闇に芽吹く想い
あの夜以来、イェンミンとジンランの関係は変わってしまった。
もう、ただの師弟ではいられなかった。
二人の間に生まれた感情は、理性で押し込められるようなものではなく、互いを強く求めるほどに熱を増していった。
昼間、師と弟子として向き合っているときでさえ、ふと目が合えばあの記憶が蘇る。
ほんの一瞬、指先が触れただけでも、胸の奥に衝動が走る。
誰にも見せることのできない感情を抱えながら、それでも二人は互いから離れることができなかった。
昼は他の弟子たちと同じように修行に励む。
術式を学び、薬草の扱いを覚え、魂視の鍛錬を重ねる。
けれど夜になると決まって、イェンミンはジンランを自分の部屋へ呼び出すのだった。
「…ジンラン。」
その声は、昼間の授業で弟子たちに向けるものとは、まるで違っていた。
厳しく、淡々としていた昼間の声とは違い、夜の彼の声には、どこか甘く、低く、耳元で囁かれているような響きがあった。
部屋に二人きりになった瞬間――
ふっと、空気が甘く変わる。
昼間の師弟としての緊張感とは違う、柔らかく抗いがたい静けさが二人の間に満ちていく。
誰にも告げられることのない、二人だけの時間が始まる。
一度交わった視線は、もう離れない。
言葉がなくとも、互いの心の内を探るように見つめ合う。
熱を帯びた視線、触れ合う指先、重なる呼吸。
理性を振り切り、二人は引き寄せられるように心も体も重ね合わせていく。
一歩退けば、終わらせることができるはずだった。
けれど、どちらもその一歩を踏み出そうとはしない。
触れることさえ許されないはずの距離が、いつしか二人にとっては、何よりも心を安らげる場所になっていた。
それは、誰にも知られてはならない秘密。
明るい場所へ持ち出すこともできず、それでも夜が訪れるたび、二人はその密やかな暗がりへ戻っていく。
まるで光の届かない場所でひっそりと燃え続ける、消えることのない炎のように。
その炎が自分たちをどこへ導いていくのか――
まだ、誰にも分からなかった。
――一方。
その変化に、最初に気づいた者がいた。
――ヤーシン。
イェンミンの一番弟子である彼女は、以前から師に特別な想いを抱いていた。
それは、尊敬だけではなかった。
長い年月をかけて師の傍に仕え、誰よりも彼の力を理解し、誰よりも優れた弟子になろうとしてきた。
いつか、自分だけが認められる日が来る。
そう信じていた。
けれど――
最近のイェンミンは、夜になると姿を消す。
そして、その行き先を辿れば、そこには決まってジンランがいた。
ある夜。
廊下の向こうに消えていくイェンミンの姿を見つめながら、ヤーシンは唇を噛んだ。
「…また、ジンランと一緒なのね。」
胸の奥に、冷たいものが広がっていく。
最初は、ただの特別な修行なのだと思っていた。
けれど、それにしては長すぎる。
しかも、朝になって戻ってきたジンランの表情には、以前にはなかった柔らかな笑みが浮かんでいる。
その様子を見るたびに、ヤーシンの胸はざわついた。
そしてある日。
とうとう我慢できなくなったヤーシンは、イェンミンに問いかけた。
「イェンミン様。」
「何だ。」
「…毎晩、ジンランと、どのような修行をしているのですか?」
イェンミンは手にしていた書物から視線を上げた。
「修行だ。」
「それは分かっています。」
ヤーシンは必死に平静を装った。
「ですが…私にも、その修行をしていただけませんか?」
ほんの一瞬。
イェンミンの瞳が細くなる。
「必要ない。」
「…なぜですか?」
「ジンランは伸びが早い。」
淡々とした答えだった。
「まだ未熟ではあるが、他の者にはない可能性を秘めている。」
その言葉に、ヤーシンの指先がわずかに震える。
「だから、皆より厳しい特訓をしている。」
「…私では、駄目なのですか?」
思わず漏れた声は、いつもの彼女らしくないほど弱かった。
けれど、イェンミンはその意味に気づかない。
「お前には耐えられない修行だ。」
それだけ言うと、イェンミンは再び書物へ視線を戻した。
ヤーシンは、しばらくその場から動けなかった。
――耐えられない。
その言葉が、胸の奥に突き刺さる。
自分は誰よりも長く修行してきた。
誰よりも努力してきた。
一番弟子として、誰よりも師の期待に応えてきたはずだった。
それなのに。
自分ではなく、あの村娘。
何の力も持っていなかったはずの、あの娘が――
「…ふん。」
やがて、ヤーシンは小さく鼻を鳴らした。
「そんなに大したことをしているわけでもないのに…」
その声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
「やっぱり、ただの村娘じゃない…」
それからだった。
ヤーシンのジンランに対する態度は、日を追うごとに、あからさまに冷たく、ひどいものになっていった。
修行中、ジンランの使っている道具をわざと遠くへ置く。
通りすがりに肩をぶつける。
必要以上に冷たい言葉を投げかける。
時には、彼女が集中しているところへわざと声をかけ、術を失敗させようとすることさえあった。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。」
そう言いながら、ヤーシンは薄く笑う。
けれど、その瞳は笑っていなかった。
ジンランは何も言い返さなかった。
悔しかった。
悲しかった。
何度も胸の奥が痛んだ。
それでも、言い争うことはしなかった。
ここには、自分より遥かに長く修行してきた者たちがいる。
その中で、自分だけが特別扱いされているように見えていることも、分かっていた。
だからこそ、余計な争いを起こしたくなかった。
――けれど。
そんなある日のこと。
またヤーシンから嫌味を言われたあと、ジンランは一人で廊下を歩いていた。
俯いたまま、胸の奥に込み上げる涙を必死に堪える。
「…どうして、こんなに苦しいんだろう。」
小さく呟いた。
以前なら、ただ悲しいだけだった。
けれど今は――
ふと、イェンミンの顔が浮かんだ。
夜ごと、自分を呼んでくれる。
自分の力を認めてくれる。
誰よりも近くで、自分を見てくれる。
その事実を思い出した瞬間。
胸の奥に、別の感情が生まれた。
「…私だけが」
ぽつりと、言葉が漏れる。
「私だけが…イェンミン様に求めてもらえているんだわ。」
その考えに気づいた瞬間、ジンランは自分自身に驚いた。
ヤーシンが苦しんでいることを知っている。
彼女がイェンミンを慕っていることも、ずっと前から分かっていた。
だから、本当なら――
申し訳なく思うべきなのかもしれない。
それなのに。
心の奥底では、ほんの少しだけ。
甘い優越感が生まれていた。
――私だけ。
その言葉が、頭から離れない。
自分だけが、イェンミンの特別な時間を知っている。
自分だけが、彼の言葉を間近で聞いている。
自分だけが――
彼の心に触れられる。
その感情は、最初はほんの小さなものだった。
けれど、一度芽生えたそれは、静かに根を張っていった。
やがて。
「認められたい」という純粋な願いは、「自分だけを見てほしい」という欲へと変わり始める。
そしてその欲は――
ジンランの心に、知らず知らずのうちに小さな影を落としていった。
それは、闇の力を学ぶ者なら誰もが一度は向き合う、自らの影だった。
けれどジンランは、まだ知らない。
闇とは、ただ恐ろしいものではない。
人の心にある孤独や欲望を、静かに映し出すものでもあることを。
そして今。
彼女自身の心の奥にもまた、ひとつの闇が生まれ始めていた。
ある日のことだった。
館に、一人の弟子が慌ただしく駆け込んできた。
「イェンミン様、ご報告がございます。」
その声に、広間にいた弟子たちが一斉に顔を上げる。
イェンミンは書物から目を離さず、淡々と答えた。
「何だ。」
「先日、ご依頼を受けた村についてですが…」
弟子は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
そして、静かに告げる。
「依頼の村…完全に滅びました。」
その瞬間。
広間に、奇妙な沈黙が落ちた。
誰も驚かなかった。
誰も問い返さなかった。
まるで、それが当然の報告であるかのように。
ただ一人――
ジンランだけが、息を止めていた。
「…滅び、た…?」
小さく漏れた声に、隣にいた弟子がちらりと視線を向ける。
けれど、誰も何も言わない。
その村のことを、ジンランは知っていた。
山を越えた先にある、穏やかな村だった。
以前、薬草を求めて訪れた商人から聞いたことがある。
小さな村だが、畑が豊かで、人々は助け合って暮らしている。
春になれば村の入り口に花が咲き、子どもたちの笑い声が響く。
そんな、どこにでもある平和な村だった。
――それが。
今はもう、存在しない。
「…どうなったのですか?」
思わず尋ねる。
報告に来た弟子は、淡々と答えた。
「術は滞りなく成就しました。」
「…」
「村全体が呪に覆われ、建物も畑も焼け落ちました。生き残った者も…」
そこで言葉を止める。
けれど、それ以上を聞く必要はなかった。
ジンランの顔から、血の気が引いていく。
脳裏に、知らないはずの光景が浮かんだ。
炎。
黒く焼けた家々。
煙に覆われた空。
逃げ惑う人々。
そして――
誰にも届かなくなった、助けを求める声。
「…そんな…」
喉の奥から、かすかな声が漏れる。
それは、かつて自分が母を救うために山の中で口にした祈りとは、あまりにも正反対だった。
自分は、母を助けてほしいと願った。
そして、イェンミンはその願いを叶えてくれた。
だからこそ。
ジンランは、ずっと信じていた。
この人の闇は、恐ろしいものではあっても、誰かを救うこともできるのだと。
けれど――
今、目の前で告げられた事実が、その考えを打ち砕いていく。
人を救うことができる力。
その同じ力で、人を滅ぼすこともできる。
ジンランは、ゆっくりとイェンミンへ視線を向けた。
彼は何も言わなかった。
ただ、いつもと変わらない表情で、報告を聞いている。
まるで、村一つの命が消えたことなど、取るに足らない出来事であるかのように。
その横顔を見つめながら、ジンランの背筋を冷たいものが走った。
――私は。
――本当に、この人のもとに来てよかったのだろうか。
母を救ってくれた人。
自分の力を見つけてくれた人。
自分に新しい人生を与えてくれた人。
そのすべてが嘘だったわけではない。
それでも。
その優しさのすぐ隣に、これほど深い闇が存在している。
その事実が、今になって恐ろしく思えた。
「…怖いの?」
不意に、隣から声がした。
振り向く。
ヤーシンが、ジンランを見ていた。
その唇には、薄い笑みが浮かんでいる。
「そんな顔をして。」
「…」
「その程度のことで怯えているの?」
ヤーシンは、どこか楽しそうに続けた。
「やっぱり、あなたには無理なのよ。」
「…何が?」
「ここで生きることが。」
その言葉が、胸に刺さる。
「闇の力は、誰かを癒すためだけにあるんじゃない。」
ヤーシンの瞳が、冷たく細められた。
「奪うことも、壊すことも、呪うこともできる。それが闇よ。」
ジンランは何も答えられなかった。
ヤーシンはそんな彼女を見て、小さく笑う。
「それなのに、まだ怖がっている。」
「…私は…」
言葉が続かない。
自分には、この力は合わないのではないか。
人の魂に触れることはできても、人の命を奪うために力を使うことなど――
できるはずがない。
そう思った。
けれど。
それを認めてしまえば、ここにいる資格すら失ってしまう気がした。
せっかく見つけた、自分の居場所。
初めて、自分の可能性を認めてくれた人。
その人の弟子であるために、自分は何を受け入れなければならないのだろう。
胸の奥で、恐怖と葛藤がぶつかり合う。
その日の夜。
館に、再びイェンミンの声が響いた。
「ヤーシン。」
「はい。」
「来い。」
呼ばれたヤーシンは、迷いなく立ち上がった。
ジンランは、少し離れた場所からその様子を見ていた。
二人が向かったのは、館の外れにある呪術の間だった。
そこには古い祭壇があり、床には複雑な術式が刻まれている。
いくつもの黒い蝋燭が揺らめき、その炎が壁に奇妙な影を落としていた。
「今日は、お前が術を行え。」
イェンミンが告げる。
ヤーシンは一瞬だけ目を見開いた。
そして――
嬉しそうに微笑んだ。
「…私が?」
「そうだ。」
イェンミンは一つの術式を示した。
「これまで学んだことを使え。」
ヤーシンは深く息を吸った。
そして、躊躇うことなく術式の前に立つ。
指を組み、古い言葉を紡いでいく。
低い声が夜の静寂に響く。
やがて、彼女の足元に黒い光が集まり始めた。
それは次第に濃くなり、空気そのものを震わせていく。
ジンランは、思わず息を呑んだ。
「…やめて。」
自分でも気づかないうちに、声が漏れていた。
けれど、ヤーシンは止めない。
むしろ、その表情には恍惚とした色が浮かんでいた。
自分の中にある力が、誰かを圧倒している。
そして何より――
それを、イェンミンが見ている。
「…そう。」
イェンミンが低く呟く。
「そのまま続けろ。」
その声に導かれるように、ヤーシンは最後の言葉を紡いだ。
瞬間。
闇が弾けた。
術が成就する。
遠く離れた場所にいる標的の気配が、ふっと途絶えた。
静寂が戻る。
ヤーシンはゆっくりと息を吐いた。
そして、イェンミンを振り返る。
その瞳は、期待に満ちていた。
「…いかがでしたか?」
ほんのわずかな沈黙。
やがて、イェンミンが頷いた。
「よくやった。」
その一言。
それだけで――
ヤーシンの顔に、喜びが溢れた。
「…ありがとうございます。」
声が震えている。
けれど、それは恐怖ではなかった。
嬉しさだった。
師に認められた。
自分の力を認めてもらえた。
その喜びに、ヤーシンは酔いしれていた。
そんな彼女を見つめながら、ジンランは何も言えなかった。
同じ闇の力を前にしているのに。
自分とヤーシンでは、感じているものがまるで違う。
ヤーシンにとって闇は、恐れるものではない。
イェンミンに認めてもらうための力。
自分の価値を証明するための力。
けれど、ジンランにとっては――
人の命を奪う力でもあった。
それを理解した瞬間。
胸の奥に、初めて明確な恐怖が生まれた。
――私は、この世界で生きていけるのだろうか。
――私は、この人の弟子でいていいのだろうか。
そして何より。
――私が愛したこの人は、本当はどんな存在なのだろう。
イェンミンは、そんなジンランの視線に気づいていた。
けれど、何も言わなかった。
ただ、深い青い瞳で彼女を見つめるだけだった。
その瞳の奥にあるものを、ジンランにはまだ読み取れない。
優しさなのか。
冷たさなのか。
それとも――
人の世とはあまりにも遠く離れた、神としての孤独なのか。
その日。
ジンランは初めて知った。
自分が踏み入れた世界は、思っていたよりも遥かに深く――
そして、イェンミンという男の闇は、自分が想像していたものよりもずっと深いのだということを。
それから――
館の中が静寂に包まれた頃。
ジンランは、一人で修行部屋に残っていた。
先ほど見た光景が、何度も脳裏に蘇る。
黒い光。
途絶えた気配。
そして、ヤーシンの恍惚とした表情。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
闇の力は、人を救うこともできる。
けれど同時に――人の命を奪うこともできる。
その事実を知ってしまった今、以前と同じ気持ちでこの場所にいることはできなかった。
何よりも恐ろしかったのは。
その力を使ったのが、他でもないイェンミンだったということだった。
母を救ってくれた人。
自分の才能を見つけてくれた人。
誰にも見てもらえなかった自分を、初めて必要としてくれた人。
その人が――
人の命を奪うほどの力を持っている。
頭では分かっていたはずなのに。
実際に目の当たりにすると、心は簡単には受け止められなかった。
「…イェンミン様。」
誰もいない部屋で、名前を呼ぶ。
返事はない。
それでも、なぜかその名を口にせずにはいられなかった。
恐ろしい。
けれど――離れたくない。
矛盾した感情が、胸の中で絡まり合う。
そのとき。
背後で、扉が静かに開いた。
ジンランが振り返る。
そこに立っていたのは、イェンミンだった。
「…まだここにいたのか。」
「はい…」
声がわずかに震えた。
イェンミンは、すぐにその変化に気づいた。
「どうした。」
ジンランは答えられなかった。
先ほど見たものを思い出すと、胸が苦しくなる。
けれど、目の前にいる彼を見れば――
もっと近くにいてほしいと思ってしまう。
その矛盾が、自分でも理解できなかった。
しばらくの沈黙のあと。
イェンミンは、ゆっくりと彼女の前まで歩み寄った。
そして、震えるジンランの手をそっと取る。
「…まだ、怖いか。」
ジンランの指先が小さく震えた。
「…少し。」
正直に答える。
イェンミンは何も言わなかった。
責めることも、怒ることもない。
ただ、その手を離さなかった。
「私の力は、人を救うこともできる。」
低く、静かな声だった。
「だが、同じように…奪うこともできる。」
ジンランは黙って彼を見つめる。
「それを知って、なお私の傍にいるのか?」
問いかけられ、ジンランはすぐには答えられなかった。
怖い。
本当は、怖かった。
それでも――
「…はい。」
震える声で、そう答えた。
「私は…イェンミン様から離れたくありません。」
その言葉に、イェンミンの瞳がわずかに揺れた。
彼は何も言わず、ジンランの頬へそっと手を置く。
その手の温もりに触れた瞬間、張り詰めていた心が少しずつほどけていく。
「ならば、覚えておけ。」
イェンミンの声が、静かに響く。
「私の力を恐れてもいい。」
そして――
「私は、お前を手放さない。」
その言葉に、ジンランの胸が大きく鳴った。
それは優しい言葉にも聞こえた。
けれど同時に。
どこか逃げ道を塞ぐような、強い響きもあった。
ジンランは、その意味を深く考えないようにした。
ただ、目の前のイェンミンを見つめる。
恐怖の奥にある、どうしようもない愛情。
離れたいのに、離れられない。
怖いのに、その腕の中にいると安心してしまう。
そんな相反する感情が、彼女の心を静かに満たしていった。
イェンミンもまた、彼女を見つめていた。
かつては誰にも心を許さず、ただ闇の中に身を置いていた。
人の声など、風の音と変わらないと思っていた。
それなのに――
今は、一人の娘の震える指先ひとつが気になって仕方がない。
彼女の恐怖も。
悲しみも。
喜びも。
そのすべてを、自分だけは知っていたいと思ってしまう。
それが愛なのか。
それとも、長い孤独の果てに生まれた執着なのか。
イェンミン自身にも、まだ分からなかった。
ただ一つ確かなのは――
二人の間に生まれた絆が、もう以前の師弟関係には戻れないほど深くなっていたことだった。
闇を恐れながら。
それでも、その闇に惹かれていく。
愛しているからこそ、離れられない。
離れられないからこそ、その愛がいつしか自分自身を縛るものになっていく。
――愛か、呪縛か。
その境界は、二人が夜を重ねるたびに、少しずつ曖昧になっていった。




