春日井の弟に会おう!
そして校長への報告だ。
白部先輩は淡々といつも通り報告していたが、私が白部先輩の傷を吸い込んだ話をした時は悲しそうにしていた。
校長に言われ、そのアザを見せる。
「痛むのか」
いつも通りの口調で校長は言う。
「いいえ。押されても全く痛みません。色が変わっているだけのように思います」
「そうか」
その後、白部先輩は私の部屋に来た。
腕の事を再度謝りにだ。私は何とか空気を軽くしようとしてみる。
「ほんと気にしてないっすって。だってほら、ハート型にみえません?可愛くないですか?」
ふざけても、白部先輩の顔は青いままだった。白部先輩の頬を掴み、目を合わせようとするが、逸らされる。
「白部先輩。あれは私がやったんです。白部先輩は頼んでないでしょう。そうですよね?一度でも頼みました?」
まだ目を合わせてくれない。
「白部先輩!」
やっとこっちを見てくれる。
「首藤さんの、悲鳴が、忘れられないんです…情けないんだけど…」
「アホみたいに叫んですみませんでした。まさか私もあんなことになるとは。まあ、白部先輩はあの痛みを我慢できてたってことですもんね。まじですごいです」
「そう訓練されてるです」
「そんな訓練まであるんですか…」
なんだこの学校は。薄気味悪い。
「…私に傷が出来るのは耐えられる。けど、他の人が痛むのは耐えられない」
震えた声で先輩は言う。
「なんだ!私と一緒じゃないですか」
先輩の頬を潰したり引き延ばしたりする。先輩はちょっと止めてほしそうな顔をしたが気にしない。
「私と一緒で、私は回復がめっちゃ早いっていうだけですよ。とにかく今日は二人で後輩を守った!それでいいじゃないですか!私は貰えるお金も増える!」
「君は本当に…」
先輩の表情がやっと緩む。
「恩を感じているなら、呪いを解く方法!一緒に考えてください!」
「それは言われなくてもやらせていただきます」
「じゃあよし!この話は終わり!」
「私は、首藤さんを死なせたりしません。絶対に」
「でもあんま重く考えすぎたら、私が死んだときすっごい悲しいと思うので、まあ、軽めで。死ぬの前提でお願いします」
私は一応保険を掛けておく。
「首藤さんが死んだら、どうやっても悲しむし、忘れないし、一生後悔すると思います」
「いやだから重いって!」
実習で一日終わってしまった。というか、午後の授業には出られたが、眠すぎて出られなかった。傷の修復で体が忙しく、それを補完する為に睡眠が必要なんだと言い聞かせている。二人はどうだったろう。
紫苑は私が攻撃を受けてショックな姿を見せてしまっただろうし、白部先輩はあんな感じだった。私だけが呑気に寝ていると言えばその通りだ。せめて二人がいい夢を見られるように望む。プン太はアザの部分を舐めていたが、消えなかった。
というか、先輩の傷口にキスをしてしまったやだー!恥ずかしいと一瞬思って、何を考えているのかバカなのか私はと無駄に虚しくなった。
夜に一度トイレで起きると、廊下に繋がるドアにメモが合った。
「これ食って元気出せ 須和 春日井」
ドアを開けるとラップに包まれたサンドイッチが置かれてあった。
クラスメイトに恵まれたものだ。私は本当に。というか、須和っちと春日井がわざわざ作ってくれたのだろうか。買ってくれたものでも嬉しいが。ありがたく頂いた。おいしかった。
そしてまた泥のように眠る。
再び起きたときには早朝で、ランニングに向かう。緑島はもういた。
「早いな」
「昨日実習だったんだって?大丈夫だった?」
「筋力不足を再確認させられたよ」
「乙女は大変ですねえ」
「ほんとにな」
走り出す。相変わらずすぐ止めたくなるが、我慢して呼吸の事だけを考えて走る。
緑島は今日は煽ってくるような表情をこちらには向けなかった。
「無理に私に合わせなくていいぞ」
走りながら緑島に言う。私が足手まといになっていたら、彼にとって元も子も無いだろう。
「いいの」
それだけをこちらを見ずに言った。途中やはり歩いたりもしながら、ランニングを終える。
「昨日さ、大変だったって聞いた」
同じく脚を止めてくれた緑島が言った。
「まあ、楽ではなかったか」
「辛いときは、辛いって言わなきゃ伝わんないもんだからね」
「辛い…」
私は辛かったのか?でも、本当は怖かったし逃げたかったし痛かった。
ああ辛かったのか。朝の空気を胸いっぱい吸い込んで吐き出す。
「サンキュー緑島!可愛いだけじゃなくてちゃんと優しいな」
「うっせ!」
その日は一日座学で、どこかに呼ばれることもなかった。
体育だけはやはりついていけない。のでプン太を使った。プン太を足場にブロックしたり、プン太を足場にコートギリギリのボールを拾ったりした。ズルいぞ!と向こうのチームから笑われながら言われ、味方のチームには感謝された。筋力は足りないが、動体視力と反射なら負けない。
休み時間、春日井に廊下に呼ばれる。
「あのさ、弟に会ってくんねえ?」
「病院に?」
「うん。ていうか、弟が会いたがっててさ。挨拶したいって」
「いいよ。春日井の弟かあ。楽しみだな」
「なんでだよ」
というわけで放課後、春日井と病院に来た。病院自体は大きくないのだが、
入院病棟は病院の規模に比べて大きい気がした。病院特有のにおいが私は割と好きだが、ここの病棟に限っては、それだけではない、嫌な気配が常にする。
「健吾ー入るぞー」
相手の許可を待たず、春日井はある部屋の扉を横にスライドさせる。
「兄さん…あっ」
私の顔を見て、春日井弟ははにかんだ。
春日井とおなじ、褐色の肌にピンクの少し癖のあるふわふわした髪。春日井は短く切っているが、弟は長髪だ。一目で兄弟だとわかる。
「春日井要の弟の春日井健吾です。あの、ありがとうございます。そして、感謝を告げるのが遅くなってしまって申し訳ありません」
キチンとした子だった。
「別にいいよん。それより具合は良くなった?」
「はい!来週から授業に戻ります!」
「そいつは何よりだね。よかったねえ」
「おかげさまです!」
満面の笑みだ。可愛い。弟妹に似ているというか、甘え上手なのだろうか。あのゾンビの群れの中にこんなかわいい子がいたのか。怪異に堕とされるの怖すぎるな。
「というか1年のこんな早い時期に実習に行かされるって相当優秀なんじゃ?」
「あ…えと…一応委員長だったんです。でもあんなことになってしまって…」
「そっか。紫苑は副委員長だったの?」
「そうです。おれより全然優秀で…」
「え、うちのクラスの副委員長って誰?」
春日井に聞く。
「茶野だよ」
「へえ」
あまり話したことは無いため印象は薄い。
というか今更だが、春日井弟に何があったのだろう。1年の1学期も終わっていない中、実習に行かされてほとんど廃人にされるなんて、よほどの事のような気がするが。
本人に聞くのは酷だろう。春日井も喋りたくないかもしれない。さすがの私もデリカシーってもんは少しは持ち合わせている。
「あの、おれがなんでこうなったのか、お話してもいいですか?」
本人から言われちゃあ聞くしかない。
春日井が椅子を用意してくれた。礼を言って座る。
「聞かせて」
「はい!…実習でのことなんですけど」
そこは病院だったらしい。ただ、入院施設がある病院ではなく、町医者だった。
誰もいなくても待合室に誰かいる。そんな軽そうな怪異と聞いて、3年の副委員長と向かった。確かに誰かがいた。しかし普通の若い人間に見えた。目が合うと、
「君は良く見えるみたいだね」
その人がそういうと体が固まった。声も出なくなった。
「じきに心臓も止まるよ。ねえ、君はどうしたい?」
喋れないし動けないのだからどうすることもできない。
死にたくない。そう思った。
「だよねえええええええ」
不気味な笑顔でそいつは大笑いした。
「死なないようにはしてあげるよおおおおおお。あはははははっはあははははあ」
そうして、春日井弟は正気を失い、4年の先輩もおかしくなった。
「それで…おかしくなって入院してるとき、首藤先輩の所にいって、首藤先輩を見たときに、分かんない。わかんないんですけど、こいつだ!って思って」
「それはどういう?」
一目惚れかとからかおうと思ったが、そんな空気ではない。
「分からないんですけど、多分あの時集まった全員が思ってたと思います」
「呪いから狙われてる…?」
春日井が口を開く。
「その感じが近いと思う。あの、ヘンなことを言ってすみません!助けて下さったのに」
「いいよいいよ。伝えてくれてありがとうね」
「あの、なので、気を付けてください」
「うん。いい子だねえ。健吾くんは」
「い、いい子…」
健吾くんは照れたようだった。高校生で「いい子」で照れるなんて本当に可愛い奴だ。
「俺はもうちょっと健吾と話してく」
「じゃあ先帰ってるわ」
「あの!ありがとうございました!首藤先輩といっしょに実習に行ける日を楽しみにしています!」
春日井はそれを聞いてとても複雑そうな顔をしていた。無理もない。実習で弟はおかしくなったし、私は化け物だ。
「この首藤が全部まもってやるからねえ」
親戚のおばさんの気分で部屋を後にする。病院の廊下を歩いていると、噂の茶野に会った。首から何かを下げているが、服に隠れて見えない。




