外壁
◇◇◇◇
二十階層・ローグ領、フォルトの街。
灰色の外壁に囲まれた見張り部屋には、昼でも薄暗い空気が漂っていた。石で組まれた壁は長年の湿気を吸い込み、ひんやりと冷たい。遠くではモンスターの唸り声がくぐもって響き、街の外が決して安全ではないことを常に思い出させる。
俺は見張り窓から外を覗き込んでいた。
荒れた地面の向こうで、群れからはぐれた小型のモンスターがうろついている。外壁に近づくほどの脅威ではないが、こうして確認するのが日課だった。
「ねぇソルにぃに」
背後から、軽い声が聞こえてくる。
「ん? なんだ?」
振り返ると、そこに立っていたのは最愛の妹、うさぎだった。
妹のうさぎは、ひと目で印象に残る少女だ。淡く透き通るような青い髪は腰のあたりまで流れ、前髪の隙間から覗く瞳は深い赤。宝石のように澄んでいながら、どこか小動物のような警戒心を宿している。その色彩の対比が、儚さと妖しさを同時に引き立てていた。
華奢な肩からすらりと落ちるラインは細く、無駄がない。短めのスカートから伸びる脚はまっすぐで、柔らかな筋肉がふっくらと浮かび、しなやかな脚線美が際立っていた。
肌は白く、光を受けるとわずかに桃色を帯びる。その色が青髪と調和し、小さな顔、整った鼻筋、控えめに結ばれた唇。どの造形も過剰ではなく、美しさにまとまっていた。
じっとしていれば人形のようだが、視線が合った瞬間、赤い瞳がわずかに揺れる。
その仕草が、彼女をただの美少女ではなく、どこか放っておけない存在へと変えていた。
「キモ、そんなにじっと見ないでよ」
うさぎは肩をすくめ、ぶるっと体を震わせると、両腕で自分の体を抱いた。
「俺は最愛の妹を見ているだけだ。それはいくら最愛の妹だからって止められない!」
「はいはいそうですか。それより、これ見てよ」
うさぎはため息交じりに言い、石壁の一部を指差した。そこには黒いシミがあるだけだった。
「ん? それがどうした?」
「……ん?」
うさぎの視線が俺の耳元で止まる。
「あ! また配信デバイス外してる! ピアスどこに置いたの!」
ズンズンと詰め寄ってくる。距離が近い。
「ピアス、ピアス……」
頭の中でイメージを浮かべると、目の前の空間が歪み、小さな黒い穴が出現した。穴の奥から、銀色のピアスがぽとりと落ちてきて、すぐに穴は閉じる。
「早くそれはめて」
「はいはい」
左耳にカチッとはめる。
次の瞬間、
ブアンッ!
空間が震え、部屋中に無数の半透明ウィンドウが展開された。動画、コメント欄、広告、通知。大小さまざまな映像が浮かび上がり、視界を埋め尽くす。
「チカチカする。だからこれ嫌なんだよ」
「私たちが産まれる前からあるんだからね。慣れるとか慣れないとかの話じゃないよ。これが無いと生活できないの!」
「俺は生活できるもん」
「もん、じゃなくて。キャッシュレスだからお金も使えないでしょ」
うさぎは呆れたように息を吐いた。
「はぁ……それよりもこれよ」
無数のウィンドウの中から一つを指差す。
映像が拡大され、中央に表示される。
「これ、ソルにぃにでしょ」
画面の中に映っていたのは、黒髪黒目の俺だった。
暗い洞窟の中で、短剣を構えている。
そして、その下に表示されている数字。
「……は?」
再生回数が異常だった。
桁が違う。
「一億回再生」
うさぎが淡々と言う。
「そりゃそうでしょうね。62階層ボス、フェンリルの攻略動画なんだから」
一瞬の間。
「……そして恐喝動画でもある」
その一言で空気が変わった。
「これどういうこと?」
うさぎの赤い瞳がじっと俺を見上げる。
「え、まさか全部映って?」
「そう。全部ね」
間髪入れずに返される。
俺の背中に嫌な汗が流れる。
画面の中の俺が、ルナから杖を受け取る場面で止まっていた。
コメント欄が爆速で流れている。
「俺は悪くねぇ!」
そう、俺は思わず叫んだ。
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