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私は一年以内に呪いで死ぬらしい。けどそれ以外では死なないので肉壁になります  作者: 湯瀬木


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12/21

バックヤードで戦うぞ

スーパーに着く。大型店でライトもたくさんあるのにどこか暗い印象を持つ。まだ裏口に入っていないのに、捕捉された感覚がある。しかし二人はそれに気づいているのかいないのか、ずんずんと先に進み、担当の人と話をして、バックヤードへ入っていく。やばい。そう思った時、近くの紫苑の制服の裾を掴んでいた。

そこは確かにバックヤードだった。だが、カゴ車、在庫が無造作にあちこちに置かれているのに、どこまでもそれらが続いている。

私は紫苑と二人だった。白部先輩はいない。


「くそっ」


紫苑はここに来るときに脚をカゴ車にぶつけたらしい。さすっている。


「あれ…白部会長は…?」

「いないな」

「なんでお前がいるんだよ!」

「先輩に向かってなんだその口の利き方は。気をつけなさい」

「うるせえな!白部会長を探さなきゃ!」

「おい、単独行動はよせ」

「僕に指図するな!」

「白部先輩も言ってただろう。固まって動けって。それにもし紫苑が白部先輩をみつけても、私とはぐれたら二度手間だ」

「そしたらお前を置いて帰る!」


私は大きく溜息を吐く。


「白部先輩がそんなことするはずないだろ。さっきから子供みたいなことを言うんじゃない」

「僕に指図するなつってんだろ!」


私は紫苑と手を繋ぎ、プン太で覆って取れなくする。


「私が先頭だ。ついてこい」

「気持ち悪っ!離せよ!」


もう無視しようこのうるさいおかっぱは。

私は目を閉じる。うるさい声は無視する。

白部先輩かはわからないが、何かの気配がする。そちらへ問答無用で歩き出す。


「手、離せよ!」

「子供は勝手に走り出したりして危ないから手を繋ぐんだ。わかるか?」


気配の先には糸でぐるぐる巻きにされた人が吊り下げられていた。先輩ではない。失踪者だろう。仕方なく手を離し、プン太と協力してその人をとりあえず床に置こうとする。が、重い。筋力不足か情けない。

失踪者を床に置こうとして落としかけたその時、紫苑がその人をキャッチした。


「ありがとう。紫苑」

「このぐるぐるも切った方がいいと思うけど」

「プン太」


プン太はいくつか切り口を作り、そうめんのように啜った。

その人も連れて行こうと思ったが、意識がなく、そのままにするしかなかった。

広すぎるのか、他の気配が辿れない。


「天井の糸をみればいいじゃん」


紫苑というむかつく後輩の指示に従う。一応もう一度手はつないでおく。


「やめろってこれえ!」


彼の言い分は無視する。


糸を辿った先には、幼児くらいの大きさの蜘蛛のような人間のような何かがいた。

紫苑の腕を離す。紫苑は得意げにトランプをポケットから出すと、投げつける。蜘蛛は縦半分に避けて体液を噴出しながら事切れた。


「ふん、こんなもんですか」


そう言った時、紫苑の後ろから5匹くらい同じ蜘蛛のような化け物が現れる。紫苑にタックルして、私が化け物が吐き出した何かを浴びる。顔や体や腕にそれは当たった。痛い。痛い痛い痛い。じゅううううと何かが焼ける音がする。それでも私は立っていられる。目が良く見えない。


「プン太!」


プン太はきっと鋭利な何かになり、飛びつく。落ちてきた数匹を私は気配で察知し、頭がわれるまで床に叩きつける。壊れかけのカゴ車に刺す。


「紫苑!」

「あ、あああ…あああああ」


紫苑は腰を抜かしているらしい。手が足りない。もう一匹を殴りつけるが、やはり私の筋力は弱い。相手はふらつく程度だった。そこに体重をかけて押し倒しタコ殴りにする。目が見えてくる。しかし、また蜘蛛は何か体液を吐き出す。また焼ける音。目を掴み、引っこ抜く。プン太は他の蜘蛛を退治したらしい。私に加勢してくれる。

最後の蜘蛛も倒したところで、私は意識を失った。


「…首藤先輩!首藤先輩!」


まだ寝ていたいのに起こされる。


「あと10分」

「元気かよ。起きてください!」

「あ、紫苑。そうだ。白部先輩を探さないと」

「僕が探します。あなたは怪我人です。待っていて下さい。」


痛みはもうない。


「まだ蜘蛛はいる。デカいやつが。失踪者もいる。私はもう大丈夫だ」


制服の一部は溶けていたが、特に動くのに差支えはない。


「大丈夫なわけないでしょう!?か、顔が溶けて…」

「こわっ。今も溶けてるか?」

「な、なんか治ってますけど…」

「じゃあ大丈夫だ。白部先輩を探しながら失踪者の救助もする。紫苑一人では役不足だ」

「それを言うなら力不足です」

「それに、紫苑があの体液を浴びたらと想像すると放っておけるわけがない」

「なんでですか。僕は嫌な後輩ですよ」

「私が先輩だからだ。それにわたしはそういう役目でもある」


紫苑は今にも泣き出しそうだったが、口を真一文字に結んで泣かなかった。ただ、震えは止まっていない。


「…首藤先輩を、信用します」

「ふっ。堕ちたな紫苑」

「うるさいです。状況から判断しただけです。あと、もう手はつながなくて大丈夫ですので」


近くに人がいることを感知する。失踪者だった。大柄の男性だったので、紫苑と協力して落下させないように床に寝かせる。そして糸をプン太がすする。

その他何名か救助したが、白部先輩はいない。人の気配はあったが、救助済みだった。


「白部先輩が近づいてきたのか?」

「だと思います。急ぎましょう」


大きな蜘蛛だった。何人もの顔が背中に引っ付いており、手足も人間のものになっている。

蜘蛛は顔をいくつか潰され、手足を切られ、数本しか残っていないが、致命傷には至っていなかった。


「白部会長!」


片腕を抑えた白部先輩がいた。傷は深いらしい。二の腕の傷は止まらず、床に血溜まりを作っていた。


「ようやく落ち合えたね。良かった」

「怪我してるんすね」

「そうなっちゃいました。顔がいっぱいあるのがいけない」

「紫苑は手当を。あいつは私が」


いくつもの口から体液が噴出される。プン太を貫通して、私に当たる。痛い。制服を突き破ったらしい。痛い。痛い。くそ。くそが。


二人の前にカゴ車をあてがって隠す。

「首藤さん、これを!」


白部先輩から貰ったのはいくつもの折り紙の手裏剣だった。これはいい。


「プン太!天井と繋がってる糸を噛み切ってくれ!」


プン太はすぐに動く。吐き出される体液を避けたり避けられなかったりしながら、私は巨大な蜘蛛に近づく。渡された手裏剣に力を込めて、ある顔に投げつける。顔は悶絶した表情を見せながら消えた。いける。あとはどれだけ体液を避けられるか。まあ掛かっても治るけど、なるべく痛い思いはしたくない。どの顔にするか考えていた時、こちら側から鋭利なものが投げられる。トランプだった。


「紫苑!」

「や、やられっぱなしじゃいられないでしょう!」


蜘蛛は紫苑に狙いを定める。しかし、脚が少なくなっているため、バランスを取り辛いのか、がたがたと紫苑に寄ってくる。紫苑は体液が吐き出される方向を見ながら、避けていく。見ていてこわいが、冷静にトランプで顔も消滅させていく。

さすが委員長だ。

キョエエエエエエエエエエエ

蜘蛛が悲痛な声を上げる。私も手裏剣で応戦する。そこからはあっと言う間だった。


「いやあ、私が足手まといでしたねえ」


カゴ車の裏で座っていた白部先輩が言う。


「腕、見せてください」


そこは余りにも惨い傷跡になっていた。

私はほとんど無意識に、傷を覆うように先輩の腕に口を当てていた。


「「な、何を」」


二人の声が重なる。

先輩の腕の組織が急速に修復していくのが分かる。そして、私の同じところに深い痛みが走る。


ぐぅうううう…ぎゃあああああ


私は叫んでいた。私に移ったらしい傷は、いつもより回復がずっと遅い。


あああああああ!!!!!


白部先輩は自分の傷のあったところをみて何が起きているのか大体把握したのだろう。私の背中をさする。

紫苑はどんな顔をしていたのか分からないが、やはり震えていた。

少し経ってやっと落ち着いてくる。


「白部先輩、こんな痛みを我慢してたなんて…普通じゃねえっすよ…」


脂汗まみれの自分が恥ずかしい。


「首藤さんだけには言われたくないです。もう大丈夫なんですか?」

「はい」

「見せて」


ジャケットを脱ぎ、シャツを脱ぐ。その下の体操着をめくって腕を確認する。

青黒いアザになっていた。


「…残っちゃったんだ…」


深刻そうに白部先輩は言う。白部先輩はそこを何度もさすった。


「てか!顔とかにも浴びてたのに!何でそれはすぐ回復してるんですか!」

「自分の怪我はすぐ回復するらしい」

「はあ!?」

「紫苑の言った通り、化け物なんだよ。私は」


紫苑は握りこぶしを震えるまで握りこむ。


「救助者の確認に急ぎましょう」


そう言う私に、紫苑は制服のジャケットを渡した。そうだ。あちこち溶けていた。

あらゆる人にジャケットを借りてばかりだなと私は思った。


救助者は蜘蛛を倒したおかげか、聞いていた人数通りの人が意識を取り戻すことが出来た。後は怪異専門対策部という国営の組織の仕事らしい。


私たちは帰る事にした。


「首藤さん、腕、本当にごめんなさい」


白部先輩は言う。


「白部先輩が回復したし、別にアザくらい勲章ですよ。あ、手裏剣返しますね」


使わなかった手裏剣を返す。こうしてみるとただの折り紙でしかない。それもカラフルなのが可愛らしい。


「なんか、私が作ったよりパワーみたいなのが増強してないですか…?」


手裏剣を見ながら先輩が言う。


「そりゃあ私が念を込めましたからね!」

「つよいなあ…」

「あの、首藤先輩」


紫苑はわざわざ私の前に立つ。


「すみませんでした。ずっと生意気で。あと、それなのに助けて下さってありがとうございました」

「それが私の役回りだから気にすんな。それに、デカ蜘蛛の時、紫苑がいなかったらかなり大変だった。こちらこそありがとう」


紫苑はやはり泣きそうになっている。私は紫苑の横に立ち、頭を抱えてやる。


「泣いていいんだぜ。後輩」

「うざいです。先輩」


泣きながら紫苑は言った。子供のように泣いてから、泣いたことは絶対に内緒にして下さいと、白部先輩からもらったティッシュで鼻をかみながら言った。

私と白部先輩は声には出さないが、顔を見合わせて笑う。


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