一撃
草原を駆け抜ける風が、俺の圧で押し黙る。
『パッシブスキル・オールオン』
体の奥で、何かが弾けた。
ピン、と、感覚が一斉に開く。
《気配察知》《殺気感知》《視線感知》《足音感知》《振動感知》《空気流動察知》《魔力……。
……増加》《筋力強化》《瞬発力強化》《初速強化》《踏み込み強化》《回避距離増加》《軽歩》《瞬歩》《無音移動》《空中姿勢制御》《着地衝撃……。
……《反射神経強化》《回避補正》《自動回避補助》《危険予測》《致命回避》《ジャスト回避補正》《被弾軽減》《急所回避》《死角回避》《不意打ち軽減》《回避成功率上昇》《防御……。
……強化》《急所補正》《短剣適性》《投擲強化》《弱点看破》《カウンター威力上昇》《不意打ち威力増加》《クリティカル率上昇》《先制攻撃補正》《攻撃速度補正》
《照準補正》《弾道補正》《遠距離威力補正》《速射補助》《狙撃補……。
……追跡》《痕跡分析》《隠密補正》《潜伏補助》《夜間視認補助》《風読み》《レンジャーの本能》
オフにしていたパッシブが、雪崩のように覚醒する。
感覚が、体中を駆け巡った。
視界が研ぎ澄まされる。音が消える。空気の流れが見える。
世界が、静止したように遅くなる。
一歩、踏み出した。
「……こい」
短剣を指先で頭上に放る。
刃が空中で回転する。陽光を弾き、きらりと瞬きながら、ゆっくりと落ちてくる。それを、何の迷いもなく掴み取った。
「格の違いってやつを、分からせてやるよ」
静かに、短剣を構える。
「嫌いなんだよ、この感覚。さっさと終わらす」
俺の声は感情が削ぎ落とされていた。
「へぇ〜、ラフィさんに狙われてそんなこと言った人、君が初めてだよぉ。ま、狙った人間は口が聞けなくなるんだけ……どッ!?」
「会話はもういいだろ」
距離を詰めた。
踏み込みの衝撃すら置き去りにする速度。地面を蹴った感触だけが、遅れて足裏に伝わる。
「死ね」
短剣をラフィの首元へ走らせる。
それに短刀が割り込んだ。
だが、俺はそのまま殴り込むように叩きつける。金属音が弾け、短刀ごと押し切った。
「グッ!」
衝撃が、ラフィの体を横へ弾いた。草原を滑るように吹き飛び、地面を跳ねながら転がっていく。
間髪入れず、短剣を投げる。
一直線に伸びる刃が、吹き飛ばされるラフィを追い越す。
『八咫烏』
瞬間、視界が跳ねた。
投げた短剣の前へ、俺の体が瞬時に移動した。
空間を飛び越えたような移動に、ラフィの瞳が揺れる。
体勢を立て直す隙を与えない。
掴んだ短剣を、再び頭上に放り上げる。
「一撃で沈め」
右腕を振りかぶると、黄色い光が滲み出た。圧縮された力が拳へ集まり、空気が歪む。
そのまま拳を、地面へ叩き込む。
『貫通弓』
拳の軌道上に、吹き飛ばされていたラフィの体が流れ込んできた。
「うそッ!」
スローモーションの世界の中、ラフィの瞳が見開かれる。恐怖と理解が同時に浮かんでいた。
「潰れろ」
ドンッ! と、大地が脈打つ。
次の瞬間、ガッ! と蜘蛛の巣状に地面が割れた。草原の土が跳ね上がり、衝撃が放射状に広がる。
カキンッ!
甲高い音。
砕けた地面の中央。ラフィの頭の横で、俺の拳が止まっていた。
その先には、折れた短刀が転がっている。
「へっ、へへへ……死んだとおもたぜぃ」
ラフィが、仰向けのまま笑う。
「今、お前は死んだ」
「へ?」
俺は起き上がり、落ちてきた短剣を受け取った。
「今からダンジョン警備隊はやめて、ルナの相棒として生きるんだ。さぁ立て」
「えっと、どういうこと」
「お前は理解しなくていい。ノイズスキル取れ」
その時、ルナが駆け寄ってきた。
「ソルさん! 終わったんですか!?」
「ラフィは新しくルナのパーティーに入るらしい」
「ちょ、ちょっとまっ……」
ラフィの背中を、短剣の柄で軽く突っつく。
「そ、そうなんですよぉ。ラフィさんは今からルナちゃんのパーティーに入りますぅ〜」
コメント欄が一気に流れた。
:速すぎて見えねぇ
:え、今何した?
:一瞬で終わったんだが
:ラフィさん推すよ!
:可愛い!
:ビジュ強パーティー爆誕
「ん、可愛い!? 照れますねぇ」
ラフィが画面に向かって手を振る。案外、乗り気だった。
コメントに夢中になっている隙に、ルナが小声で聞く。
「な、なんで、殺されそうになってましたよね?」
「コイツ最初から殺気がなかった」
「え?」
「たぶんコイツにとっては、殺しはどうでもいいんだよ。殺しても殺さなくても」
「だからってなんでパーティーに」
「普通に面白そうだからだけど」
「えっ?」
ルナは固まった。
【ルナ《パーティー抜けました》】
登録者 56万人→65万人
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