↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は一年以内に呪いで死ぬらしい。けどそれ以外では死なないので肉壁になります  作者: 湯瀬木


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/21

母に会いに行こう!

早朝に起きる。外は晴れている。昨日のことを思い出すが、まだ木曜のため、今日と明日を乗り越えなければならない。にしても、本当に友人に恵まれたのだと改めて思う。みんなの事が大好きだ。まだ2週間も経っていないが。よっしゃ!今の私は気力も体力も満ち満ちている。

ようやくランニングができる。運動着に着替えていつもの運動場の近くに行く。

緑島はやっぱりいた。嬉しい。


「おはよう!!!!」


後ろから大声で言う。


「うるっさ!あーもー!びっくりした!」


緑島はにやけているし、私もにやけていただろう。

走り込みを開始する。


「昨日はありがとうな」

「もういいって」

「私のせいで怒られたんだ。感謝くらい何度もさせてくれよ」

「いいよ。俺がしたかったの」


緑島は振り返らずにそう言った。

ゆっくり、無理のない程度に走る。


「てか、首藤にかかってるストレスも心配だよ。親しい友人として俺は」

「まあ別にそういう世界もあるんだな、みたいな感じに留めておいてるよ」

「ふうん」

「ただ、生まれてくることとか生き続けることは当たり前じゃないんだなとは思った」


もっと走る時間はあったが、緑島は早めにランニングを辞めた。私の事を思いやっての事だろう。

汗を拭きながら部屋に戻ろうとすると、ドアの前に紫苑がいた。体育座りになっており、小柄な体がさらに小さくまとまっている。


「紫苑?どうしたんだ」

「どうしたもこうしたもないです!僕は」

「まあ、ここで話すのもアレだし、部屋にはいりなさい」

「へ、部屋って、先輩の…?」

「そりゃあそうだろ」


紫苑をソファーに座らせて、紅茶を淹れる。

それを飲んで紫苑は美味しいですと言った。


「そうか。それは良かった」


紫苑の隣に座る。紫苑は私を避けるように座りなおす。


「ランニングの後なんだ。汗臭かったらすまんな」

「そ、そんなのは今どうでもよくって。ああああ!先輩のペースに乗せられてるのも気に食わない!」

「やっぱ汗臭いか…シャワーを」

「しゃ…シャワー!?待ってください!すぐ終わるので!」

「おう。なんだ?」

「先輩はどうかしています!それを容認してる学校もどうかしてる!」

「私がおかしいことに学校を付き合わせてるだけだよ。紫苑はここに怒りに来たのか?」


紫苑はハッとした顔になって俯いた。背を丸めて、手は膝を掴んでいる。


「…わかりません。けど、僕は怒らなくちゃいけないんです!絶対に!」


紫苑は私を睨みつける。膝を掴んでいた手は拳に代わり、ぶるぶると震えていた。


「うん。正しいよ。ありがとな」

「なんですかその態度!僕は…僕はあなたに怒りをぶつけてるんですよ!?自分勝手な怒りを!腹立たないんですか!?なんでそんな余裕ぶっこいてられるんですか!?死ぬんですよ!?痛い思いばっかりして、家族とも離れて、死ぬんですよ!?」


彼の怒りは私の怒りだった。私は思わず紫苑を抱きしめた。


「ありがとう。本当にありがとう。紫苑」

「そんなの、そんなのって、許されて良いわけないじゃないですか!?」


彼は涙声になっていた。

抱きしめながら、みすみす死ぬ気が無いことと、現状についてもゆっくり説明した。

それが終わると、彼はうわあああと、声を上げて泣いた。

プン太も私たちを抱きしめた。


目を腫らし、顔が赤くなった紫苑と食堂に向かった。


「新メンバーの紫苑だ」


須和っちと白部先輩に報告する。


「紫苑も友達いなさそうだしちょうどいいな」


デリカシーの欠片もないことを私は言う。


「はあ!?そんなこと、そんなわけ…とっ、友達…?いや…だって…」


紫苑は今気づいたらしい。


「紫苑、大丈夫だ。俺と白部先輩もぼっちだった」


須和っちは言う。


「お二人も…!?そうだったんですか」

「首藤さんのおかげで今はお友達なんですよ~。紫苑くんともお友達になれたら嬉しいです」

「は、はあ…。会長がそう言うならまあ」


ニコニコと白部先輩は言う。

朝食メンバーは私含めて4人になった。


その日の授業は全然身に入らなかった。どうしても頭が実母のことを考えてしまう。同時に友人たちへの感謝もあふれてくる。


そうして、上の空のまま土曜を迎えた。


金曜の夕方にまたみんなが集まってくれ、土曜をどうするか話し合った。

私が一人で実母に会うと言うと、何人かは心配してくれ、中でも須和っちは本当に大丈夫かと食い下がってきたが、決心は揺らがなかった。


何本も電車を乗り継いで、最後はバスに乗ってそこへ向かった。実母がどこかに行っていたら、外でずっと待ち続ける気だった。

家を見て、少し懐かしい気持ちになった。桜の木が植えられており、春は良いが、開花が終わるとよく毛虫を落としており、それを枝に乗っけて父を怯えさせた。庭でビニールプールを開くため、空気を入れるためのポンプに私も参加したがった。

息を整えてから、チャイムを押した。はーい、女性の声が聞こえる。落ち着いていたはずなのに急激に心臓が動き出すのを感じる。

曇りガラスの引き戸が開かれる。母は私を見る。母を見て、私は何を言えばいいのか全くわからなくなる。頭が真っ白になる。それは母も同じようで、一瞬固まったのちに、口元を抑えた。


「あ、あの…私」


私は声をなんとか出す。

母はよろよろと私に近づき、顔を撫でた。


「相ちゃん…?」


何度も頷く。


「嘘…」


母は私を家の中に入れてくれた。やはり間取りも室内の雰囲気も懐かしいものがある。

それからお茶を出してくれる。よく冷えた麦茶だった。いただきますと言って口をつける。胃がひんやりして落ち着く。


「あの、よく私が相だってわかりましたね」

「わかるよ。親だもん。というか、私とそっくりっていうのが大きいか。髪が黒い人は初めて見たけど」


座卓の向かいに座りながら母は言う。


「信じてもらえないと思うんですけど、私、違う世界から来てて」

「そうなんだ。だから生きてるんだね」

「こっちの私はやっぱり亡くなってるんですか」

「うん。ダメだった」


母は部屋の隅の仏壇を見やる。


「あの、お線香上げても…」

「もちろん。でも、自分にってなんだかおかしいね」

「ですね」


私も母も少し気まずく微笑んだ。仏壇の前に行くと、赤ん坊の写真がある。

線香を上げて、お鈴を鳴らす。澄んだリーンという音が部屋中に響く。

手を合わせる。こっちの私、ドンマイ。でもあんたも愛されて生まれてきてよかったね。そう私に思う。

座卓に戻る。


「やっぱりもっとよく顔を見せて」


母は言う。はい、と返事をすると、母は横に座り、私の頬をまた撫でた。


「鼻がちょっと洋一さん似だね」

「ですかね。あの、先日友達がこちらに来て…」

「ああ。あのお人形みたいな子だね。お友達だったんだ」

「突然すみませんでした」

「こちらこそ。冷たく当たっちゃってごめんなさいって伝えてもらえる?」

「はい。それはもちろん」

「…お友達もいるんだね。良い子に育ったんだね」


母はそう言うとポロポロと泣き出した。


「お母さんが産んでくれたからです」


母は泣きながら首元を触った。苦しい。胸が痛い。怖い。辛い。母は少しして手を放す。


「相ちゃんがここに来たのは、呪いのことについてだね」


涙を拭き、鼻をかんで母は言う。


「はい」

「そっちの世界では私の術が成功したんだ。でも、完全じゃない」

「1年以内に死ぬと言われています」

「そんな…。いや、けど、そうだね」

「あの、お母さんは私に何をしたんですか?」

「相ちゃんが死ぬ寸前、私は禁忌の呪いを相ちゃんに掛けた。死者を蘇らせ、従属させる呪い。こっちの私は失敗して、相ちゃんは死んだ」

「呪いで私は生きているんですか」

「そう。どうしても死なせたくなかった。ごめんね」


みんなの予想通りだった。しかし本人からそのことを聞くと一層腹に暗いものが溜まる。


「どうすれば私はもっと長生きできますか?」

「…わからない。禁忌の呪いだったから、成功したらどうなるかもわかってなかった。そっちの世界の私はどうなったの?」


私は黙ってしまう。それだけで母には伝わったらしい。


「そう。でも相ちゃんが生きてて、こんなにいい子に育ってるなら、そっちの私も何の後悔もないと思う」

「…あの、お母さんの家って、やっぱり呪術系なんですか?」

「わからない。母方の実家に大きな蔵があってね。そこで勝手にいろいろ覚えたの。蔵にあんな巻物がいっぱいある時点でやっぱりそっち系だったのかも」


静かになる。リュックが動くのでプン太を出した。膝の上に置いて撫でる。


「え」


プン太を見て母は驚いた表情になる。


「それは…?」

「プン太って言って…物心ついた時には傍にいてくれました」

「…ちょっと良い?」

「どうぞ」


プン太を母に渡す。母はプン太を揉んだり伸ばしたりする。プン太は特に嫌がっていない。

と思ったら、突然母の口や鼻に入っていった。


「プン太!?」


引っこ抜こうとしたときにはプン太はもう入り切ったあとだった。母はゆっくりと倒れる。


「プン太!?お母さん!?お母さん!!!」


母の体をゆする。脈を確認するが問題はなさそうだ。救急車を呼ばないと、そうケータイを取り出そうとしていると、プン太が母の口や鼻から出てきた。


「お母さん!大丈夫ですか!?」


母は起き上がった。


「ね。どうすればいいのかしらね」


プン太は母の膝に乗っている。


「私にできることならなんでもしたい。寿命だってあげたい」


母はプン太に話しかける。


「お母さんはお母さんですけど、私のお母さんではありません!それは駄目です!あなたの相は亡くなってる!」


どういう状況かは分からないが、極論に否定をする。母は目を細めてこちらを見る。


「本当にいい子」


母は私を抱きしめた。涙が勝手に出てくる。


「お、お父さんは元気ですか…」


涙声で聞く。


「とっても。今度ね、何か動物でも買おうかって話して、ついでに引っ越しもしようかって話してるの」

「それはとても良いですね」

「相ちゃんと過ごしたここを離れるのは辛いなって思ってたんだけど、相ちゃんはそう言ってくれるんだね」

「だってここ、ボロボロじゃないですか」

「ふふ。そうね」


母の抱きしめる力が強くなる。


「分かんないですけど、別の世界の私のために何か怖いことをするのはやめて下さいね」


私は念を押す。


「こっちの相に私が怒られちゃうから…」


私はそう続けた。


「そうね。…そうだね。でも、可能な限り手伝いはさせて。いや、する。母の家に行ってみる」


母は私から離れる。


「プン太ちゃん。お願いね」


プン太は私の頭の上に乗った。それから、仏壇の引き出しから私にあるものを渡した。金色の細いチェーンのおしゃれな腕輪だった。


「これ、あなたに持っていてほしい」

「いいんですか」

「うん」


慣れない腕輪を母が付けてくれた。

また麦茶をいただく。母がいて、懐かしい家があって。そういう未来もどこかにあったのかもしれないと思うと、なんて私は贅沢をしているんだろうと思う。

母は私の写真が撮りたいと言って、何枚も撮った。一緒に自撮りもした。やはりそっくりだった。そっくり過ぎて、二人で大きく笑った。笑って笑ってから少し泣いた。

母と連絡先を交換して懐かしい家を後にした。

帰り道。バスの中で人目もはばからず、プン太を揉む。憎たらしいほどいつも通りだ。

友人のグループに母とのツーショットを送ると、すぐに既読が付く。似すぎ、という反応が多かった。詳しい内容は私も整理しきれていないので、メッセージにしようとしてやめる。

電車に乗り換える。ここからあと1時間半はかかる。

私の呪いを解除したら死者に戻るだろう。私がここまで生きてこれた方がおかしいのではないか。どう考えてもそう結論付けられてしまう。予想していたのに、現実味が伴って思想を圧迫する。のこり1年未満、どう生きようか。とりあえずここでお金を稼ぐ。何とかして元の世界に帰って家族に会う。こっちの世界の友達も大切だが、元の世界の友達にも会いたい。

どうやって生きるかより、どうやって帰るかを考えた方が建設的な気がしてきた。こっちとあっち、行き来出来たら私は残りの寿命を生ききれるだろう。


学園に戻り、私は部屋のソファーに横になる。そのまま夕方前の空をぼーっと眺める。みんなに何があったか説明すべきだったが、そんな気になれない。プン太が私の背中で何度もジャンプするが、相手をする気にもなれない。私はただただ凹んでいた。自分が死のうが家族にお金を遺せるならそれでよかったはずなのに。


「てかプン太はお母さんに何をしたの…」


プン太に話しかけるが、いつも通りプン太は何も言わない。知っていたが虚しくなる。


「プン太ってなんなの…どうしていつもそばにいるの…」


プン太は私の顔に近づいてくるが、その意味は分からない。


「17年生きれただけでも御の字なのかなあ。やっぱりなあ…そうだよなあ…」


自分を納得させようと出てきた言葉は虚しく空に消える。

ケータイが鳴る。須和っちから電話だった。出ようか少し考えてから、また鳴ることを想定して出る。


「おい、帰って来たのか」

「うん」

「そうか。連絡してくれよ。みんな心配してる」

「ごめん」

「…今日は無理そうか?」

「ごめん」


須和っちはすこし黙る。ざわざわと声が聞こえる。みんな集まっているのだろうか。


「えーでも、一人にしとく方がぼくは心配だなあ」


茶野の声。


「俺もそっち派だな。賑やかしでもないよりあった方よくない?」


緑島の声。


「でも一人になりたい時もありますよね」


白部先輩の声。


「うん。今はそっとしておいてやるべきなんじゃないのか。色々あって疲れてるかもだし」


春日井の声。


「別に明日で良いような気がしますけど、まあ、なんか様子おかしいですよね。首藤先輩がしおらしいなんて」


紫苑の声。

皆の声が聞こえて、なんだか笑えてくる。1年後に死ぬとしても、良い人生だったと胸を張って言える。大丈夫。そうだ。友達がいる。私は一人じゃないんだ。私はケータイを一旦置いて、両頬を叩いて、息を大きく吸って吐く。


「今みんなと話してるんだけど…」


須和っちの声を遮って言う。


「私は!大丈夫だ!みんなに報告させてくれ!」


ということで開いている教室に集まる。私の部屋でもよかったが、大所帯になりすぎた。

全員適当な席に座り、私は教壇に立つ。そして何があったか告げる。


「というわけで、予想は概ね一致していたわけだ。私は死人で、母が蘇生させた。その代償として母が亡くなったのだと思う。だから呪いを解けば私は死ぬ可能性が高い。従って、呪いがあってもなくても私は死ぬんだ」


紫苑は口を真一文字に結んで、眉間にしわを寄せて震えだす。

隣りの茶野が椅子ごと近寄って背中をさする。紫苑は一度それを振り払うが、顔を手で覆ってからはされるがままになった。

他のみんなも口を開かない。


「結局死ぬんだったら、あっちの世界とこっちの世界を行き来したいというのが私の最後の望みだ。呪いより、今後はそっちに尽力したい」


私は言う。


「少し待ってください。お母様が仰っていた、禁忌の呪いは、死者を生き返らせて従属させるものということでしたよね?」


白部先輩が普段通りの口調で言う。私は頷く。


「首藤さんは、どなたに従属しているんですか?」

「それは…従属してる感じはないですね…。ただ、禁忌の呪いなので詳細が分からないのと、そこをたどったところで私の死は免れないと思います」

「首藤さんのお母様の旧姓は何ですか?」

「えっと、落方です。落ちるに方向の方で」

「聞いたことがある気がします。私はそっちを調べます」

「ぼくも。そんな強い禁忌の術が書かれてるなら、うちともなんか繋がりあるかも。呪いはうちのお家芸だし」


茶野と白部先輩は顔を見合わせて頷いた。


「春日井、委員長、紫苑ちゃん、俺達はどうする?」

「首藤の母が言っていた蔵に行ってみたい」

「僕も蔵が気になります」

「じゃあ俺と春日井は異世界の方かな。良い?」

「おうよ」


ちゃちゃっと役割が分担される。それも、私の生をみんなまだ諦めていない。


「みんな、本当にありがとう。大好きだ。この世界に来れて良かった!」


そういうと、各自がポカンとして、そのあとに微笑んだり照れたりしていた。

夜になっていたので解散する。部屋に戻ってニヤニヤしながらプン太を揉む。

揉みながら、プン太をみる。


「おまえ、ずっと私と一緒に居てくれたよな…。私が従属してるのって…」


プン太は何者なのだろう。悪魔とか、呪いが具現化したものとか、そういうものなのだろうか。

母にメッセージを送る。蔵に友達と行きたいと。母から電話が来るので出る。


「いいよ。行こう」

「そんな突然良いんですか?向こうの都合とか…」

「気にしない。連絡入れた方がややこしくなりそう。明日って行ける?」

「行けます!」


それから須和っちと紫苑に明日母の実家にいくことになったと伝えると、二人とも一緒に行くと快諾してくれた。

母が車を出してくれるという。


寝る前に、元の世界の母、養母の事を思い出していた。実子と変わらず接してくれ、厳しいときは厳しく、よく鼻歌を歌い、どちらかといえば豪快な人だ。私の性格は養母に由来する部分も大きい。

実母に育てられていたら。また、無意味なもしもの妄想をしてしまう。この世界の私に会いたかった。私は青髪の私を悼む。そして、この世界の実母に残酷なことをしている自覚をせめてちゃんと持つ。


早めの時間に集合だったので今日もランニングはなしだ。あの時間はあの時間で大事なので明日は必ず行く。


身支度を整えて食堂に行くと、須和っちと白部先輩、紫苑が既にいた。


「おはようございます。早いっすね」

「委員長気質とかなのかな…。ぼっち気質じゃねえといいんだけど」


須和っちが言うと、残りの二人はビクッとした。


「そ、それより、今日お母様の実家に行くんですよね?先ほどお二人から聞きました」

「はい。そうなりました」

「気を付けてください」


先輩はカバンから手裏剣を大量に取り出して私たちに配る。


「使わないことを祈ります」

「ありがとうございます」


私たちは感謝を述べる。


「私と茶野くんは今日は実家に帰ってみます」

「近くにあるんですね」

「いいえ。でも方法はあるので」


霊力?というのはどこまで万能なのだろう。


「紫苑はトランプじゃん?須和っちはなんか道具とかないん?」

「刀使ってたんだけど、妖刀みたいになるわ、ひしゃげるわで、最近いろいろ試してたんだけど、鉄パイプ使ってみたら案外よかったからそれにしてる。刺せないのが難点だけど」

「近接戦特化か。私も何かほしいなあ。部屋で探してみよう」


朝食を食べ終え、3人と分かれる。

部屋を漁り、武器になりそうなものをどうにか探す。茶野や緑島の紙人形かっこよかったなあ。

とりあえずと、いくつかポケットにしまい込み、準備をして部屋を出る。


「行きましょう。先輩」


待ち合わせ場所に既にいた二人は制服だった。


「制服集合ならそう言ってよお」

「事情がある。制服は俺達だけでいい」

「なんでさあ」

「まあ、意味ないかもですけど」


待ち合わせ場所の駅で少し待つと、聞いていた通りの車が来る。私は助手席に座り、二人は後ろに座った。


「おはよう。相がお世話になってます。相の母です。今日はよろしくね」


車を発信させながら母は言う。


「私がお母さんにお世話になってますの間違いですよ」

「言ってみたかったの」


そう言われては何も言えなくなる。


「あの、禁忌の呪いは蔵でみつけたんですか?」


須和っちが母に聞く。


「うん。里帰り出産中にね。暇すぎて蔵を漁ってたら、いくつかそんなことが掛かれた巻物を見つけて。いくつか試したらね、出来たの」

「出来た!?」


私たちは驚きの声を上げる。


「簡単なやつね。ちょっとした明かりを付けるとか。大がかりなやつも合ったんだけど、さすがにそれはやる気にならなかった」

「大がかりって、どんなものでしたか?」


紫苑が尋ねる。


「虎?の霊?だかを出すとかそんな感じだった気がする。」


車は高速道路に乗った。紫苑は目をこすっていたが、眠った。


「須和くん。相、学校ではどんな感じ?」

「え…。えっと、ぱ、パワフル…です」

「そういう話は私が眠ってからにしてくれないか」

「やだー聞きたい」

「あの、あ、相さんに出会って、俺、相さんが初めての友達で…すごく助けてもらいました」


私は口をもごもごさせながら代わり映えのしない窓の外を見る。


「そうなんだ。ふふ」

「お母さん、運転中に泣かないで下さいよ」

「気を付けまーす」

「お父さんには私のこと話したんですか?」


私は話題を逸らす。

「悩んだんだけど、悩んでるのさえお見通しで、ぜーんぶ説明して相ちゃんとのツーショットを見せたら、納得してたよ。会いたいって言ってたから、今度会ってやって」

「それはもちろん」

「そっちの世界の洋一さんは元気?」

「とても」

「そう。良かった」


そう言った母の声色は少し寂しそうだった。私は配慮に欠けていただろうか。いや、これはきっと男女というか恋愛の話だから私に分かるはずがない。


「相ちゃんは好きな人とかいないの!?」


急に母は明るく切り出す。


「男の子の友達も多いみたいだし!本当の世界でもモテてるんじゃない?可愛いし!」

「親バカですね」

「こういう話もして見たかったのよ~!女子トーク?ってやつ?」


須和っちは気配を消している。寝てていいんだぞ、そう思うが伝える術はない。


「いや、あの…自分は早く死ぬと思っていたので…そういうのはちょっと、考えてこなかったというか」

「ええ~悲しい!一つもないの?」

「いやあ~無いっすね」

「じゃあ長生き出来るってなったら?」

「その未来が来た時に考えたいと思います」

「じゃあじゃあ、タイプの人は!?」

「気まずい空気に全然させてくれない…!?」

「ふふん。親ですもの。で?で?」


圧がすごい。


「信頼できる人、ですかね…」

「顔は?可愛い系?かっこいい系?身長とか気にする?守るより守られたい?」

「いやお母さんが出会い厨みたいになってますよ」

「えー須和くんも気になるよねえ」

「ふえっ!?」


急に話を振られた須和は巻き込み事故に遭った。


「いや、俺はソノ、そういうのは…チョット、アノ」

「須和っちを困らせないで下さい」

「えー。こういうのっておばさんの特権じゃない」

「違うと思います」

「じゃあ須和くんのタイプは!?」

「アノ、ソノ…」

「だから友達を困らせるなって」


思わず敬語も外れてしまった。


「ふふ。楽しい」

「若者を無意味にもてあそばないで下さい」


そんな話をしていると須和っちもいつの間にか寝て、私も眠くなる。


「寝ていいんだよ」


優しい、お母さんの声。


「でも、不公平な気がします」

「そんなことで私は怒ったり気にしたりしない」

「…この世界の相ちゃんはどうして亡くなったんですか」

「そういう病気だったの。3歳になってやっとおしゃべりも上手になって来てて…。うどんが大好きだった」

「トイレの床が冷たくて寝てた記憶あります」

「同じだ」

「あと、お母さんの困った顔が好きでした」


突然、今まで覚えていなかったことがどんどん脳裏によぎってくる。


「かくれんぼでカーテンに隠れて、カーテンごと抱きしめてもらうのも。お母さんのキラキラのブレスレットが大好きだったことも」

「ちょっと待って別の世界の相ちゃん」

「はい」

「泣いたら運転にならないから」

「そうでした。私から言っておいてすみません」

「大好きな家族を亡くした痛みは、一生消えないの。それを相ちゃんのご家族にさせたくない。蔵、最悪破壊する覚悟で私はいるからね」

「いや破壊されたら困りますって」


母は笑った。

高速道路はどんどん山道を切り開いた場所に繋がっていく。

とあるインターで降り、そこからさらに細い道を上っていく。

そうして着いたのは、大きな日本家屋だった。


「じゃあ、親不孝娘の帰還といきますか」


母は笑って言ってチャイムを鳴らした。ゆっくりとおばあさんが出てきて、母の顔をみて、「お父さん!」と叫んだ。そうして、のしのしと歩いて来たのは威厳のあるおじいさんだった。紙幣に印刷されてもいいくらい厳めしい顔つきだった。また、背も高く、須和っちも高い方だったが、それと比較にならないくらいだ。体格もいい。


「瑞穂。今更何しに帰ってきた」

「蔵に用事がある。この家には無いから安心して」

「その子らは…」


なんだ、と続ける予定だったのだと思う。黒い髪で母によく似た子供。

加えておじいさんは須和っちと紫苑をじろじろと見た。


「…わけが分からない」

「じゃあ説明させてよ。上がるね」


母は靴を脱ぎだす。


「みんなも上がって。これがおばさんの実家の落方家です」

「瑞穂!お前は勝手に!」


私も靴を脱ぎだすと、二人も居心地悪そうにそれに続いた。

そうして私たちは客間に入り、並んで座る。広々とした和室で、よく手入れがされており、床の間には掛け軸と、生け花まできちんと置いてある。


「で、なんなんだその子らは」


勝手に上がってしまったせいなのか、おじいさんの態度は軟化している。


「まず、これが別の世界で生きていた私の娘の相ちゃん。よく似てるでしょう」

「相は死んだ…。けれども、その子供はお前に似すぎているし、黒い髪なんて初めて見た」

「別の世界の私が、相ちゃんが死にかけてた時に死者蘇生の呪いを掛けたみたい。まあ私もやって失敗したんだけど」

「おまえ!そんなことを!」

「でも別の世界の私は成功した。だからこうしてここにいる。男の子たちは相ちゃんのお友達で、呪いとかに詳しい子達」

「沢口村高専の子だろう。校章でわかる」


なるほど。このために制服だったのか。さすが委員長たちだ。

おばあさんが人数分のお茶を入れてくれ、おじいさんの隣にこじんまりと座った。


「そんで、父さんには分かるかもしれないけど、相ちゃん、もうすぐ死んじゃうの。なんとかならない?」

「死ぬ運命だった。ここまで生きているのが奇跡だ。そう思いなさい」

「嫌です!!!」


私ははっきりと大声で言う。おじいさんが私を見る。


「そうかもしれませんけど、私は生きる喜びを知りました!!生きていたいんです!!お願いします!!!!!」


大声で活舌良く言う。


「おじいちゃん!!!お願いします!!!」


私は立ち上がっておじいさんに近づき土下座をした。空気が固まる。


「みっともない真似はやめなさい」

「それは土下座の事ですか?それとも生きようとあがくことですか?」


おじいさんは黙った。


「死にたくない…」


私は呟く。


「相ちゃん、成長していたらこんな感じに育っていたんだな」


おじいさんは私と目を合わせる。


「強い子だ」


おばあさんは泣いていた。

おじいさんは私の首に優しく触れる。呪いの確認だ。またこれだ。全身が固まって、吐きたくなって辛くなって泣きたくなる。

プン太がカバンから出てきた。おじいさんは私の首に触るのをやめ、プン太を触る。


「…これは、相ちゃんにとって大事なものか?」

「ずっと一緒にいました。家族のようなものです」

「そうか。よかったな」


母と祖父は話があるらしい。私たちだけで蔵に向かう。蔵は立派なもので元の世界のうちの家より大きい自信がある。

蔵の錠前を外し、重い扉を開けると、そこは書庫のようにも見え、きちんと整頓されていた。

風がどこからともなく吹いて、急に嫌な気配を感じる。なぜ今なのかと疑問は尽きないが対処が先だ。


「須和っち、紫苑」


二人も緊張感に気圧されている。

出てきたのは蛇に女の顔のようなものが着いたものだった。それが十匹以上いる。

いつもよりも良くないものを感じる。まるで歓迎されていないようだ。

それらは影に隠れて、攻撃がどこから来るのかもよくわからない。


私は目を閉じて気配だけに集中する。それからポケットに入れていたシャープペンの芯を取り出し、投げる。命中するのが分かる。毒でも塗っておけば良かった。

だが、私の気が込められたそれは鋭利な針に等しい。あちこちできゃああああと高い女の悲鳴が聞こえる。しかし致命傷には至っていない。紫苑も須和っちも蛇の頭をちょん切ったりするが、蔵の奥から天井から、それらはどんどん増えていく。

こんな時に私は眠気を感じる。その隙を見逃されるはずもなく、腕を噛まれた。

何かを注入されている。腕が動きづらくなるのを感じる。私はすぐ治るが、二人に後遺症でも残ったら大変だ。私はあえて蔵の奥に進む。

うじゃうじゃとそこには床なのか、蛇の群れなのか分からないものがひしめいていた。

私は脚に力を込めてぐちゃぐちゃと踏みつぶしていく。

しかし、ものともせず、体中に蛇は這いまわる。


「プン太ちゃん!」

蔵の外から聞こえたのは母の声だった。

プン太は私の元へ駆け寄ると、蕎麦でも啜るように、蛇を啜っていく。なんだかいろんなことに目をつむると和やかな光景にさえ見える。

そこに須和っちと紫苑が加勢する。それでも数は増しているように思う。両手両足が動かない。

蔵の外には祖父もいたらしい。キエエエエ!と叫ぶと、蛇の様子が落ち着き始める。

そこを狙って、私たちは蛇の首を落としていく。しばらくして、落ち着いた蔵に戻った。


さすがの須和っちも、紫苑も何か所か食われていた。それも、食われたところは黒くアザになり広がっている。私は傷に口を当てて、それを吸いだす。体の底に何かおぞましいものが溜まるのを感じる。


「首藤やめろ!」


須和っちは言う。


「やだよ。友達だもん」

「友達だからってやるべきこととそうでないことがあります!」


紫苑が怒りながら言う。でも私のすることは変わらなかった。

母はそれを複雑そうな顔で見ていた。


そして、蔵内部の探索が始まる。

祖父が禁忌の書を自ら渡してくれた。霧箱に入っており、他と違う禍々しい空気がある。

部屋に戻り、それを見せてもらう。達筆すぎて読めない。眠くなる。


「死者を蘇生させて従属させる。禁忌中の禁忌だ。もちろん代償も必要になる」

「それが私の世界の母ですか?」

「そうともいえるし、そうとも言えない」

「従属は期間がきまっている。延長させ続ける必要がある。契約更新だ」

「それは…心当たりがありません」

「従属されている側はそうだ。従属されている時点で、本人の意思は無関係になる」

「ええ。それで、私は何を従属しているんですか」

「その化け物だ」


プン太は膝の上に乗っていた。


「まあ、何となくその気はしましたけど…プン太は一体何者なんですか?ずっと、私の見方でしかなかった」

「あなたの世界の母親の…残りかすみたいなものだ」

「残りかす…これは私の実母?」

「その意識はもう無いと思う。禁忌には代償が必要で、それを自分にしたんだろう」


プン太を揉み込む。どこ吹く風といった様子だ。


「プン太が私の寿命を伸ばしていたんですか」


祖父は頷いた。


「どうやって」

「その生き物は呪いの残骸でもある。呪いを吸い込むことで生命エネルギーにもしていたんだろう」


考える。どう受け止めればいいのかわからない。


「では何故、すど…相さんは亡くなるのでしょうか」


須和っちが適切な質問をする。頭の回転がはやい。わけて欲しいものだ。


「何にでも寿命はある。その呪いの生き物は長くないということだ」


プン太は祖父に巻き付いた。


「事実だろうが」


不愉快そうに祖父が言う。プン太は巻き付くのをやめ、私の膝の上に乗る。


「呪いを生命エネルギーにしていたなら、死なないのでは?」


紫苑が言う。


「それは…その生き物の生命エネルギーではない」

「私の?」


祖父は頷いた。呪いの力で生きていたのか。


「プン太ちゃんの寿命を伸ばす術は無いの?」


母が言う。


「分からない」


私は酷い眠気に襲われる。我慢していたが無意味だったようだ。畳に倒れる。

気付けば夕方だった。帰るとのことで起こされる。わざわざ布団に寝かされていたようだった。しかしまだ眠い。


「すみません」


祖母と母に謝る。


「いいのよ。成長した孫の顔が見れて…私は…」


違う。私はこの世界の相じゃない。この世界の相が生きていたら、違う顔になっていたかもしれない!そう思いながらも何も言えない。


祖父母に礼を言って、屋敷を後にする。

またいつでも来ると良い。最初の厳しい態度はどこへやら、祖父はいいおじいさんになっていた。


「寝てて申し訳なかった」


母の車に乗り込んでから、みんなに謝る。


「結局、大したものは見つからなったし、いいのよ」


母は言う。


「他にも禁忌の書はあったけど、あまり関係なさそうだったし」

「まあでも、プン太が大きな鍵を握っていることが収穫でしたね」


それぞれが経過報告と共に慰めてくれる。なんて良い友達なんだ。

そしてまた私は眠くなる。


「眠い」


そう口に出してみる。


「寝てたっていいんだよ」


母が優しい声で言う。


「…最近ずっと眠くて、このまま目覚めないような気がして、眠るのが怖いんです…」


ぼやぼやした口調で私は言う。


「寿命、1年未満だけど、どこまで私に出来るのか、どうすればいいのか…私…」


そのまま眠ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。