2話 戦闘クエストに臨む初心者たち
『はぁぁぁ…』
俺のキャラが唸り声を上げ、出された炎の玉が敵に向かって飛んで行った。スキル『ファイア』でメイジが習得できる一番初めのスキルだ―――。
~現在~
シン『メイジ』…レベル5、ダイ『ウォーリアー』…レベル5
メイ『アーチャー』…レベル2、†最強戦士†『ウォーリアー』…レベル4
―――ふう、なんとか戦闘にも慣れてきた。
このゲームではボス討伐が目的なのだが、そこに辿り着くまでにモンスター―雑魚敵がたくさんうろついているので、こいつらを狩ってレベル上げしていくというわけだ。倒したら復活しないためパーティのレベルが均等になるように倒していくべきだが、まあ自分含め初心者なのでそこまでは手が届かない。
あと経験値はどうやら倒した人に全て与えられる仕組みらしい。俺はてっきり経験値をパーティメンバーに分配するモードがあると思っていたが、そんなものは見当たらなかった。ヌルゲーではないということか………
[メイの視点]―――――
「どうしよう……」
新村芽衣、18歳新大学生。受験で大学に進学することが決まり、それまでの間何かしようと思っていた。新生活に向けて友達を増やしたりしていたが、ストレス発散できるものをと思って『バトルリターンズ』を始めようと決めた。ネトゲはやったことがなかったが、スマホで職業システムを取り入れたMMORPGをやっており、それも飽きてきたのでより本格的なゲームを求めてここに参戦した。
ただ難しいゲームと銘打ってるだけあって周りは皆慣れている………彼女はその状態に不安を感じていたのであった―――。
……私のレベルはまだ2、みんなは4以上いっている。この選んだアーチャーって職業、矢が自動で敵に向かって飛ぶものだと思ってたけど自分で狙わなきゃいけなくて、なかなか難しい………
スマホでこういうゲームはやったことあるけどネトゲは初めて。ふとマウスが震えているのに気付いた――自分の手が震えているんだ…。ゲームのクオリティからまるで自分がこの中にいるような感じがして、とても緊張する。
「それだけ質のいいゲーム、なんだろうけど………私のせいで迷惑になるならやるべきじゃなかったかな…。」
メイはそう独り言を呟き、画面の中で『ごめん』と謝った。
―――――
シン:いやいや、見たかんじアーチャー難しそうだから
俺は必死でフォローした――というかこのゲーム思ったより難しいのだ。アーチャーの矢は対象指定ではなく方向指定で、さっきスキルなのか三連射していたが、それも。
まあ普通のゲームでも方向指定の方が大多数なのだが、アーチャーが矢を射ることができるようになるまでに時間がかかるしその最中に敵に攻撃を喰らったら中断される。ゆえに必然的に遠距離からの攻撃が必須となるため難しいのだ。
しかもモンスターもただその場にいるだけではなく、ひたすら攻撃行動をとっている。ウォーリアーでも脳死で攻撃しているだけでは簡単にやられてしまうレベルだ―――。
そんなことを思いながら矢印の方向に進んでいると、敵を倒したことで俺のレベルが6になって、SPを1得られたのでスキル振りをしようと思った。
―――このゲームではスキル振りもダンジョン内でしなければならない。スキルツリーという、「ある特定のスキルの習得及びレベルを一定まで上げると、縦棒で繋がっているスキルを習得できてレベルを上げられるようになる」を考えることがスキル振りで重要になってくる。
例えば、スキル『ファイア』のレベルを5上げると『ハイファイア』を習得できるようになる。そのハイファイアのレベルをある程度まで上げると『ファイアボンバー』………などと続いていくが、分岐もあったりして複雑となっている。また『アイス』というまた全く別のルートのスキルも用意されており、よく見るとファイアルートの『メガボンバー』とアイスルートの『コールドウォール』を両方習得しないと解禁できないスキルも存在している。スキル振り分けはいつでも変更できるので――習得条件を満たさなくなるように振り直すことはできないが――、そこらへんは自由度があるみたいだ。
俺は『ハイファイア』を習得した。ファイアの強化版だと思ったが、必要MPが増加していて火の玉の速度も遅くなっている。ファイアはもう用無しというわけじゃなさそうだ。
―――するとダイもレベルが上がり、スキル『スラッシュ』の次のスキル『ダブルスラッシュ』を習得したようでモンスターに使っている。さっき気付いたが他の人をクリックすると使用したスキル情報が見られるようで、他の職業の知識も蓄えられるというわけだ――まあそんな余裕があるのも今のうちだけだが…。
―――草原を進んでいくと、中ボスらしきモンスターが空中から降ってきた。いかにも序盤らしいオークっぽいモンスターで、棍棒と盾を装備してこちらを静かに睨んでいる。
ダイ:強そう
ダイがそうコメントした。俺は適当に相槌を打ち、そして先ほど習得した『ハイファイア』を唱え始めた。
だがどうやら遠距離職にヘイトが集まる仕様になっているようで、俺の方にオークが突進してきた。タゲ取りのタンクがいなかったのが不味かったか…。
仕方なく魔法詠唱を中断して回避行動にまわった。すると突進したオークは「見えない壁」にぶつかって、その場でスタン―行動不能となった。
―――ここぞとばかりに近寄れなかったウォーリアー二人がオークに突っ込んでいく。ダイはダブスラ、最強戦士はスラッシュを使って敵をフルボッコにしている。
メイも今なら安心だと思ってひたすら矢を射ていた。
敵のスタン時間が異常に長く(恐らくバグ?)、体力ゲージも残りわずかになっているところに俺が『メイさんが倒したほうがいいよ』と皆に助言した。レベルが明らかに低いし、まあ楽しくなくならないよう配慮しようと思ったからだ。
ただ――誰も返信しない。夢中で攻撃しているのか、気付いていないようだ。今思えばSC――味方に警戒をするよう音が出て知らせる――を使えばチャット欄を見てくれたのかもしれない。
『スラァァッシュ!』
そしてダイが――倒してしまった。本人は嬉しそうに何もいないところでスキルを連発していたが、すぐにチャットの存在に気付いてその場に立ち尽くしていた。そして『ごめん気付かなかった』と謝ってきた。
全然いいよと落ち着かせたが、まあメイは居づらい立場だっただろうな…。彼女を助けてあげるつもりが逆効果になってしまった………
[ダイの視点]―――――
「あー…やっちゃったな………」
ダイは申し訳なさそうに呟いた。戦闘に集中してついチャットを見逃してしまう癖、というかただの自分の不慣れを嘆いていた―――。
青木大吾、20歳社会人。高校を卒業してその後は親のコネで地元の会社に入った。そこの同期にこのゲームを誘われて買ったのだが、その同期がどうやらパソコンのスペックが足りなかったらしくプレイするのはまた今度ということになってしまった。ただネトゲは自分も興味があったというのもあって正式スタート日にダウンロードして一人で始めたのであった。
実はこういうMMORPGは初めて、メイより初心者の状態であった。ただ慣れるのが早く、シンと同じくらいの飲み込みの早さになっていた―――。
マイのレベルはまだ3、他は5以上ということからLHを譲るのも当然だったのかもしれないな…。ただこのゲームなかなか不親切だな………
敵を倒した人のみに経験値が与えられるって、パーティ組んだ四人が自分のことしか考えてないとすると、LHの奪い合いになるんじゃないんかな。現にさっき†最強戦士†にモンスター横取りされたし…。
てか最強戦士うぜえんだよなあ…。自分らと同じ初心者に対し暴言って、よく考えると面白いよな。まあ相手にしないことが大事か――シンもその辺は重要視してるらしいし。
とにもかくにもなんかボスっぽい雰囲気醸し出してる地形にやってきたし、そろそろボス戦か。『ダブルスラッシュ』の次のスキル、『ガードブレイク』にはいけなかったけどまあ初めの方だし仕方ないか…。
……もっとレベルごとにもらえるSPの量増やしてくれた方が楽しいと思うんだけどなあ。
――――
―――先ほどの中ボスでも見た、地面に黒い円とその中に怪しい模様が描かれている。これは間違いなくボス戦、中ボス倒してすぐ来たか…。
まあ「見えない壁」にぶつかるバグがあったとはいえ、チュートリアルにしては濃密なダンジョンだった。こういうのって大体ストーリーを絡ませたものになるから戦闘が少なくなりがちだけど、むしろ単純に戦闘に慣れるためのクエストだったといえる。というかストーリーが存在しておらず、それはネトゲにしてはかなり珍しい。
ダイ:はええなw
―――ダイがボス戦到着の早さを嘆いた。恐らくもっと敵を倒したいという感情から出た言葉だろう…。俺ももっとモンスターを狩りたいというのはあったし、スキルももっと振りたかった。MMORPGにおいてスキル振りは重要な要素だと思うし、最後まで振れないまま終わってしまうのは若干もったいない。
まあランクが上がるにつれ入れるダンジョンも増えていき、レベルの最大値も上がっていくのだろう。そこらへんは普通のゲームと同じだな。毎回一から振り直しになるのが特異なだけで…。
そんなことを考えながら黒い円の中に四人が集まると、地面から壁がゴゴゴと出現して円が囲まれた。まさにボス戦、俺はその演出に興奮した。
―――アナウンスが入る。どうやらこの草原ステージの設定として、俺らが荒らしにきたみたいで「悪者」として扱われており、その悪者を懲らしめるためにモンスターの長―ボスが直々に倒すという話らしい。その辺は適当じゃなくしっかり決めてるんだな、と思うのも束の間ボスが何もない空間から出現した。
先ほどのオークを一回り大きくした感じで同じく棍棒と盾を装備しているのだが、周りに中ボスオークと同じくらいの大きさのオークが二体も出現していた。
若干きついような感じもしたが、いざ戦うのみと意気揚々と敵に向かって呪文を唱え始めたのだった―――。




