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第25話 覚醒の一拳

ただひたすらに、走った。


走って、走って――。

やがて、一つの空間にたどり着く。

いくつかの柱が見下ろすように立ち、その先に玉座が置かれている。


玉座に座っていた男が、おもむろに立ち上がった。


「あの時間旅行者はどこに行った。俺が戦いたいのは、お前じゃない」


低く、そして残酷に言い放つ。

ズシリとした重みが、ダリアの体にのしかかった。


「誰だけ知らないけど、そんなことはどうだっていいだろ...お前の相手は、僕だ」


鋭く男を見上げ、構える。

まだ戦ってもいないというのに、ドクンドクンと心臓がはねるのを感じた。


男からにじみ出る恐怖。


ダリアは払いのけるように、拳を強く握る。


「そうか...ならばこの魔王幹部エリエス・コルリレータ、一瞬でオマエを塵に返してやろう」


刹那――。


ズシャリ。

肉が裂けるような音が、響く。

恐る恐る、ダリアは胸元を覗いた。


目の前に広がる、赤に染まる服。

鋭い痛みが、胸元の傷口から飛び出すように走る。


「グっ...!?」

「...ほう、殺す気で撃ったんだがな。身体強化魔法を使うだけあって、耐久性は一線を画すものがあるか」


見えない斬撃――。

心臓の鼓動が、徐々に早くなっていく。


「今度は...こっちの番だ!」


痛みに耐えながら、強化魔法を発動する。

鋭く速い拳は、エリエスの直前でピタリと止まった。


 まるで、そこに壁があるよう――。


「残念だったな。身体強化魔法程度の魔法しか使えんお前じゃあ、この魔法を対処することは不可能だ」


鼻を鳴らし、笑う。


「『空間』スキルを使う俺にとって、相手になるのは『時』スキルを持つアイツだけだ...」


ドゴォン...!


言い終えると同時に、ダリアは背中から衝撃が走るのを感じた。

衝突した壁には、大きく、そして深い穴がくっきりとできている。


血の混じる唾を吐きだし、息をつく。


「こうなったら...『アレ』やるか。体が壊れるかもしれないけど...背に腹は代えられない!」


再び、身体強化魔法――。


しかし以前とは違って、体中のあちらこちらから悲鳴が聞こえた。

限界を超えた身体強化。


強く、壁を蹴りつける。


ズドォン!


瞬きをする暇もなく、距離は目と鼻の先になる。

そして、一拳――。


「さっきできなかったのだから、今度もできないに決まっているだろ」


呆れるように息をつき、エリエスはスキルを発動した。

吹き飛ばされる、ダリア。


カクンと首を曲げ、浅く息をする。


「これほどの組織を立てて、俺はアイツへの復讐を果たそうとした...千年、千年待って、ようやくその機会を手に入れたんだ」


コツンという靴の音だけが、響く。

ダリアの前にまで行くと、そっと腹に手を置いた。


「...お前のような雑魚に邪魔されて、たまるか!」


ダリアの四肢が、もげる。

ぼとぼとと、宙に舞う部位たちは地面に落ちた。


広い血の池が、そこに完成した。


「...行くか」


エリエスはゆっくりと踵を返す。


上半身だけになったダリアの心臓が、ドクンと跳ねた。

――死にたくない。死ぬわけにはいかない。

執念に近い思いが、体を突き動かす。



 そして、ダリアは五体満足で立ち上がった。



「どこ行くんだよ...エリエス。まだ、戦いは終わってないだろ」


ゾクリ。

エリエスの背中から、這い上がるような不快感が押し寄せる。


冷や汗を頬に乗せ、振り返った。

目の前には、無傷のダリア・メルデス。


昔の記憶――千年前、殺されかけた時の光景を思い出す。

聖剣を喉にあてがわれ、冷酷な目で見下ろす勇者。


 エディタ・アドレの姿を。


「そんな目で...俺を見るな!」


目を見開き、血走った目で振り払う。

鼻息は荒くなり、先ほど見せた冷静さはない。


「...僕の名前は、ダリア・メルデス」

「......?」


ダリア・メルデス。

懐かしくもあり、それと同時に胸にたまる不快感。

気が付いた時には、口が動いていた。


「お前は...ヘルト・メルデスの子孫か!?」

「知らない...過去のことなんて、今更どうだっていい。今はただ...」


掌をエリエスにかざす。

――そして、魔法を発動した。


「あんたを葬る男の名前を、よく覚えとけって言ってるんだ」

「はっ!子孫だからって粋がるなよ...?」


同じように、掌をかざす。

透明な刃が空間を駆け、ダリアの胸へ――。


 瞬間、刃はフッと消えた。


「...なに?」

「......ようやくわかった」


唖然とするエリエスをよそに、ダリアは拳を見つめる。

平たい声で、その真相を導き出す。



「どうして身体強化魔法で、魔力が枯渇するのか。ヘルメスの魔法が、僕には効かなかったのか。ゼーラを殺した時、彼女を吹き飛ばせたのか。五体満足の姿に戻ったのはなぜなのか」



目を閉じ、そして再び開ける。

胸からこみあげる熱を抑えるように、真相を語った。


「...それは僕の真の魔法が、魔法のしくみに一番近しいものだからだ」

「『干渉』...そんなバカな」


否定するように、口をパクパクと動かす。


「...僕の魔法が『干渉魔法』だからこそ、ありとあらゆる魔法を使えたんだと思う」


直後――。

ツンとした痛みとともに、ダリアの鼻から血が流れる。


「フン...まだ慣れない干渉魔法を二回も使ったから、限界が来たのか?だったら...」

「だったら...僕にはこれしかないな」


言葉をさえぎる様に、ダリアは再び手をかざす。


エリエスの体は急激に重みを増す。

魔力、マナの流れすら正常に感じ取れなかった。


「貴様...俺に何をした!?」

「何って...魔法とスキルと封じただけだよ」


静かに、構える。

いつものように、身体強化をして――。


ふぅ。と息をつく。

体がほのかに軽くなっていくのを感じ、足に力を込めた。


「こっからは、こっちの得意分野でやらせてもらう」


刹那――。

重い一撃が、エリエスの頬に刺さる。

鈍い音と骨が砕ける音が、響いた。


しかし、ダリアの拳は一撃では終わらない。


一撃。また一撃。

重く、そして鋭い一撃は速度と威力を増していく。

体の感覚がなくなるほどに、何度も殴りつけた。


 すべては、仲間を守るため――。


 

 ――不純物を消すために。



ドサリと、エリエスは倒れる。

白目をむき、口からは泡を吹いていた。

顔はもはや原形をとどめておらず、誰だったかさえ判別がつかないほどである。


 静かな空間。

 ダリアは達成感で、ため息をつく。


脱力するように、あるいは重荷をとったような安堵の息だった。


拳を、天につきだす。



「ディエーゴ...守り切ったよ」


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