったように笑った。


「朝食にしましょう」


そう言ってソファー前のテーブルにてきぱきと白部と須和っちは乗せていく。

トーストとサラダ、ハムエッグ、スープにデザートのヨーグルト、内容はそんな感じだった。

ソファーに座ったままでは食べ辛いので、床に座る。二人もそうした。


「いただきます」


手を合わせて言う。二人も言ったので、文化もどうやらほとんど同じと見て間違いなさそうだ。


「白部の好きな食べ物って何?」

「え…ハンバーグでしょうか」

「ソースは?」

「デミグラスソース、ですかね。基本的にはハンバーグでしたら何でも好きですが…あとケチャップとか」

「何を聞いてるんだよ」


須和っちが入り込む。


「いや、あまりにも人間らしさが見受けられなくて。デミグラスじゃなくてシソと大根おろしだったら本当に人間か怪しんでたな。ケチャップまで聞けて良かった」

「何の基準だよ。あとあんたいくつだ?」


須和っちはぶっきらぼうに言う


「今年高2の年だな」

「じゃあ白部さんは先輩だ」


やや怒りながら須和っちは言う。


「そいつはすみませんでした。白部先輩」


トーストにかじりつきながら私は言った。バリッといい音がする。


「まあまあ…」


この人は事なかれ主義者なのだろうか。だとしたら本当に中間管理職がすぎる。この年で。可哀想に。


「今日はこの後私どうなるの?」

「飯沼先生と合流します。そこで詳しいお話がきけるかと思いますよ」

「へえ。そこで二人とはバイバイ?」

「だろうな」

「そいつはちょっと寂しいな」


私はスープを啜りながら正直に言う。シンプルなコンソメスープだが、美味しい。


「そういう感情もあるのか」


須和っちはフォークをこちらに向けて嫌味ったらしく言った。


「そういう感情しかないぞ。私は」

「ふふ」


スープを上品に飲み終えた白部先輩が笑った。


「…不安だなあ。何もかも」


私はまた素直に言う。

須和っちも白部先輩も言葉を失った。


「須和っち、胸を貸してくれよ」

「え。あ。ええ…そういうのは」

「じゃあ白部先輩」

「あの、えっと…」

「じゃあいいや。プン太!」


ベッドの下に潜っていたプン太がマフラーのように私に巻きつく。

私は目元をプン太で拭く。


「プン太にもできるのになっさけねーでやんの。…ああ。私が女子だからか」


二人は黙る。


「悪かったな。セクハラだったのか」


二人は何か言いたそうに、けどやはり黙った。


「私ってあんたらを困らせてばかりだな」


朝食を三人とも終えた所で、飯沼先生とやらが迎えに来る。


「首藤さんおはようございます~。体調などに異変はありませんか?」


私より身長が小さく、子供にしか見えない風体にぶかぶかの白衣。髪は薄い黄色だ。

声も高い。


「おはようございます。問題ありません」


本当に大人なのか疑いつつも、答える。


「なら何よりです~!ここからは僕が学園の案内だったり、この世界について説明させていただきますねえ」

「あの」


口を挟んだのは白部先輩だった。


「学園の案内は私たちも付いて行ってもいいでしょうか」

「何故です?」


口ごもる白部先輩に変わって答えたのは須和っちだった。


「生徒目線だと紹介の仕方も変わってくると思いますし…。それに、俺達は首藤に会った初めての生徒で、朝食も共にしています。ええと、なので…ほっとけないというか」

「もちろんいいですよ!」


にこやかに言う飯沼先生。


「須和っち…!白部パイセン…!……授業とか大丈夫なん?」

「今日は休みだ」

「休みの日に付き合わせちまってすまねえな」

「良いんです。これも何かのご縁ですので」

「先生もすみませんね。休みの日に」

「先生は今日はお休みじゃないので大丈夫ですよ」


何か社会の闇に触れそうになる気がしたので、そこで聞くのを止めた。

まず、校舎の案内を三人はしてくれた。5学年あるが校舎は一つ。クラスも学年に一クラスで、40名程だという。

もっと根本的に気になることを飲み込んで、私は聞く。


「少ないんすね」

「はい。この学校に入る条件というのが厳しいものですので」

「じゃあ須和っちも白部先輩も精鋭なんだ」

「はい。お二人ともとても優秀です」

「やるじゃん」


須和っちを肘で小突いてみる。


「うるさい」


やはり須和っちはツレない。

学食、講堂、体育館、校庭、実習室という広い音楽室のようなところ。入れないが学生寮。

いろいろな教室を一通り見て回る。

途中の自動販売機では見たことのない製品しか売っておらず思わず買ってしまった。

私の世界のお金が使えると、図らずも証明してしまった。


「こんな感じです。まあ過ごしていくうちにわかることが多いとおもいますので」

「あの」


私は尋ねる。


「女子トイレってありますか?」

「…多目的トイレがあります!」

「ならいいか」


須和っちと白部先輩はまた部屋に来てくれると言って立ち去り、飯沼先生と私が残される。

そしてある小さな教室に入り、向かい合わせに座る。


「混乱してることと思います」


飯沼先生は相変わらず穏やかな声で言う。


「そりゃあ、もちろん」


私はマフラーにしたプン太の端を先生からは見えない机の下でぷにぷに握ったり潰したりしていた。


「いろいろありますけど…家族が、家族は絶対に私を心配してるはずなんです!急にいなくなったことなんてなかった!」


私は声を荒げてしまう。


「声が聞きたい…話がしたい…」


張りつめていた心が弾けるのではなく、急に緩み始めた。こんな子供の前で情けないとおもいつつも止められない。


「そうですよね。それに関しては今手配中です。…すみません私からはなんとも申し上げられなくて」

「…そうですか」


私は自販機で買ったライチウーロン茶を開けて飲む。案外すっきりとしていておいしい。けれど初めての味だ。心を落ち着かせる。


「でも金は用意出来るって校長が言っていましたよね?今の私にはそれしか縋るものがない。逆に言えば、それが嘘だったとしたら」

「校長先生は実現できないことは約束されません。そこは大丈夫です」


じゃあ電話くらい簡単そうなもんだけどな、そう思ったが口には出さなかった。


「で、ここの学校はなんですか?」

「そうですよね。ここは怪異対策のために創設された学校です」

「なんかここの世界には怪異が多いとかなんとか須和っちから聞きました。そのための国営の組織まであるとか」

「はい。ですが、機密事項です」

「須和っち口軽っ」

「ここ以外の人間には」

「なるほど…」

「怪異対策は、元々の素質が大事です。なのでここの学校は少人数制で、卒業後の進路も概ね決まっています」

「その国営組織っすね」

「はい」

「そんなに怪異って多いんですか?」

「多いです。それも、甚大な被害をもたらすものも数多くあります」

「甚大な被害…」


つまるところ私がやるのは人助けか。だったら気分も良い。


「座学で怪異のなんたるかを学び、演習で怪異へ立ち向かう方法を学ぶ。実習で実際に立ち向かう。ここはそういうところです」

「一般的な勉強はないんですか!?」

「ありますよ」

「なんだあ」


私は残念がった。


「ふふ。他に何か聞きたいことはありますか?」

「ええと、じゃあ…聞き辛いんですけど」

「なんでもどうぞ」

「飯沼先生はおいくつですか?」

「34歳です」


驚いて声も出ない。


「ふふふ…。私のね、親がイカれていて、私の霊力…怪異と戦う力なんですけど、魔力全盛期と思われる所で成長を止めてしまったんです。物理的にも超自然的な力でも」

「それは…すごい親御さんで…」

「ふふ。首藤さんを驚かせられてなんだか嬉しいです」

「そんなことで喜ばないで下さいよ」

「ふふふ」


少女のように飯沼先生は笑った。


「そういえば、今日は休みの日ってことでしたけど、他の学生たちはどうしてるんですか?」

「学校の敷地外で遊んだり、部屋で休んだり、普通の高校生と変わりありませんよ」

「外、出られるんですね」

「平日には外出許可証が必要ですが、休みの日は大丈夫です」

「なんていうか、案外普通ですね」

「まあ、そこは授業が始まってみればわかると思いますよ」

「…私の部屋、よく急に用意出来ましたね」

「実は宿直室なんです。4部屋あるうちの一つでした」

「そんなに宿直室が?」

「昔は必要だったんです。今は無用の長物でしたが、首藤さんの部屋になってありがたいです」

「はあ…。あ、なんで私は男子校にいるんですか?」

「この世界には女性には霊力が少ないとされているんです。また、筋力的にも男性の方が都合が良かったのではないかと言われています。そのため、男子校しかないんです」

「へえ…」


それからも少し話をしていると、チャイムが鳴った。


「昼休憩のチャイムです。お話もキリがいいですね」

「すね」

「では教科書などはまたお届けしますので、月曜日にお会いしましょう」


教室の外では須和っちと白部先輩が待っていた。

飯沼先生はでは、といって会釈してどこかへ行く。


「須和っち~~~白部せんぱ~~~い」


二人を抱きしめたくなる。


「腹減ってるか?」

「腹ペコよ。そりゃあわけわかんない話散々してさあ」

「食堂で昼食はいかがですか」

「そうします!」

視線が私たちに集まる。まあ私はこの学校の唯一の花なのだからしょうがない。


「あれが昨日の…」

「バケモン使い…」

「ネクロマンサー…」


地獄耳の私に入ってきた単語はそのような言葉ばかりだった。昨日の大立ち回りは確かに生徒寮の前でもあった。一人くらいは女だと思ってくれても良いのに。

それはともかく、カレーはおいしかった。親しみ慣れた味はやはりほっとする。

プン太にも一口やると、席を共にした二人は驚いていた。


「ふ、普通のモンも食うのかそいつ…!」

「食うよ。たまにだけど。そういえば昨日の…私が倒した人たちってどうなったの」

「倒されてませんよ。救われてます。敷地内の病院で休んでいます」

「そっか。なら良かったね。あれみんなどうしてあんなんなっちゃったの」

「…実習で失敗した」


言い終えた須和っちはラーメンを啜る。


「失敗…」

「はい。怪異被害で、脳と体を蝕まれる方もいるんです」

「その人らを私は助けたのか」

「はい」

「8人くらいいましたよね。あの場に」

「そうですね…?」

「これは…すごく金になっている予感が…うわあ…」


私は喜びながらカレーをまた口に運んだ。


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