記録
◇◇◇◇
朝のギルドは、いつも騒がしい。
受付では職員が書類を抱えて走り回り、配信者たちはパンや肉を片手に乱暴に朝食をかき込んでいる。金属の擦れる音、笑い声、怒号、配信通知の電子音。様々な音が混ざり合い、空間は朝から熱を帯びていた。
その喧騒の中で、静かな場所があった。
白を基調とした装備に身を包んだ四人の少女が、落ち着いた所作で食事を取っている。
全員の耳元には、片翼の羽が刻まれた耳飾り。
それは、このダンジョンで知らぬ者はいない証だった。
攻略トップランカー。
【天翼の覇者】
四人とも整った顔立ちをしている。並んで座っているだけで、周囲の視線を自然と引き寄せる美貌のパーティー。
それぞれが違う雰囲気を持ちながらも、統一された白の装備が、彼女たちの格を際立たせていた。
ピンッ!
甲高い音が、ギルド中に響き渡る。
その場にいる全員が反射的に視線を上げた。
ギルドの中央、天井近くに表示が浮かび上がる。
【ランダンRTA 世界ランキング更新中……】
更新の横にコメント欄が展開され、文字が流れていく。
:久しぶりに世界ランキングの入れ替えだ!
:どこのパーティーだ!
:ランダン配信どこ?
:ワクワク
:888888
天翼の覇者パーティーのフィナが口を開けた。
「ランダンRTA。懐かしいね。半年ぐらい前だっけ。私たちも久しぶりにやってみる?」
軽い口調に、ソフィアは即座に否定する。
「私たちにそんな暇はない。早く62階層に行かねばならないからな」
「は〜い。ソフィアちゃんはフェンリルの動画に夢中だったもんね〜。でも私たちの最高到達階層は49階層。まだ50階層のボスも攻略してないのに。そんなに焦ったって、階層が縮まるわけじゃないよ」
フィナが肩をすくめる。
ソフィアの眉がぴくりと動いた。
「そんなもの分かっている。だが、お前にもトップランカー・天翼の覇者としての意地があるはずだ」
空気がわずかに張り詰める。
すぐにセレスが割って入った。
「まぁまぁ二人とも落ち着いてよ」
「落ち着いている!」
「落ち着いてるよ〜」
二人の声が重なる。
「あ、あわわわわ」
ノエルが慌てて、口に運ぼうとしているパンを落とした。
「あぁ」
フィナが「ちぇっ」と、退屈そうにランキング表示を眺める。
「また風紀螺旋とローズフェイトの順位が入れ替わったのかな? ローズフェイトは59分だったから、他のパーティーに抜かれたとか?」
フィナの問いにはセレスが答える。
「今、勢いがあるパーティーは、剣士の集いと闘士団だね」
「どっちも脳筋だ。でもその二つのパーティーなら納得するね。運が良ければ私たちも危ないかも?」
「抜かれても今の我々でなら、40分切りは狙えるはずだ」
「お、ソフィアちゃんがやる気になった?」
その瞬間、更新が完了する。
全員の視界に、最新の記録が浮かび上がった。
NEW
【ランダンRTA 世界記録更新】
【00:09:06】
:
:
:
:
その有り得ない記録に、コメント欄が止まる。
ソフィアの眉間に皺が寄った。
「……9分?」
セレスも小さく息を飲む。
「嘘……でしょ」
さらに表示が切り替わる。
【ランダンRTA 世界ランキング】
1位【00:09:06】 ルナ《星月の旅団》
2位【00:49:38】 天翼の覇者
3位【00:50:04】 赤竜王騎士
4位【00:53:27】 猫時雨
5位【00:55:35】 風紀螺旋
:ルナ?
:ルナちゃんだぁぁぁ!!!
:誰?
:個人?
:星月の旅団ってあの?
戸惑いがコメント欄を埋め尽くす。
そのバグみたいな記録に、
「ふざけているのか!」
ソフィアが机に拳を打ち付け、立ち上がる。
「ッ……あわわ」
ノエルが肩を震わせた。
「見つけた。これだよ」
フィナが半透明のウィンドウを弾いた。
空中に配信画面が展開される。
【ルナ《星月の旅団》】
そこに映っていたのは、
無表情で立つ、一人の男。
見覚えがあった。
ソフィアの目がさらに見開かれる。
「またこいつか……」
奥歯が、わずかに軋んだ。
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