病院だったり白部先輩とあったり
「茶野」
病院の廊下で意外な人物に会った。
「首藤さんだ~」
のんびりとした口調で茶野は私を呼んだ。
「茶野のご家族も入院してたのか」
「うん。4年生になる兄がね」
「悪いのか」
「もうずっと」
「悪いの取り除いてやろうか?」
「あ、例の特殊能力?でもうちはいいや」
「なんで?」
「あの人は自分で自分を呪ってるから」
「複雑だな」
「そう?簡単だよ。大した努力もせず、人生と対峙もせず、やりたいこともなくって、呪いだけは出来たから、何もしない自分を呪って勝手に苦しんでるだけだよ」
「やっぱり複雑じゃないか」
「そうかなあ。首藤さんがもし呪いを解いても、きっとまた自分で呪っちゃうから意味ないのもう4年生なのに、学校卒業したらどうなるんだろうねえ」
「そうか」
「でさあ、この廊下いつまで続くんだろうね」
私たちはどこまでも続く病院の廊下を眺める。
「気付いていたか。学内って安全じゃないのか?」
「ことここに限っては呪い渦巻く場所だからねえ」
「なるほど」
「首藤さんの存在も刺激になってるみたいだねえ」
「そうなのか」
「ウン」
「悪いことをしたな」
「悪くないでしょ別に」
とりあえず歩き続ける。
「こりゃあめんどくさいな」
べつにどこからもおかしい気配は無い。
「だねー」
茶野はポケットから式神の紙人形を5枚くらい出した。ふっと息をかけると、空中にそれは整列する。
「ヘンな場所、見つけてきて」
紙人形は動き出す。
「すごいな」
「かわいいよね。式神ちゃんもプンちゃんも」
「プンちゃん…。プン太、ヘンな場所分かるか?」
プン太は茶野ほどの人型になり、彼の周りを嗅ぐようにする。
「あはは!ぼくもまあヘンか」
「そうなのか?」
危険な気配は感じない。ただ、おかしいと感じる部分もある。
「首藤さんとぼく、似た気配を感じる」
「そうだな」
プン太はその間もふんふんと茶野のいろんな場所を嗅いでいる。
「紙人形ちゃん、帰ってこないなあ」
「失敗か?」
「ううん。それだけの何かがあったってこと」
「そうだな」
「プンちゃんもうやめてー」
「プン太、止めて良い」
あ。急に気配を感じる。こちらにすごい勢いで向かってくる。
「プン太、そっちの端まで伸びろ」
「いいね」
プン太より向こう側に私たちは立つ。
何かは人型をしたドブみたいな色で乾燥した何かだった。それが走ってこちらへ向かってきていた。そしてプン太で転ぶ。
首元を私は抑える。すると接触した部分から根のように何かが伸びてくる。
「プン太!」
それが全身にまわる前に、プン太をナイフにして首を落とす。
が、男の根は部屋中に広がっていく。
「式神ちゃんおねがい」
茶野は新しい紙人形を出した。そして紙人形は根に触れたかと思うと燃えていく。
「火事になるんじゃ…?」
「大丈夫。へんなものだけ燃やすように言ってある!」
確かに木の根だけが燃え上がり、塵になって消えていく。
「すごいな」
「そう?あんがと」
廊下もいつものものに戻っていた。この病棟を包む嫌な気配も少しマシになっていた。
この学校に来て、怪異と触れたのに初めて怪我をしなかったな。私はそんなことを考えていた。
夕飯は遅い時間だったのか知っている人は見当たらず、一人部屋に戻る。宿題をしながら、茶野のことを考える。何者なんだあいつは。もにゅもにゅとプン太をいじり倒す。
茶野に感じたシンパシーはなんだったんだろう。シンパシーといっても、あまり良いものに感じなかったのも不思議だ。じゃあ、答えは一つじゃないか。
次の日は土曜で休みだった。
ランニングに緑島は来なかった。茶野に聞きたいことがあったが、連絡先を知らない。
かと言って男子寮に潜入も出来ない。
ぼんやりプン太を撫でていると、メッセージが来る。白部先輩からだ。
「首藤様
もし本日お暇でしたら、手裏剣づくりを手伝っていただきたく存じます。
お忙しいようでしたら本日でなくて構いません。
ご確認いただければ幸いです。 白部」
メッセージが届いた段階で誰からなのかなんて分かるのに、白部先輩っぽい文章に笑ってしまう。快諾して、とある空き教室で落ち合う。
「お疲れでしたでしょう。すみません」
先に先輩は来ていた。窓が開いており先輩の白く長い毛を揺らした。
白部先輩の姿を見て何故かホッとする。
「いえ。気を遣っていただいて。ありがとうございます」
「え。違いますよ。私があなたに会いたかっただけです」
「人たらしだなあ」
ふふ、上品に先輩は笑う。
手裏剣の作り方を教わる。折って折って、重ねてはめ込んで。それを繰り返す。
「学校に慣れましたか?」
「割と。皆さんいい人ですから。女子が私だけってどうなることかと思いましたよ。全員から告白されるんじゃないかって」
「適当なことをいいますね。あなたも」
「それが私じゃないですか」
「白部先輩は3年なのに生徒会長なんですね。5年制の学校ってそんな感じなんですか?」
「いえ。4年生がやりますね。5年はほとんど実習ですので」
「へえ。じゃあどうして」
「4年の先輩で、会長を退任された方がいて」
「会長退任とかあるんですねえ」
手元に集中しながら会話も進める。
「それで、私が代わりにと」
「なるほど。白部先輩が特別優秀だったんですね」
「それもありますね」
「あるんだ」
「これでも一応、優秀なんですよ。この前は情けない姿を見せてしまいましたが」
「クラスに友達っています?」
「えっ。えっ!?!?あ、えええと、それは…。私に社交性がないのももちろん大きいのですが、私、なんか神格化されているところがあるみたいで…友人とか…そういうのはよく
分からなくて」
急に焦って早口になる白部先輩。
「まあ、神々しいですもんね。先輩。私とか言ってるし」
「…自己プロデュースを間違えましたよね」
「まあ私は先輩のこと友達だと思ってますよ」
「本当ですか…?」
「じゃなきゃ今日も手伝わないですよ」
「ありがとうございます」
「怪我吸い取ったりもしないし」
「それは…首藤さんなら他の方でもやっていたと思いますよ」
「どうでしょうねえ。それより孤立して寂しいなら、私たちとご飯とか食べましょうよ。須和っちも大歓迎だと思いますよ」
「須和くんは後輩で…先輩後輩の上下関係でその、パワーバランスみたいなのが」
「一緒に食べたくないんですか?」
「…食べたいです…」
「よろしい」
「ふふふ…首藤さんは私よりこの学校に馴染んでいますね」
「先輩が特殊なだけですよ」
「うっ」
プン太も折り紙に挑戦するが、すぐにぐしゃぐしゃになる。
ネットでもうちょっと殺傷能力の高そうな手裏剣もいくつか作った。
先輩はずっと楽しそうにしていた。
「1年、首藤。急ぎ校長室まで」
そんな時邪魔な連絡が入る。
「急いだほうがいいです」
先輩の顔になって白部先輩が言う。
走って校長室に向かって、入る。
「よく居てくれた!これを!おそらくそんなに長くはもたない!」
校長が渡してきたのは、おそらく職員用で使っている固定電話の受話器だった。
耳に当てる。
「もしもし…?」
その声は知っている。胸の奥と鼻の奥がギュッとなる。
「お母さん!?私、私!相!」
「相!?あんた今どこにいるの!?」
奥歯がカチカチ鳴る。目から涙が出てくる。
「それは…長くなるから省く!お母さん!私は元気。怖いこともされてないし、自由に動けてる!朝日たちは!?」
「友達の家で…。ねえ、今本当にどこにいるの?お母さんすっごい心配で」
母の声も震えている。
「ごめん。しばらくは帰れない。お父さんいる?お父さんの声も聞きたい!」
「相!何が起きてるんだ!」
「お父さん!私の、実のお母さんって、どんな人だった!?」
「なんだ急に」
「お母さん、私を恨んでなかった!?それとも、お母さんの家系に恨み深そうな人とかいなかった!?」
「相、それより」
「いいから!今はそれが大事なの!」
「お前の実のお母さんはお前の誕生を心から待ち望んでたし、愛していたよ。亡くなったのも不幸な交通事故だ」
「本当に!?」
「本当だ!」
電話が切れた。愛していると伝えればよかった。最初に伝えるべきだった。
受話器を電話に戻して、私はその場で座り込んで泣き出した。今までの不安が全部爆発したのだと思う。
校長は私の周りをおろおろとうろついてからティッシュを箱ごと差し出してくれた。それはちょっと面白かった。
少し落ち着いたので、立ち上がる。
「だ、大丈夫かね…?もう少しいても…」
「いえ。大丈夫です。失礼しました」
校長室を出ると、また涙が出てくる。そして白部先輩がいて、部屋まで送ってくれる。
「泣きすぎですね私」




