3話 初めてのボス戦、そして冒険の始まり
巨大なオークの周りにオークが二体、ボスとして相応しい光景であった。
―――ダイと†最強戦士†が巨大なオーク『オークナス』に突っ込んでいく。相手もそれを待ち望んでいたかの如く盾を構え始めた。盾持ち雑魚敵との戦闘経験から、盾は一定ダメージ蓄積されると破壊されるようになっているようだ――恐らく『ガードブレイク』という状態だろう。俺が前やっていたゲームではそう名付けられていて、雑魚敵の時には一定時間防御力がダウンするエフェクトが表示されていた。
そして俺は『ハイファイア』を唱え始める。詠唱時間はファイアのときの1秒よりも長く2秒、しかし雑魚敵が周りにいないので詠唱中断をされることなく唱えることができる。
だがやはりヘイトは遠距離職に集まるようになっている。オークナスは俺に向かって走り出したが、ウォーリアーたちの攻撃によってディレイ―仰け反りを受けてなかなか俺に近付けない。その状態を傍らからアーチャーが矢を射ている。
まさに――完璧だ。タンクがいなかったため若干変な感じではあるが、こういう戦法も悪くないだろう……
そして解き放たれた火の玉がボスに直撃する。多段ヒットするようで火の玉が盾を削る音が何回も聞こえてきて、さらにディレイも付与されている。その横からダイたちとメイが攻撃していたとき、盾が割れてボスはスタン状態となった。
―――このゲームでは盾が破壊されると、敵によってはスタンも付与されるようだ――中ボスの突進でスタンしたときも盾が割れたことによるものなのか…?
『きゃぁ!』
その瞬間――メイのキャラが悲鳴を上げた。そうだ、この空間にはボスのオークだけじゃなく取り巻きもいるんだった――暗かったようでメイも取り巻きたちの接近に気付かず、攻撃を喰らいながら逃げ回っていた。
「しまった…」
俺はそう呟いた。ダイもそう思っていたことだろう、スタンしているオークナスをよそ目に取り巻きたちを必死で追いかけている。
[メイの視点]―――――
「やばい………」
取り巻きのオーク二体が棍棒を必死で振り回している。どうやらアーチャーよりもオークの方が移動速度が速いみたいで、殴られては逃げ殴られては逃げを繰り返していた―――。
なんで私が狙われるの………
…ああ――なるほど、もしかしたら遠距離の職業が狙われるのかもしれない。ってそんなこと考える場合じゃない……!
私の体力はオークに殴られ続けて3割をきっていた。まだチュートリアルなのに死にたくないよ……CPUたちと来てたのならば別に問題ないんだけど、他の三人は実際の人間、そんな中で死んだら恥ずかしい―――。
『はぁ!』
その時――半ば諦めかけていたメイを神様が助けれてくれたのかの如く、突然メイはその場で前転した。それによってオークから離れたことにより、ヘイトがメイからシンに移った。
「え、なにこれ?」
突如起きた新たなモーションにメイは驚きを隠せないでいた。
ふと――メイのスキルスロットの上にスキルのCTを表す砂時計が表示されているのに気付いた。それをスキルの再使用のための待ち時間だと分かっていたメイは、別に何のスキルも使用していないのにとそれを不思議に思っていた。
メイに訪れた謎とは一転、今度はシンがオークから逃げ回るハメになってしまった。申し訳ないと思いながら、取り巻きたちを攻撃しつつスキル一覧を見てみた――だが習得スキルは『スリーショット』のみである。たださっきの前転は絶対スキルだと思い、スキルをよくよく観察してみるとスキルタブの『アーチャースキル』とは別に『ニュートラルスキル』というものがあることに気付いた。
それを押してみるとアーチャーのスキルツリーとは別のものが表示された。一番初めのスキルは『緊急回避』とあり、自動習得されていた。
「ああ、このスキルは移動ボタンを二回連続で押すと発動するようになっているんだ…。私がスマホでやっていたゲームでもそんなのあったかも………」
新たな発見をしたマイは満足気になったが、逃げ回っているシンを見て再度後ろめたい気持ちになった。
―――――
「…え、ちょっとまて!?」
―――シンは突如オークたちのターゲットとなり、ハイファイアを詠唱中だったが棍棒で殴られて詠唱中断されてしまった。そして逃げ始めたのだが、メイジはアーチャーよりも移動速度が遅いので殴られる頻度はメイのときよりもかなり多くなっていた。
「やばいやばいわ…」
多段ヒットのハイファイアを唱えることができれば、多段ヒットによりディレイで距離を稼ぐことができる。ただこの状況、スキル詠唱ができないのでどうしようもできない…。
―――その時、先ほどメイが見せた前転を思い出した。あれができれば俺もターゲットから逃れることができる。レベルが低いメイができるのならば、俺もできるはず………
そして俺は色々なキーを押してみたがどれも虚しく反応してくれず、状況は全く変わらなかった。え、あれはまさかアーチャーのスキルなのか…もしそうだったらメイジの俺はできないぞ………。
いや、絶対そうだ。ゲームでのアーチャーといえば一般的に敏捷性が高いとなっている。このゲームでは「敏捷」という能力値はないが、その分俊敏なスキルが揃っているということなのか…?
―――てかスキル情報見ればいいじゃん。そう思い出した俺はメイをクリックした――そこには『ニュートラル』の『緊急回避』の使用履歴が記されており、同じ方向のボタンを二回押すことで発動できると書いてある。
スキルは基本的にスキルスロットに入れて決められたキーを押すことにより発動できるのだが、これは特別なのか…? というか、『ニュートラル』ってなんやねん…!
ニュートラルの意味が理解できなかったが、とりあえず移動キーを二回押してみた。すると『はぁ!』と掛け声と共にその場で前転し、取り巻きたちから距離をおくことができた。
「よかった…」
―――と思ったのも束の間、再び取り巻きたちが俺に向かって走り出した。何でや…と一瞬思ったのだが、遠距離職が狙われるのだからそりゃそうだ。近くに別の遠距離職がいれば話は変わるのだが、アーチャーであるメイは遠く離れたところにいる。
再び逃げるのだが、『緊急回避』を覚えたのでもう怖くなかった。オークたちが近付いたときに前転して距離をおき、また近付いたら前転――その繰り返しだ。
だがこれではただの時間稼ぎにしかならない。ダイにこの前転スキルを教えたいのだが、チャットしている暇もない――通話していれば良かったんだけどなあ………。
ただアーチャーの矢がオークを狙って飛んできている。偏差撃ちなので若干難しいとは思うが、それでも何発かは命中して取り巻きたちの体力を削っている。
メイジの俺がタゲ取りとは異様な光景であったが、まあ悪くないだろう………。
『がぁぁ………』
―――そんなことを考えていたその時、体力がまだ残っていた取り巻きたちがいきなり倒れ始めてその場で消滅していった。突如起きた謎の光景に俺は言葉を詰まらせた。
まさかバグ…? さっきも「見えない壁」でのスタンがあったし、このゲームまだ正式スタートしたばかりだからバグも多いのかもしれない………
†最強戦士†:ばかか
その時――†最強戦士†がそうチャットで呟いた。彼はボスであるオークナスがいた位置に居り、その場で立ち尽くしていた。
†最強戦士†:ボス狙えよ
―――俺はその意味が分かった。こういうネトゲでは、ボスさえ倒せば取り巻きたちを倒さなくてもゲームクリアする…。今回ボスはスタン状態だったので、最強戦士は取り巻きたちに精一杯だった俺たちを無視してボスをひたすら殴っていたのだろう。
何か言い返したかったが、戦略的に正解はあちらの方なので何も言えなかった。まあ俺はどっちにしろボスを攻撃することは不可能だったが、ダイにとっては葛藤が続いたことだろう。必死で取り巻きを追いかけていたのだが、結局その行動は無意味に終わってしまった――最強戦士の言うことも最もだった。
パーティ内に冷たい空気が流れる中、俺たちは――ハジマリに戻された。そして†最強戦士†は無言で抜けていったのだが、彼に対してとやかく言うものは誰もいなかった。
シン:結構むずかったね
ダイ:なんかごめん
シン:?
ダイはなぜか謝っていた。その謝りは誰に対して言っているのか、そして何を謝っているのか分からなかったが、この嫌な空気の中それを問うことはできなかった。そこで俺は話を変えようと、ある提案をし始めた。
シン:まあ、通話とかしてみない?
ダイ:いいかもね
やはりダンジョン内では戦闘に集中してしまい意思疎通ができないので、通話をした方がいいと思ったのだ。それによってより信頼が生まれるし、連携もしやすいはずだ――今はまだ声をかけ合う必要はないが、ゲームが進むにつれて重要になってくる。
メイは終始黙ったままだったが、通話するか聞いても拒むことはなく受け入れてくれた。俺はその声を聞いてほっとした。
初めての戦闘、始めてのパーティで嫌な経験をしたことは俺にもある…。それによってゲームを止めてしまうなどごく普通の出来事だ。彼女もそうなってしまうのではないかと思っていたので、まだゲームを続けるという反応に安堵の胸をなでおろした。
―――――
そして―――チュートリアルも進んで行き、『ギルド』に関するところまでやってきた。そこではさらっと説明する程度だったが、俺はとりあえずギルドを設立してこの二人を誘った。チュートリアルで『ギルドボーナス』というものがあると紹介され、このゲームを進めて行くためには必要じゃないかと思ったからだ。
勿論二人は承諾してくれた。
メイ:改めて、よろしくw
シン:よろ~
ダイ:よろ
チュートリアルも終わり、この『バトルリターンズ』の世界に歩み出した三人の物語が始まった瞬間であった―――。




