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ソロで効率厨の俺は、配信者を助けてバズってしまう!〜形見の杖を奪って、勝ちヒロインを従順にしてみました〜  作者: 海の紅月くらげさん


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死地

◇◇◇◇


 十六階層・レルミト領、サマズーナの街。


 昼下がりの石畳は、柔らかな日差しを受けて淡く白んでいた。行き交う人々の足音と、露店から漂う香辛料の匂い。遠くでは鍛冶屋のトンカチの音が、規則的に空気を震わせている。危険とは無縁の、穏やかな階層の街だった。


 俺とルナは、その大通りを並んで歩いていた。


 ふと、思い出したように俺はアイテムボックスへ手を入れる。指先が触れたのは、冷たい感触。取り出したのは、蒼く透き通る宝石。転移石だ。内部で淡い光が脈打ち、不思議な魔力を閉じ込めていることが分かる。


 指先で軽く弾きながら、俺は言った。


「俺、丁度よく50階層の転移石持ってるけど、どうする?」


 ルナが足を止める。振り返ると、瞳がわずかに揺れた。


「どうするって……何がですか?」


「そりゃもちろん。この石があれば俺たちはすぐにでもトップランカーの仲間入りができる。報酬もグンッと上がるし、ルナも早く俺から解放される」


 軽い調子で言ったつもりだった。


 だが、ルナはすぐに答えなかった。


 少しだけ視線を落とし、それから前を向く。頬がほんのり赤く染まっていた。


「でも私……ソルさんと、もっと一緒に冒険したいと思ってる節もあります」


「え?」


 思わず間の抜けた声が出た。


 ルナは小さく笑う。


「そんなに急がなくてもいいんじゃないんですか? だから……パーティーから追放された私に、少し付き合ってくださいよ」


「え〜」


 なんだなんだ。


 心臓が早鐘を鳴らす。ドクンドクンと。


「春か。春が来たのか」


「ふふ、何を言ってるんでしょう」


 ルナは早足で俺を通り過ぎる。


 風が吹いた。柔らかな銀の髪が揺れ、首筋がのぞく。耳まで赤かったのを見逃せなかった。


「可愛い」


 思わず口から漏れた。


 本人には聞こえていないようで、ルナは気づかず歩き続ける。さすが個人アカウントで、ほとんど配信していなかったのに十数万人も登録者がいた配信者だ。こういう何気ない仕草が、無意識に人を惹きつける。


 そこまで言われると、あと半年ほどゆっくり金を稼ぐのも悪くないと思えた。


 そんなことを考えながら、俺は話題を変えた。


「ところで、トップランカーは今どこにいるんだ?」


 ルナの表情がぱっと明るくなる。


「ソルさんも天翼の覇者に興味がありますか!」


 一気に距離を詰められる。顔が近い。近すぎる。


「少しな」


 トップランカーが今どこにいるか聞きたかっただけで、天翼の覇者と明言したわけじゃないんだが、このキラキラした目を前に「興味ない」とは言えなかった。


「私、天翼の覇者に憧れて配信者になったんです」


「へぇ、ファンなんだな」


「はい。女性四人のパーティーなんですけど、凄くかっこよくて、凄く可憐で、凄く素敵なんです。私も早く隣に立ちたいと思っています。何年かけても」


「まっすぐな想いだ」


 羨ましくもある。


「目標があった方が人間は頑張れる」


「そうですよね。ソルさんも興味あるということで、天翼の覇者の配信見ましょうよ。今、配信中ですよ」


「え……」


「ん? はい、見ましょ」


 ルナは俺の腕に自分の腕を絡ませた。


 柔らかい感触が伝わる。


 俺、そんなに異性の耐性ないんですけど!


「黒龍……」


 ルナが小さく呟く。


 彼女が展開した半透明のウィンドウには、配信映像が映っていた。雪原。吹雪。白い装備の四人。そして……。


 黒。


 巨大な黒い龍が、画面いっぱいに映し出されていた。


「ほぅ……バハムートだな」


「バハムート?」


「五十階層は普通のレッドドラゴンのはずだ。たぶんこれ、フェンリルより強いぞ」


 ルナの表情が固まる。


「え、62階層のボスより強いということですか?」


「まぁそうだな。49階層で止まっていたパーティーなら必ず死ぬ。それぐらいヤバいモンスターだ。ボスモンスターは転移石の禁止エリアがデカイから、バラバラに逃げても……一人助かればいい方だな」


 ルナの腕が、俺に絡んだまま震えた。


「ソルさん……バハムートに勝てますか?」


「分からない。まず戦ったことがない」


「そうですか」


 一瞬の沈黙。


「助けに行って欲しいのか」


「いえ……」


 ルナは小さく首を横に振る。


「ソルさんの命もまた大事です。天翼の覇者パーティーが勝つことを祈りながら、配信を最後まで見ることにします」


 結末の分かりきった配信。


 ダンジョンは希望を与えると同時に、絶望も与える。


 俺はなんでもやると、ルナに約束した。


 だったら俺がルナの希望になってもいいだろう。


 少しぐらい可愛い女の子の前でカッコつけてもバチなんて当たらない。



「よし、わかった。行ってくる」


「え?」


「本気出せば、こんなヤツ余裕だって言ってる」


 ルナの目が見開かれる。


「本当ですか?」


「ああ、ゆっくり冒険はできなくなるけどな」


「……」


 ルナは一瞬黙り、それから小さく笑った。


「ふふ……本当に、本当に、いつも助けてくれますね」


 俺はアイテムボックスから五十階層の転移石を取り出す。蒼い光が掌の中で淡く光る。


 急にルナが配信を開始した。


「なんで配信つけたんだ?」


【ルナ《パーティー抜けました》】

無題

同時接続者数 113


「パーティーの戦闘では横入り厳禁なんです。戦う前にコラボ申請をしてください。それが『モンスターを譲ります』という暗黙の了解になります」


「なるほど。他には無いか?」


「そうですね……帰ってきたら、私のアカウント名の話をしたいです」


 笑顔だった。


 だが、まったく目が笑っていなかった。


「あ、」


 指先から、転移石が滑り落ちた。


 石畳に当たる。


 パリン、と乾いた音が響いた。


 蒼い光が砕け散る。


 次の瞬間。


 俺の目の前は、雪原だった。







楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


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