スピンオフ:フェイ編③ ―『勇者なんて柄じゃないので』より―
本編でギルドの簡易宿屋に戻った後
服を買って貰った"ご褒美"のため
ご主人様の役に立とうと奮闘するフェイ
しかしその健気な行動が裏目に出てしまった
本編の第4話の補完となるお話です。
Cランクのクエストに行ってくるね。家のことは頼んだよ」
「はいっ、いってらっしゃい、ご主人様っ!」
ご主人様はお昼過ぎに出かけていった。
買ってもらった服の“ご褒美”のために、
たくさんご主人様の役に立てるように頑張らなきゃ。
スピンオフ:フェイ編③ ―『勇者なんて柄じゃないので』より―
ギルドの簡易宿屋というだけあって
とてもキレイな部屋とは言い難い
「まずはお掃除頑張らなくちゃ!」
私は床の掃除から始めました。
今は寒冷期ということもあり、
雑巾を濡らす水もとても冷たかった。
それでも私は、もういただいてしまったご褒美のため、
そして何より、ご主人様の役に立ちたい一心で
部屋の掃除に励みました。
Cランクのクエストって、難しいのかな……
もし、ご主人様が帰ってこなかったらーー
また私は、一人ぼっちになってしまう。
怖くなってしまったので、考えないようにしました。
「大丈夫。ご主人様は、ちゃんと帰ってくる。
きっと帰ってくる。帰ってきてくれる、はず……」
でも、やっぱり……
一度考えてしまったせいで怖くなって、
私はしばらく泣いていました。
夕方になると玄関のドアが開きました。
「フェイ、ただいま」
「お、おかえりなさい!ご主人様っ!」
よかった。やっぱり大丈夫だった!
安心したせいで涙が出てしまいました。
「大丈夫だよフェイ」
ご主人様は私の頭をそっと撫でてくれました。
でも……
「あれ、フェイ床の掃除してくれてたの?」
「は、はい……でも……」
しばらく1人で泣いていたせいで
床の掃除は半分までしか終わりませんでした。
「ありがとね フェイ 今度何かご褒美あげないとね!」
「・・・え?あ、は、はい……」
床の掃除が終わらなかったのに、
ご主人様は私を叱りませんでした。
それどころか、お礼まで言ってくれて……
ご褒美まで、もらえることに……。
私は、ご主人様のお役に立てなかったのに。
いい子でいられなかったのに──
その日もご主人様は一緒に晩ご飯を食べてくれました。
今日受注したクエストの話もしてくれて
とっても嬉しかったのに……
でも、そのあとは頭がぼーっとしてしまって、
最後に聞いたお話は、あまり覚えていません。
ご主人様に奴隷として買ってもらったのに、
フェイは、ちゃんと役に立てませんでした……ごめんなさい。
その夜もご主人様のベッドで一緒に眠らせてもらいました。
「ごめんなさいご主人様・・・フェイにこんな贅沢は・・・」
今日はご主人様の役に立てなかった。
明日はもっといい子でいられるように頑張るから
……だから私はご主人様が眠りについた後
こっそりベッドから出て……
そして、私はまた床で寝ようとしました。
掃除の際に体が冷えてしまったのか
今日が特に冷え込む日だったからなのか
とにかく寒くて辛かった。
本当はご主人様と一緒に寝たい
でも私は奴隷だから
身の程はわきまえないといけない
そう言い聞かして私は
膝を抱えて丸くなり、眠りにつきました
朝起きると足元がおぼつかない
ご主人様に朝食を作らないと……
床掃除の続きをしないと……
ちゃんとご褒美貰えるいい子でいないと……
「……ィ……フェイ!?」
「は、はい!」
ご主人様は私にベッドで休むよう言いました。
これくらいは大丈夫、と伝えましたが
「ベッドで休め」と命令されてしまいました。
朝食を作ってあげられなかった。
床掃除の続きもできなかった。
それどころかベッドで休むことしかできなかった。
ご主人様のお役に立てなかった……
役に立たない奴隷でごめんなさい……
私は細身でもないし……
捨てられてしまうかもしれない……
もし捨てられたら……私は……
気付いたら眠ってしまったようで
もう夕方になっていました。
体調は良くなっていたのですが……
今日もご主人様のお役には立てませんでした……
「なぁ、フェイは俺のことはやっぱり嫌いか?」
「そんなことないです!!だ、大好きですよ///」
本心で言ってしまったけど
「あっ……」と我に返ってしまいました。
でもご主人様は続けて尋ねました。
「じゃあどうして夜は一緒に寝たのに朝には床で寝てるんだ?」
だから私は、ご主人様に本音を打ち明けました。
奴隷がご主人様の布団で一緒に寝るのは
“ご褒美”だと思っていること。
でも、フェイはまだそのご褒美をもらえるほど
ちゃんと頑張れていないこと。
服を買ってもらった時もそれがご褒美だと感じていて、
そのぶん、ご主人様の役に立てるように
努力しないとって思っていること。
昨日は掃除を頑張ったけど、
最後まで終わらせることができなかったこと。
今はまだ、お役に立てていないかもしれないけれど、
これからはちゃんとご主人様のために頑張ること
そんな気持ちを、私は言葉にして伝えました。
「次床で寝てたら捨てちゃうよ?」
捨て……ちゃう……
ご主人様は私のこと捨てるの……?
頭が真っ白になりました。
捨てられたくない……
「い、嫌……お願いご主人様……フェイのこと捨てないで……っ」
「じゃあ、ちゃんとベッドで一緒に寝るんだよ?」
「は、はいっ!」
その日の夜、ご主人様と一緒のベッドで――
私が、こんなご褒美をもらっていいのかな……
こんなご褒美をもらえるほど、お役に立てているのかな……
いろんなことを考えましたが……
今日は、ご主人様より先に、私が眠りについてしまいました。
長い間、檻の中にいたからでしょうか。
久しぶりにベッドで眠れたおかげか、
それとも……ご主人様が、そばにいてくれたから――
気がつけば、お昼を過ぎていました。
「っ!?お、おはようございます、ご主人様っ!」
「フェイ、おはよう!」
「ご、ごめんなさい……ご主人様……
フェイ……たくさん寝ちゃいました……」
でも、ご主人様は怒ることもなく、
「安心して寝られたんだね」って笑ってくれました。
というのが私がご主人様に仕えてすぐのお話です。
後で聞いた話ですが、
私が床で寝る理由を語ったのに
ご主人様はわざと私に言わせたそうですよ。
いじわるですね
でもあの頃の私と比べると今の私は
随分素直になりました。
たくさんワガママも言えるようなりましたよ
ねぇ、あなた?
スピンオフ:フェイ編を読んでいただき、ありがとうございました。
このフェイ編①~③は
本編の第3話・第4話で登場した際の“フェイの心境”を、
未来のフェイが、当時の自分を思い出しながら語る
そんな構成になっていました。
そして晩ご飯の材料を買うために
ご主人様と2人で出かけていった。




