緑島の連絡先ゲット!
白部先輩は私の部屋で紅茶を淹れてくれて、それをゆっくりと飲んだ。
「泣けるときは泣いた方がいいですよ」
「白部先輩は優しいので理由を聞かないんだと思うんですけど、何があったかっていうとですね、家族と電話が出来ました。数分でしたけど、それで安心したのか泣いてました」
「…よかったですね」
「よかったあああ!!!でも妹たちとは喋れませんでしたあああ」
そしてまた私は泣き始める。
「これは悔し涙です!!!」
「わざわざ説明しなくても大丈夫ですよ」
先輩は私が落ち着くまでそばに居てくれた。
「よし。もう大丈夫だ。手裏剣作りましょう」
私は立ち上がって伸びをする。
「もういい数できたので、片付けてきちゃいました。もしよろしければ、外にランチを食べに行きませんか?」
「やったーー!」
先輩と外の世界に出る。先輩が行きたがっていたハンバーグの店は列ができており、先輩はやめましょうか、といったが、私ももうハンバーグが食べたかったので並んだ。
「暑いですけど、大丈夫ですか?」
「先輩こそ髪長くて首の後ろとか暑くないですか?」
「びったびたに首に髪の毛が絡んで鬱陶しいですね…」
「ちょっと屈んで下さい」
私は緑島に持っておけと言われた予備のゴムで先輩を一つ結びにする。人の髪の毛をいじるのも難しい。やはり緑島は出来る。
「私とお揃いの髪型です。ただのポニーテールですけど」
「結ぶのとそうでないのとでは全然違いますね」
「でしょう。白部先輩はいっつも結んでないですよね」
「結ぶの、難しくて…。あと、結ぶ位置によって印象が全然変わってきますよね」
「気にするんすね」
「気にしいですよ。私は」
右腕のアザを見ながら先輩はそう言った。
「プン太、傘の形になって」
プン太は言われた通りになる。それを持って先輩と入る。
「身長的に私が持ちますね」
プン太が暴れたらどうしようかとか考えていたが、難なく日傘のままでいてくれた。
「あんまり並んだ経験とかなかったんですけど、意外と楽しいものなんですね」
「そりゃ先輩、相手が私だからですよ」
「そうでした。あはは」
大人びている先輩だが、笑うと八重歯が見えて子供っぽくなるのだと初めて知った。
ハンバーグはすごく美味しかった。
総合して、良い一日だった。
「今日は素晴らしい一日でした。もちろん首藤さんのおかげで」
「じゃあまた逢引きしましょうね」
「あ、逢引き…。ふふっ」
先輩と別れて部屋に戻る。
寝る前に、父の言葉を思い出す。
実母は私が生まれるのを心待ちにしていたと。じゃあ部外者が私に呪いをかけたのか?
茶野の呪いは家族からだと言っていた。茶野の呪いと比較する必要がある。
茶野に今すぐにでも会いたい。須和っちと春日井に頼んでみるか。メッセージを送る。
茶野は了承したとのこと。明日、一歩前進できることを願って、私は眠りに落ちた。
朝、ランニングに緑島がいた。
「昨日はどうしてたんだ?」
「土曜は朝一で映画行くって決めてんの」
「いいな。そういう趣味。あとそのウェア、初めて見た。かわいいな」
「そう!これも昨日買ったの!」
「めっちゃ似合ってる」
「気付いてくれてうれしい~。同室の奴らなんかだーれも見てねえんだから」
吐き出すように言う緑島。
「レディースものに見えるけど、女性の服が好きなのか?」
「似合うから着てる。かわいいから着てる。そんだけ。まあ結果としてチヤホヤされるのも好きになってるけど」
「何でも似合いそうだな」
「ふふふ。まあね。俺にかかればどんな服も着こなして見せちゃいますよ。身長ないのがなあ~。身長あればモデルとかになりたかった」
「顔がかわいいんだから我慢しろ」
「えー。全部欲しい」
「それはわかる。」
会話が盛り上がり、ほとんど歩きになっていた。緑島と喋るのも楽しい。
帰ろうという時に緑島に言う。
「そうだ。緑島。連絡先教えて」
「ええ~。どうしよっかなあ」
「勿体ぶるじゃん」
「俺本当に仲いい人としか連絡先交換しないんだよね」
「なら問題ないだろ」
「…しょうがねえなあ~」
「緑島に似合いそうな服とか見つけたら連絡していい?」
「それはもう。どんどん。遠慮せず。今すぐにでも」
部屋に戻り、シャワーを浴びて私服に着替える。
中庭で茶野と待ち合わせていた。
眠そうに眼をこすっている茶野。それに須和っちも春日井も何故か来た。須和っちは私服だが、二人はジャージだった。
「みんなで来たのか」
「暇だったし面白そうだったし?」
呑気に春日井が言う。
「じゃあ昼何か食べに行かないか」
「いいね!須和っちと茶野は?」
須和っちは何故か遠くを見ながら少し照れたように頷く。
「茶野もおっけーよ」
「わあい」
春日井は喜ぶ。
「その前に茶野と二人で話をさせてくれないか」
私は須和っちと春日井に言う。
「俺もいちゃだめか」
須和っちは引かない。
「俺は…仲間外れな感じ?」
戸惑いながら春日井は寂しそうに言う。
「別に言ってもいいか…」
「いや、情報は限られた人間だけにすべきだ」
須和っちは即座に言う。
「まあ、たかだか一週間程度の付き合いですもんねー」
少し嫌味っぽく春日井は言う。
「聞かないよ。でもいつかオレを本当に信頼できるようになったら教えてね」
春日井は遠くのベンチにぽつねんと座った。
「というか、茶野はあの話を須和っちにしていいのか?」
「いいよー。隠してない。聞かれないから言わないだけで」
「じゃあいいか。昨日、実はーー」
私のそれは家族の呪いなのではないかという話をした。茶野は首を傾げた。
「で、茶野の呪いを見せてほしい」
「どうやって?」
「校長が私の呪いを確認するときにやってた方法を真似しようと思う」
茶野に上半身裸になってもらう。丸首のシャツでは、首元が伸びてしまう。茶野は素直に応じた。
茶野の首と肩の間に手を置いて目を閉じる。集中する。嫌な感じが私に移ってくる。吐きたくなる。憎悪が力になって茶野の体中を駆け巡っているのが分かる。いったんきつくなり、手を離す。
「どーだった?」
「呪いはわかったけど、家族のものかはよく分からなかった」
「いやいや滅茶苦茶呪い、染みてたでしょ。あれが家族の呪いの証」
「そうなのか」
「首藤さんの、ぼくが確認しようか?まあ、分かり切ってるけど」
「わかり切ってるのか?」
「プンちゃんっていう存在が家族の呪いである証だよね」
「え…?」
「まあいいや、やってみる?」
「頼む」
私は服の衿ぐりをはだけさせる。
茶野の手は冷たかった。少しすると、全身が苦しくなる。息が荒くなる。怖い。恐怖を感じる。離してほしい。離してほしい。
手が離されて私はその場にうずくまる。息を整える。
「わあ。ごめんね」
「で…どうだった」
「うーん。言いにくいんだけど、首藤さん、死が近いでしょ」
その声は私の様子が心配で駆け寄ってきた春日井にも結局聞こえた。
「どういうこと…?」
私たちは全員ベンチに座る。わりとぎっしりと、電車のようだった。
「まずー。ぼくって一族に呪われてるの。それで霊力の力の底上げをしてるの。だから呪いにはちょっと詳しい」
「それで…私は呪われていて、でも理由も原因もわからないから、茶野を頼った。そしたら、死に時を言い当てられたってことだ」
須和っちは俯いて何も言わない。
「死に時…?」
「私は一年後に死ぬ。逆に言えば、1年後じゃないと死なない。春日井と出かけたときに見た化け物に私がぶっ刺されたのにピンピンしてたのはそのせいだ」
「…首藤が、一年後に…死ぬ?嘘だよな?」
春日井の視点は定まらず、動揺しているのがはっきりわかる。
「さすがにこんな冗談は言わない」
とどめを刺すように私は言い切る。
春日井は立ち上がって口元を抑える。顔は真っ青だ。
須和っちも立ち上がり、春日井を寮まで支えていった。
「一緒にお昼、なしになったね」
「そうだな」
茶野のいつも通りの反応に少し救われる。
「で、プン太を見れば家族の呪いってわかるってどうしてなんだ?」
「え、だって呪いの結晶じゃん。すごいよね。自律して動いてるなんて」
膝に乗せたプン太に話しかける。
「プン太って味方じゃなかったのか…?」
プン太は私を見るが何も言わない。
「味方かどうかは別だよ。今まで味方だったのに、急に敵扱いしちゃプンちゃんがかわいそうだよ」
「…それは、そうだな」
「それに、首藤さんの呪いは信じられないくらい大きい。呪いじゃないとできないことがあったのかもね。ぼくの霊力の底上げみたいに」
「なるほど」
呪いじゃないとできないことをされて、私は短命で死ぬのか?どういうことなんだ?
「なんか今日、たくさんしゃべったなあ。眠くなってきちゃった。帰るね」
「あ、ああ。ありがとう」
茶野もマイペースに寮へ入っていった。私が入れない建物。近くにあるのに随分遠くに感じる。
ベッドの上で仰向けになりプン太を持ち上げる。いつもプン太だけは味方で、怖いものから守ってくれた。でもプン太の気持ちは一つも分らない。
「おまえ、でっかい呪いなのか?」
プン太は私を見ずに窓の方を見ている。窓の外では雨が降り始めていた。
「…私もなんか、疲れたな」
その後はだらだらと過ごした。




