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第23話 脆い手と手

とある部屋。

端が濡れ切った毛布にくるまって、アルゼーヌは涙を流していた。

もし転移魔法を熟知していれば――

そんな後悔が、浮かんでは消えていく。


コンコン。


ドアがノックされる。


入ってこないで。

言う前に、扉はゆっくりと開かれた。


「アルゼーヌ。まだそんなことをしていたのか」

「...先生?」


布団から顔を出し、言った。

ディエールは、冷静な目でアルゼーヌを見ている。


「お前がそうしている間に、何人があいつの死を乗り越えたと思う?」

「...0ですか」


真剣に答える。

...フン。

ディエールは鼻で笑い、鋭くアルゼーヌを見据えた。


「お前以外の全員だ...あのダリアでさえも、克服したんだぞ」


それなのに...。

呆れが混じった息をこぼす。


「お前はまだ立ち止まるのか...?悲しみに浸り続けるのか...?」

「......」


下を向く。

自らの理が作り出した壁。

それが、壊された気がした。


「...俺とダリアは、もう一度ダンジョンに行く...学園長に秘密でだ」

「え...」


目を見開く。

自然と、眉にしわが寄っていた。


「...これは俺の戦いでもあり、あいつの戦いでもある。ほかの奴らに干渉されたくはない」


だから...。

ディエールは手を、アルゼーヌへ差し出す。


「お前の転移魔法が必要だ...頼まれてくれるか?」

「...」


ディエーゴの姿が、脳裏をよぎる。

失った大切な仲間。

もう二度と、悲劇が起きないように...。


 アルゼーヌは硬くて、乾いた手を取った。


「...手伝わせてください。先生」

「わかった...決戦は明日だ。集合場所は、特訓場でいいな?」


アルゼーヌは、首を縦に振った。




















場所はダンジョン。

玉座に座る男が、首を垂れる幹部を見下ろしていた。


ポタリと、雫が玉座に落ちる。


「お前たち、もうチャンスはないといったよな?特に、お前」

「ひっ...」


幹部の女が裏返った声を出し、冷や汗を流す。


「お前は空間を生成する魔法を有しておきながら、敗北した。それは、お前の怠慢による敗北に他ならない」

「...違います!あいつらが私よりも優れておりまして...」


ボトリ。

彼女が言い終えるよりも先に、何かが落ちた。


 地面に広がる、彼女の左腕。


悲痛な叫びをあげ、地面に転がる。

助けるものは、だれもいなかった。


「俺は、必ず勝てる算段で配置した。それなのに負けたのは、お前たちが変な真似をしたからにすぎん」


ふぅ。と、息をつく。


「お前たち一人一人のことは、もう信用ならん...俺がやる」

「お待ちください!俺たちは、まだやれます!」


涙ながらに、男が訴える。

はぁはぁ。と息を荒くするその姿は、まさしく弱者その者だった。

目を細め、口を突き出す。


「お前たちは信用ならんといっただろ...お前たちには、足止めを頼むつもりだ」

「足止め..?」


首を傾げ、眉を顰める。

鼻を高くして、玉座の男は口を開けた。


「最高戦力と俺一人で戦い、残り物はお前たちや下っ端が倒せ。簡単だろ?」

「...そうですが」


口を一度詰まらせる。


「なぜ、そこまで戦おうとするのかが...わからないんです」

「......」


脳裏に、一人の男の姿がよぎる。

――ディエール・アーレ。


自然と、口角が上がっていた。


「...戦いたい男がいるのでな」


目には、憎悪が映っていた。

























日は頭を半分だして、ジトリと見下ろす。

薄明かりに照らされた白い空間には、ディエールとダリア。


そして、アルゼーヌ。


「アルゼーヌ...君は僕のことを疑っていないのか?」

「まあね」


苦笑いを浮かべて、頬を掻く。


「事実から見れば、きっとダリア君が犯人だ...だけど、僕の心はそれを否定している」


それに...。

ダリアのほうを向き、複雑そうな表情を浮かべる。


「あの事件以降...君はどこか変わったように見えるんだ」

「...そうか」


ダリアは顔をうつむかせ、目を伏せる。

息をつき、肩の力を抜いた。


「そうかもね...僕は、変わったのかもしれない。甘い理想を見なくなったからね」


アルゼーヌは目を細めた。


しばらくの静寂が続く。

永遠とも思える静けさを破ったのは、クラップ音だった。


「もう、話は終わりか?」


ディエールは静かに、言った。

今一度二人の顔を伺い、話に入る。


「俺とダリアで、ダンジョンに入る...マップを多少把握したお前なら、簡単にいくことができるだろ?」

「...そうですね。最善を尽くします」


ディエールは、ダリアのほうを向く。

どこか懐かしむような目で、言った。


「行くぞ...地獄へ」

「...いいですよ。大切なものを守れるのなら、生き抜いてみせますよ」


ディエールはニヤリと、口角を上げる。


優しい少年は、もうどこにもいない。

目の前には、一人の戦士が堂々と佇んでいた。


「それじゃあ...いきますよ?」


アルゼーヌは目を閉じ、イメージする。

目の前にあった、あのダンジョンの入り口。

ぼやけていた輪郭は線を描き、やがて克明になっていく。


「...!」


ぐにゃりと、ダリアの視界がゆがむ。

胃が浮くような感覚。


 ダリアたちの姿が、瞬きをする間に消えた。




「転移...できた......ダリア君と先生を転送できた」


アルゼーヌは息をつき、膝をつく。

心の中に満たされた達成感が、そこにはあった。


後ろから、カンカンッ。と靴の音が響く。

バッ。と、後ろを振り返った。


「...ダリア君は?」


アルゼーヌの前には、ヘルメス。

はぁはぁ。と息を荒くし、汗を難敵もたらしていた。

着ている服を仰ぎ、気持ち悪そうに扱う。


「もう行っちゃったよ」

「...馬鹿。なんで結局行っちゃうのよ」


白くなるまで、こぶしを握る。


「...多分、ダリア君にはそれなりの理由があるはずだよ」

「え...?」


首を傾げる。

アルゼーヌはダリアがいた場所を見つめ、言った。


「ダリア君は...死ぬために行ったんじゃなくて、何かを守るために戦場に立ったんじゃないかな?」

「...」


息を呑む。

ダリアの涙、ヘルメス自身が放った言葉――。

点と点が、やがて線になった。


「...まさか、私たちを守るために?もう二度と、仲間を失わないように、ダリア君は戦場に立ったの?」

「...そういうことなんじゃないかな」


ヘルメスは、ただ口をつぐむことしかできなかった。

眉を顰め、肩には力が入っている。


 ただひたすらに、ヘルメスは願うことしかできない。

 ...ダリアとディエールが、無事に帰ってくることを。


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