4話 慣れてきた三人の仲
「うーん…俺はタンク、ウォーリアー、ヒーラー、アーチャーの構成がいいと思うけどな」
「いやいやそれだと物理攻撃に寄ってるやん(笑)…せめてウォーリアーじゃなくてメイジでしょ。」
「いやいや………」
「…でもそれだとFAR多くない?」
「な!メイもそう言ってるじゃん!その構成、俺も初め考えたけどタンクに負担かかりすぎるんだよな」
「シン&メイ、違うぞ………?アーチャーはスキル次第で接近特化にできるんやで。」
「―――もうよく分からん(笑)とりあえず俺はタンク担当でいきます」
「じゃあ私はアーチャーで!」
「つまり俺ヒーラー!?嫌や………」
「まあまあ、ヒーラー嫌だったらアルケミックでもいいよ(笑)」
「なんやお前、偉そうだな(笑)」
―――シンとメイ、ダイの三人は通話で職業決めを行っていた。このゲームでダンジョン攻略をするには個々がそれぞれ、一つの職業をマスターするのが高難易度クリアの近道である。ゆえにこれまで適当に選んでいた職業をこれからはしっかり決めようと思い、シンはこの話を持ち出したのである。
俺はこの二人との通話を大いに楽しんでいた。メイは予想通り若い女子で、あまり高くない声質で大人しめ。それに対しダイは通話する前にはガキじゃないかと思ったが、声を聞くと何かエセ関西弁のおっさんみたいな感じ。結構歳いってるんじゃないかと思ったが、俺と同じくらいの年齢だったのがここ最近で一番の驚きだった。
通話をしながらのクエストは――とても良かった。まあ大体が独り言で攻略には全く役に立たないのだが、こう皆で攻略していく一体感はとても新鮮なものだった。初めは緊張していたが、慣れると戦闘しながら世間話も弾んでいたように通話もゲームの一部だと考え始めていたのだ。まだ合わせて三人でのパーティだが、そろそろ四人目として新たなギルメンを受け入れたい、そう感じていた………。
「とりあえずクエストいくか」
「どこなん?」
「うーん、まあメインクエスト。次一章一節五項だけどみんなどこ?」
「あ、私もそこ。」
「俺もや。」
「じゃあ決まりね~」
俺は門番の元へ走り出した。ふとダイをマップで見てみると、鍛冶屋で新たな武器の強化をしているようだ――『アルケミック』の武器かな。このゲームでは武器の種類が数多くあり、職業別で装備できる武器が異なるのだ。また武器スロットは二つ用意されており、片手武器や両手武器など同じ種類の武器でもバリエーションがある。例えば『ウォーリアー』では剣・斧・槍が装備できるのだが、剣と斧は片手装備もでき、空いたスロットに盾などを持つことができる。
今回のダイの職業アルケミックは鈍器・銃・杖が装備できる。ただダイはこれまでウォーリアーしかやってこなかったため、新たな種類の武器を買ったり作らなければならないのだ――そこは申し訳ない。
「まあ無理にアルケミックにしなくていいよ」
「もう俺アルケミックに決まってん?(笑)」
「だって鈍器強化してるじゃん(笑)」
「まあお試しでな」
「アルケミック一回やってみたけど、楽しかったよ~」
メイがそう嬉しげに呟いた。彼女は初めてのダンジョンのときアーチャーで、そこから幾つかの職業を転々とプレイしていたのだが結局アーチャーに戻ってきたのだ。話を聞くとどうやら昔やっていたゲームでもアーチャーだったらしい。―――ネトゲ初心者だと思っていたので、それを聞いたときは驚きを隠せなかった。
「でも鈍器だとNEARになるけどいいのダイくん(笑)」
「俺は接近職がいいんや…」
「…まあ俺の支援しっかりしてくれるなら何でもいいけどな(笑)」
「お前だけは回復せんわ!」
ダイのパンチの効いた一言に俺は笑いを堪えきれなくなり吹き出してしまった。メイもくすくす笑っており、そんな二人をダイが無言の圧力で空気を支配していたのだった―――。
「じゃあいくか」
―――仕様上四人じゃないとダンジョン内に入れないため、適当に残り一人を募集して入ってもらった。その人の名前はマイ、なんか片仮名二文字がパーティメンバーで並ぶと昔のゲームみたいで面白おかしい。そのことをダイに話したのだが、どうも共感してくれず話のネタになることはなかった…。
―――――
四人は瞬時にワープし、何もない草原にやって来た。
一章一節五項。話のあらすじとして、一節一項でオークの長を倒したことにより草原に新たな種族たちが草原を支配し始めていく。二項でドワーフ、三項でトロール。同じような展開が続いて飽きが来ていたが、四項では異種族間戦争をしている最中なのをやむなく皆殺しにするという若干残酷なストーリーだった。それに続く五項はどうなるのか、それも楽しみではあった―――。
シン:タンク
メイ:アチャ
ダイ:ケミ
―――三人は慣れた様子で自職業を宣言していく。というのもこのゲームの攻略サイトの多くに「宣言すべき」と謳われているため、初心者といえど宣言している人は多いのだ。またこの“早いもの勝ちシステム”によって、無駄な譲り合いをする必要がなくなる――まあマナーが悪い人は宣言されていても平然と被らせてくるのだが…。場合によっては被るのもアリだが、四人全員タンクになったら終わりだな。
ただ――パーティに入ってきたマイは職業選びを渋っていた。自分の得意な職業が先に宣言されてしまったからなのか、それとも単純にどれにするか悩んでいるのか………
「マイって人なかなか選ばんな。」
「まあ初心者だしどれにするか悩んでるのかもね。俺も初めのときそうだったし(笑)」
「なんか俺たち、もう初心者卒業したみたいやな(笑)」
「いや初心者です………」
「知っとるわ!(笑)」
メイのその冷たい一言が通話の空気を温かくした。そしてダイは自分の選んだアルケミックのスキルを読んでは納得するノイズまがいの行為をしていたのだが、一向に選ばないメイが若干不安そうだった――何かこう路頭に迷っている初心者見ると助け舟を出してあげたくなるんだよなぁ…。
シン:大丈夫?
そう声掛けた俺にダイが気付き、「おっ」と声を上げて「さっすがリーダー!(笑)」と俺を馬鹿にし始めた。そんなつまらない野次は無視して、マイの返事を待ったのだが依然と無反応のままである。
「もしかしたら落ちちゃったのかもな」
「私も初めそう思ったけど、落ちたらそうアナウンスされるんじゃないかな。」
「せやな」
仕様上、四人が職業を決めないとずっとこの結界が貼られた空間に閉じ込められたままだ。運営はいずれ改善策を出すと言っているが、恐らく一人がAIの四人で戦闘開始してしまうか、クエスト離脱のどちらかだろう。というかそれ以外にやりようがないからな…。
ただ―――今のパッチでは三人が手動で離脱するしかない。そうなるとクエストのために使った『スタミナ』は消費されてしまい、無駄に使ってしまうことになる。このスタミナ制も疑問が残るが、プレイヤー間での格差をなくすための処置らしい。良いか悪いかはそんなネトゲ評論家でもないので分からないが………
「どうする―――
そう諦めの言葉を言いかけた瞬間――それまでずっと棒立ちだったマイがいきなり動き出した。
「動いたやん!」
―――三人はなぜか歓喜の声を上げた。もしマイにこの通話が聞こえていたとしたら、異様な光景だったであろう。己の帰還に周りが喜ぶ、さぞかし王女の気分になれたのだろう…。そんな冗談はさておき、マイがいたことだけでも嬉しかった――それほどスタミナが無駄にならずに済んだのは重要なことだったことだったのだ。
シン:あ、職業は何でもいいよ
―――すかさず俺は彼女のフォローに入る。もしかしたら何かの用事で一時的にAFK(席を外す)をしていたのかもしれない。チャット欄は「~~さんが~~しました」というEA――何か特別なことをした際に全フィールドに広報される文――で溢れ返っていたため、先ほどの俺のチャットは埋もれていたのだ。
マイの返事を待っていると、唐突に――こんなチャットを送ってきた。
マイ:ごめんうんkしてた
「わろた(笑)」
「下品すぎ(笑)」
その馴れ馴れしく、女子が発したとは思えない言葉に三人は思わず笑ってしまった。俺も笑ったが、マイがそんなキャラだったなんてという若干のショックを受けた。というよりも救いの手を差し伸べていた自分が馬鹿馬鹿しく思えたからかもしれない…。そしてもしかしたらネカマなんじゃないかという話題にもなったが、とりあえず戦闘を始めたかったので職業選択を促した。
マイ:じゃぁ、このメイジってやつにします
ダイ:いいセンスしてるね~
―――通話しているダイは自慢気に無言を貫いている。自身考案の構成をマイが無意識に分かってくれたからだと思うが、恐らくマイはそんなことは露知らず適当に選んだのだと思うんだが………
とりあえず四人が職業を選んだことにより、目の前に貼られていた結界が消滅した。タンク、アチャ、メイジ、ケミ―――まあダイの言っていた理想パーティだ。「よし行こう!」という俺の掛け声と共にモンスターに向かって走り出した。
―――――
俺の選んだ職業はタンク、実は初めて使う職業だ。前まではメイジとウォーリアーを使用していたため、ウォーリアーと武器が似ているタンクの装備には困らなかった。以下はスキルツリー前半の詳細である。括弧内で(±数字ずつ)と書かれているのは、SLごとの上昇幅及び下降幅である。
興味がなかったら飛ばしてもらっても構わない――とにかく俺はこのスキルツリーを覚えないといけないからな。
職業『タンク』
職業ボーナス…自身の物理防御力・魔法防御力が20%追加で上昇する。
スキル層1
・シールド…消費MP10(+3ずつ)、CT10(-0.2ずつ)秒、Lv上限5
5秒間敵の物理攻撃を30(+3ずつ)%軽減するシールドを自分の周りに貼る。『シールド』系スキルの重複による軽減は80%までである。
・タウンティング…消費MP5(+2ずつ)、CT8秒、Lv上限5
叫び声を上げ、付近の敵に80(+10ずつ)%の物理攻撃を与え、自身に対するヘイトが1000(+300ずつ)溜まる。
・防御強化…パッシブスキル、Lv上限10
自身の物理防御力と魔法防御力が3(+0.5)%追加で上昇する。
スキル層2
・ストンプ…消費MP30(+5ずつ)、CT15秒、Lv上限5、習得条件『シールド』Lv5
自分の周りに地ならしを起こし、範囲内の敵に150(+30ずつ)%の物理攻撃を与える。また喰らった敵は20(+5ずつ)%のスロウを受ける。
・ハウリング…消費MP20(+4ずつ)、CT30(-2ずつ)秒、Lv上限5、習得条件『タウンティング』Lv5
前方に連鎖する叫び声を3秒間上げ、前方の敵を1秒ごとに10(+5ずつ)%の確率でスタンさせる。すでにスタンしている敵をスタンさせた場合、代わりに500(+100ずつ)%の魔法攻撃を与える。
スキル層3
・気合の一撃…消費MP50、CT20秒、Lv上限7、習得条件『ストンプ』Lv3
3秒間気合を溜め、その後目の前に衝撃破をくり出して距離に応じて100+30~500+150(+30+10ずつ~+100+30ずつ)%の物理攻撃+魔法攻撃を与える。気合を溜めている最中はスーパーアーマー状態となる。
・バークアウト…消費MP50、CT20秒、Lv上限7、習得条件『ハウリング』Lv3
周囲に罵声を浴びせて、付近の敵の物理攻撃力と魔法防御力を10(+3ずつ)%低下させ、自身に対するヘイトが3000(+500ずつ)溜まる。
・ギガシールド…消費MP30(+10ずつ)、CT30秒、Lv上限7、習得条件SPを合計10振る
敵の物理攻撃と魔法攻撃を30(+3ずつ)%軽減するシールドを自分の周りに永続的に貼る。
これ以降もスキル層4、スキル層5………と続いていくが、現状ゲームクリアまでに習得できるスキルはここら辺までだろう。
とりあえずタンクの役目を果たすために『タウンティング』をLv1だけ習得し、後は『シールド』系統のスキルに振っていく感じかな。『気合の一撃』はPVP(Player vs Player)――まだやったことないが――では役に立たなさそうだけど、PVE(Player vs Enemy)では使えそうなのでこれを目標にスキル振りしていく。
「ケミ楽しいわこれ」
―――その時タゲ取りをしていたモンスターに向かって魔法の玉が飛んできた。視点を変えると、ダイが鈍器を使って魔法を唱えた直後であった。
「なんか装備する武器で変わるんだな」
「そうなんだよね(笑)」
自分はアルケミックを使ったことがなく、ちょっと気になったのでタゲ取りしつつダイのスキル情報を見てみた。状況的に一番初めに習得できるスキルだろう―――。
・魔法弾…消費MP10(+5ずつ)、CT5(-0.3ずつ)秒、Lv上限5
魔法の玉を前方に発射して80+80(+20+20ずつ)%の物理攻撃+魔法攻撃を与える。装備している武器によって、10%の確率でスタン(鈍器)、火傷により毎秒3%の魔法攻撃(銃)、スロウ30%(杖)を付与する。
なるほど――何というか、最もファンタジーしている職業だなと思った。ただ戦略的にも、必要に応じて武器を持ち替えることもできて強いんだろうな…。でもその分武器を複数用意しなければいけないからお金がかかってしまう…?
そのことを言おうと思ったが、自分の性格の悪さが出ていることに気付き慌てて口を塞いだ。他の職業を下に見ようとするのは最もやってはいけないことだ――絶対しないと決めていたが、片足を突っ込んだ状態まで行ってしまっていた……。
―――その時、「オークたちが襲ってきます!」とアナウンスが入った。
「え、なに?怖い…」
「いや全く分からへん(笑)」
「お前ら…ちゃんとストーリー読めよ!」
「…一項で倒したオークの種族が、草原地帯がこうなったのは俺たちのせいだということで襲ってくるっていう話。」
「えーめんどー。まあケミもっとやりたいからええわ(笑)」
「まあ楽しそうだからな」
マイ:何ですかこれ
「おいリーダー、困ってるぞ。教えてあげなくていいのか?(笑)」
「………いちいち通話とチャットで言うのめんどいな」
「彼女も通話呼んであげたらどう?今三人で中途半端だし。てか私女一人でちょっと怖いし。」
「なんやねんそれ、こいつが本当に女かどうか分からんやろ。ネカマかもしれんし。」
「ネカマて何だっけ?」
「は?さっき教えたろ…。しゃあない、もう一回教えるわ。ネカ―――
「うっさいうっせぇ、黙っとけ」
―――俺もマイを通話に誘うのには賛成だった。前回の†最強戦士†のときみたいに、毎回三人でやるのには不安要素も多い。それを四人で固定してしまえば簡単に連携が取れるし、そもそも人数が増えること自体が嬉しいというのもあった。ただ今通話に誘うのもアレなので、とりあえずこのクエストが終わってから誘おうと考えたのであった…。
シン:ストーリー読んどけよ!




