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私は一年以内に呪いで死ぬらしい。けどそれ以外では死なないので肉壁になります  作者: 湯瀬木


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17/21

あがいてみよう!

「起きろーーー」


こっちの世界に来てから、誰かに起こされるのは初めてだった。ぼやけた視界をこするとピントが合ってくる。目の前にいたのは緑島と紫苑だった。


「んあ…おはよ…」


まだ眠い私はそう返すので精一杯だった。客人のために起き上がろうとするが、腕に力が入らず、また寝転がってしまう。


「む、無理はすんなし!いいよ寝たままで!てか起こしてごめん!」


緑島は焦ったように言う。


「や…起きないと…」


もう一度試すが、やはり倒れてしまう。それを緑島が支えた。


「あんがと」

「や、急に触ってゴメン…」

「そんなん気にすんなし」


私は大あくびをした。それから二人をちゃんと見る。揃って不安そうな顔をしている。


「二人してどしたの」


またあくびをしながら聞く。


「どしたの、じゃねーだろ。どうかしてんのはそっち!」

「緑島は見るの初めてだったもんな…。シャツまで血染み込ませて悪かった」


目をこする。やはり眠すぎる。


「違くて!…あああ。なんつったらいいんだ」

「緑島先輩、落ち着いて下さい」

「だな…まず、助けてくれてありがとう」

「ん、怪我しなかった?」

「おかげ様様でね!」

「なら何よりだ」

「そのさ!怪我が早く治る体質とかでもさ!怪我を受けて良い理由にはならないっつーかさ!…もっと体を大事にしろよ!」

「そうだな…」


そうなんだよ。すごく正しいことを言われている。ありがたいことだ。

けど、じゃあ、他にどうすれば良かったんだ?わからないけど、問いたくもない。


「ありがとう。緑島」

「…全然俺の話、響いてないでしょ」


ギクッとする。緑島の観察眼を舐めていた。


「本当に、死ぬよ?」

「本当ですよ」


二人は真面目に言ってくれている。心配してくれている。胸が重くなる。辛い。辛いときは辛いと言っていいんだった。


「…死ぬんだよ。私」


二人の方は見ずに言う。二人がどんな反応をしたかも見えないし聞こえない。


「一年後に絶対呪いで死ぬんだ。逆に言えば、一年後じゃないと死なない。だから傷も治る」


言い切ってから二人を見る。緑島は眉間にしわを寄せ、紫苑は私から目をそらした。


「…だからって、痛い思いを俺は首藤にさせて良いとは思わない。全然、そう思えない。だって今首藤は生きてる」

「うん…」


力なく私は答える。


「てか、一年後に死ぬってわかってて、どうして未来のためのトレーニングができるんだよ!」


緑島は堰を切ったように泣き出して、私の布団の上に顔を付ける。緑島の頭を撫でる。

紫苑は俯いているが、目と首をきょろきょろとさせている。

辛さを吐き出した分、それを彼らにも与えてしまった。話したことを後悔した。


「ありがとう。緑島。私のために泣いてくれて」

「泣いてねーし!」


ぐずぐずの顔で言う緑島。ティッシュを与えると、ひったくられた。


「意味わかんないです」


紫苑はようやくまっすぐこちらを向いて言った。


「わけわかんない!」


そうして走り去っていった。緑島は追わなかった。


「今日もランニング出来なかったな」

「明日、三日分やればいいよ。…本当に死んじゃうの?」


ベッドにもたれ掛かり、私の手を握りながら、緑島は聞いてくる。


「何もしなければ」

「首藤が何もしないわけない」

「その通り」


呪いの事や、並行世界の自分の事を話す。


「じゃあ俺行ってくる」


何かを決意した表情で緑島は言う。


「へ?」

「住所、メッセージで送って」

「どういうこと?」


緑島は形代の紙人形を出した。ほとんど茶野と同じものだ。それに一瞬口をつけると、緑島が増える。


「ええ。すごっ」

「そうだよ。あんなに守られなくても俺は大丈夫だったんだから」

「見くびってました…すんません…」

「反省したならよし。たまにこれでサボってんだ」


形代の緑島と肩を組む緑島。


「偽緑島も、うまくやれんの?」

「意識を分断させるだけだから全然平気」


偽緑島が喋る。意識の分断ってなんだよ。


「本当にすごいな」

「だからかわいいだけじゃねえんだよ俺は。俺に見せ場も作らせず、ただズタズタになりやがって」

「ほんとすんませんした…」


頭を下げると、今度は私が撫でられる。


「でも外にでられるの?」

「まあなんとかうまくやるよ。…その前に、目的地、地図アプリで見ようか」

「確かに」


私は緑島に住所を送り、それをコピーして自分でも検索する。


「え…?」


私の住んでいたアパートは無かった。代わりに小綺麗なマンションが建っていた。


「まだ落ち込むな。前に住んでた家とかは?」

「大体の場所なら…」


地図を開いて目的の場所を探す。あった。覚えているよりもずっと古く、蔦で覆われたみすぼらしい家だった。引っ越した理由はわからない。五歳くらいまでしか住んでいない家だったはずだ。


「ここだね。行ってくる」


二人の緑島はすぐ病室から出ようとする。


「緑島!ありがとう!」


緑島たちは振り返った。


「「仲のいい友達でしょ。俺ら」」


ウインクまでしてくる。どこまでも可憐な奴だった。

それに射止められたあと、また強い眠気が襲ってくる。そして寝てしまった。


起きると昼になっていた。まだ体は怠い。プン太もそばで寝ている。


「じゅぎょう…」


そう呟くものの、まだ眠い。でも教室に行かねばという意思が私を動かし、結果ベッドから落ちた。

プン太が床に横たわる私を見ている。体に痛みはない。ただ眠いだけだ。テストもあるしこれ以上勉強が遅れたらいよいよ全てわからなくなる。壁を伝って立つが、また倒れる。今度は打ち所が悪く、ゴツンと頭と床がぶつかったが、その痛みもすぐに引く。


「プン太、駄目っぽいな私」


プン太の力も借りて、ベッドに戻る。ぼんやりとした意識の中、ケータイを見ると、緑島から連絡が来ていた。


「首藤家はあったけど、首藤夫妻に子供はいなかった」


その一文だけだった。これもズレによるものなのだろうか。分からない。眠い。緑島、ありがとう。そう思いながら、プン太を抱えてまた眠る。


次に起きたのは夕方だった。すっきりしていて気分もいい。怠くもない。プン太もぬるぬる動き、壁や天井を這っている。

起きたら連絡して、そう緑島から連絡を受けていたので、連絡すると、緑島の他に須和っち、茶野、白部先輩、春日井が来た。大所帯だ。


「緑島ありがとう。バレなかったか?」

「バレて怒られた。てか首藤さんにも怒られた。でも今そんなのどうでもよくて、皆で集まって考えてたんだよ。あ、そうだ。首藤のお母さんらしき人、めちゃくちゃ首藤に似てた。一応盗撮したから見て」


写真は遠くから取られたものだが、遺影のそれと似ている。しかしそれよりは年を取っていたし、髪は青かった。けれど口元のほくろが一緒だし、何より私に似ている。


「恐らく」

「じゃあ仮定が一つ確定したね」


そう言って、緑島は須和っちを見た。


「首藤のお母さんはこの世界で生きている。けど、首藤の世界ではお母さんは亡くなり、首藤が生きている」


須和っちが言う。


「それって…」

「首藤のお母さんに、首藤相さんはいますか、って聞いたんだよ。そしたら、嫌がらせですか?どこでそのことを聞いたんですか?って聞かれた」


言い辛そうに緑島は言った。かわいそうなことをしたと反省する。


「この世界の私は死んでいる?」


須和っちが何か言う前に自分でそう結論付けて言った。他の人に言わせるのは酷な気がした。みんなが気の毒そうに私を見る。茶野はどこ吹く風だったが。


「いや、まあそれは良いとして。私は別の世界の人間だし。とすると、今生きてるのがおかしいのか、死んでる方がおかしいのかってなるよな」

「それもみんなで考えてみたのですが…」


白部先輩は言いよどむ。


「首藤さんが受けてるのは、強い呪いで、それも家族からのもので、物心つく前からあって、小さい頃から若くして亡くなる自覚があった。ってことは、生きてる方がおかしい」


茶野は相変わらず普通の口調で言う。


「つまり、首藤さんが生きるためにお母さんが掛けた呪いなんじゃないのかなって」

「茶野…」


春日井が茶野を止めるように言う。


「いや、はっきりさせた方がいい。私にあまり時間はない」

「だよね。次の手は、首藤さんがお母さんに直接会って、どうにか娘だと思わせて話を聞くこと。ってぼくたちは結論付けた。」

「正しいと思う」


私はベッドから立ち上がる。


「大丈夫か?」

「無理すんな」


緑島と春日井が言ってくる。須和っちは私を支えようとさえしてくれる。


「もう元気だ。みんな、心配させて申し訳なかった。そんでもって、私のためにありがとう」


私は深々とお辞儀をする。プン太もした。


「みんな首藤に死んでほしくない。それだけだ」


須和っちは言う。


「なんか時々代表者面してくるよね。委員長って」


緑島がそれをからかう。


「あー。あるなそれは。ちょっと過保護だよな」

「まあまあ。微笑ましくていいじゃないですか」

「委員長だしいいんじゃないかなあ」

「オレもたまには代表者面したいかも」

「あーもーやめてくれ!恥ずかしいから!」


須和っちは顔を赤くしている。私たちはそれを見てまた笑う。

皆と離れ、私は自室に戻る許可を与えられたので、自室のベッドに飛び込んだ。プン太も飛び込んだ。それから風呂に入り、寝る前の準備をする。

寝るにはまだ早い時間だったし、今日散々寝たのでまだ眠くない。ランニングでもしたい気分だったが、もう外出禁止の時間だ。

机に向かって勉強をするも、頭の中はごちゃごちゃしている。

仕方なしに、ベッドに入る。目をつむると、緑島の撮った母の写真が思い出される。

遺影の母は微笑んでいたが、緑島の写真の母は無表情だった。実母との思い出はない。私が生まれてすぐに亡くなったとしか聞いていない。それが私のせいだったら。いや、でも実母が亡くならないと父は再婚せず、私に弟妹は出来ていなかった。私にとっては実母が死んだ方が都合がいいのか?もし実母も私も生きていたら?そういう世界もどこかにあるのか?考えがどんどん煮詰まって気持ち悪くなる。

プン太が私の腹の上で跳ねた。そのまま捕まえて抱きしめる。

そうだ。考えても無意味な「もしも」はやめよう。私は自分が1年足らずで死ぬ未来をあがくだけだ。


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