視線
パーティーメンバーだというのに、なぜルナはここまで怯えている?
疑問が、胸の奥で浮かび上がる。
近くで見ると、巻き髪の少女の笑みは、あまりにも完成されていた。口角の上がり方、視線の落とし方、頬の緩め方。すべてが計算され、見る者に安心感を与えるよう整えられている。配信画面の向こうで何度も作り上げられてきたであろう、完璧な笑顔だった。
優しげで、柔らかい。親しみやすい。
だが同時に、逃げ場を与えない圧があった。
笑顔の奥に、わずかな硬さがある。安心を押しつけるような笑みだった。
「無事でよかった。私たちの配信が終わったあとも姿を見せないから、心配したのよ」
声音はやわらかい。
責める響きはない。むしろ気遣いに満ちている。
「……はい。ごめんなさい」
ルナの返事は短かった。
そして、すぐに謝罪が続く。
巻き髪の少女は、わずかに眉を下げた。
「不注意でも、もうランダム転移石なんか使ったらダメよ。天然も度が過ぎれば危険になり得る。こうやって生きてたからいいものを。丸っきり色も違う物をどうやって間違えるのよ、まったく」
軽い溜め息交じりの声。
諭すような口調だった。
普通の転移石は、淡い蒼色に光る宝石だ。ダンジョン内ならどこでも採取できる。握れば、転移石を採掘したフロアへ転移できる。
俺も拠点にしている低階層の転移石を持ち歩く。
対してランダム転移石は、砕かれた転移石を再構築して作られる特殊なものだ。色は黒。用途も性質もまったく違う。
間違えるような代物ではない。
「……」
ルナは唇を結び、黙り込んだ。視線は落ちたまま動かない。指先がわずかに震えているのが見える。
天然だとしても、あれを間違えるか? 配信初心者でもあるまいし。
ルナの様子で、小さな違和感がどうしても拭えない。
「でも、運が良かったわね。こんな強い人に助けてもらえて。さっきのRTAも見てたわよ。ルナの個人アカウントじゃなくて、私たちのパーティーアカウントで配信したら良かったのに。貴方、もっと有名人になれたわよ」
言いながら、彼女の視線がルナから外れた。
そして、まっすぐ俺に向く。
値踏みするような目だった。
笑っているのに、どこか冷たい視線。
肌に粘つくような不快感が走る。
「いやいい。足手まといが増えるだけだ」
思ったよりも棘のある言葉になった。言うつもりはなかったが、いつの間にか口から漏れていた。
巻き髪の少女の笑みが、ほんの少しだけ暗くなる。
「そう」
俺に関する興味を失ったかのように、視線が再びルナへ戻る。
「ルナ、私たちこれから22階層を攻略するけど来る?」
何気ない誘いのような口調。
「いいえ」
ルナは即答した。
その瞬間、巻き髪の少女の表情がぱっと明るくなった。
「ああ良かった。ルナがずっと姿を見せないから、新しいヒーラー入れてみたの。もしルナが来るって言ったら、断るのが心苦しかった」
軽い声だった。
だが、その内容はあまりにも酷い。
一日連絡が取れなかっただけで交代。
それは、仲間に対する扱いではない。
「つまりどういうことだ?」
思わず口を挟む。
少女は首をかしげ、くすりと笑った。
「あれ? そんなに強いのに貴方も天然? つまり、もう来なくていいってこと。言わないでも分からない?」
優しい笑顔のまま、ルナを見下す視線。
「私たちのパーティーには貴方を誘えなかったけど、私たちの足手まといを貰ってくれて感謝してる。じゃ♡」
ちらりと俺に視線を向け、軽く手を振る。雑談を締めるような軽さだった。そこに罪悪感は微塵もない。
「ああ、言うのを忘れるところだった」
すれ違いざまに振り返る。
「パーティー名は外しなさいよ。もうパーティーメンバーじゃないんだから」
三人は、そのまま通り過ぎていった。
残された空気だけが、重い。
「なんなんだ、アイツ」
「いいんです。昔からミレイさんは、ああいう方でしたから。切り替えてギルドに行きましょう」
一番悔しいはずのルナが、そう言って歩き出した。
瞳は憂いを帯びていたが、表情は取ってつけたような笑顔。
出会って間もない俺が、これ以上口を出せることではなかった。
楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!




