表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/15

第8話「狂戦士大量転生事件・2」

「来たな。こっちだ。かかってきな」


クロエが声の方を見ると、ギルとバネッサが、元の場所に立っていた。


ギルは黒色の籠手。

バネッサは、相変わらずサバイバルナイフだけ。


おとりになるつもりなのだろう。


だが、二人だけで大丈夫なのか。


兜をかぶった大男が、ギルに大きな刀を叩き込む。


ギルは、それを正面から籠手で受けた。


ギン、と鋭い音。

火花が散る。


その隙にバネッサが、兜の男の両足の間をすり抜け、内腿を切り裂いた。


一瞬、足元に気を取られた男の顎を、ギルが砕く。


バネッサの背後から、長髪の大男が迫った。

大きな槌を、バネッサの頭に向かって振り下ろす。


クロエは恐怖で全身を固くしながら、見ていることしかできなかった。


バネッサは、するりと槌を避ける。

そのまま低い体勢から、鋭いローキックを放った。


一瞬、姿勢を崩す長髪男。


男は槌を振り回すが、バネッサには当たらない。


バネッサが、男の顔面に土を投げつけた。


目つぶしか。


咄嗟に手で避けたようだが、その挑発で頭に血が上ったのか、男は大声で叫びながらバネッサを追った。


しかし、その横からギルが飛び込む。


男のこめかみに、鮮やかな拳を叩き込んだ。


長髪男が昏倒する。


「全員、トラック方面に向けて急げ!」


ギルが、間髪を入れずに指示を出した。


凄かった。


あれが、オールド・ルーキーと腹ペコ猫か。


◆ ◆ ◆


その後の調査で、集団は「狂戦士バーサーカー」の類であると分かった。


統率が取れているように見えたが、実際には全員がライバルだった。

戦闘力が一番高い戦士が頭目になるという、単純なルールで動く集団だったのだ。


転生時の混乱で、一時休戦の形を取ってはいた。

だが、もともと横の連携力は低い。


これが、ギルたちが生き残れた理由だった。


◆ ◆ ◆


木の陰から、大男が飛び出してくる。


大きな体躯からは想像できない、異様な足の速さだった。


ギルとバネッサは、豪快に、そして冷静に、相手を無力化していった。


残りの班員たちも、四人がかりで一人を倒す程度には対抗した。


焚火の方から、戦闘音が聞こえる。

別で捜索活動をしていた戦闘班の応援が到着したようだ。


助かった……のか。


クロエは安堵した。


焚火の方から、こちらに向かってくる人影はない。

目の前の残り三人を倒せば、生き残れる。


月が出ていたので、視界が良いのも幸いだった。


このままなら、何とかなるかもしれない。

クロエの剣を握る手に、力が戻った。


しかし、安堵した途端だった。


二人の男が、クロエに向かってきた。

クロエは、恐怖で硬直してしまう。


ギルが素早くクロエと二人の男の間に割り込み、大刀を籠手で受けた。

だが、もう一人が大きな槌を振り上げている。


ギルの頭部を、叩き割るつもりだ。


「ギルさん!」


バネッサの叫び声が聞こえた。


次の瞬間。


クロエは、生涯忘れられない光景を見る。


ギルの足元にいたバネッサが、ギルの肩を蹴って大きく跳躍した。


月の光の中。

空中のバネッサの右腕から、光がほとばしる。


槍?


青白く光る槍が、空中に出現した。


二人の大男は、一瞬、虚を突かれる。


そのままの勢いで、バネッサは槍の石突を片方の男のこめかみに叩き込んだ。


着地と同時に、もう片方の男へローキック。


そこへ、ギルの拳が顎に叩き込まれる。

二人の大男は、ほぼ同時に倒れた。


クロエは、目の前の出来事が夢ではないかと思った。


「なんだよ、バネッサ。俺がやられるとでも思ったか」

「ギルさんが大雑把だから、お手伝いしただけです」


クロエは、一部始終を見ていた。


それでも、その光景が現実とは思えなかった。


あの光る槍は、何だったのだろう。

もう、バネッサの手にはない。


ギルとバネッサは軽口を叩きながら、大男たちを拘束している。


クロエは慌てて、他の大男を縛る手伝いをした。

焚火側の制圧も、無事に終わったようだ。


清掃作業は、他の地域を捜索していた戦闘班が、代わりに担当してくれることになった。


商館へ戻るトラックの中。


ギルとバネッサは、互いに寄りかかって眠っていた。


ギルは目の周りに大きな痣。

バネッサは全身土まみれ。


この二人に、全員が救われたのだ。


清掃班の採取師たちは、終始無言だった。


戦闘の疲れもあった。

だが、それ以上に、ギルとバネッサの戦闘に圧倒されて、言葉が出なかったのだろう。


クロエは、ぼんやりと思った。


あんなものを見せられたら。


あれが採取師の到達点であるのなら。


自分は、この先も続けられる気がしない。


やはり、自分は商人を目指そう。


ただ、あの光る槍の印象だけは強く。


そして長く、クロエの記憶に刻まれた。


◆ ◆ ◆


クロエは採取師見習いを辞め、自分が所属していた商会に、商人見習いとして入った。


その後、メキメキと頭角を現す。


時間は掛かったが、自分の商会を立ち上げ、最終的には東北商人グループの総帥にまでなる。


それは、クロエという男の鮮やかな成り上がりの始まりだった。


事件のあと、ギルとバネッサに会う機会はなかった。


ただ、二人の噂だけは、ときおり耳にした。

どこかの山で無茶をした。

誰かを助けた。

とんでもない量の鉱石を掘った。


その数年後、ギルが亡くなったと聞いた。


クロエは俄には信じられなかった。


あの頑丈そうな大男が。


そう思った。


そして、あの男の隣に寄り添っていた久遠の少女は、さぞ悲しんでいるだろうと、遠くの空を見た。


◆ ◆ ◆


数十年後。


六十歳になったクロエは、バネッサと再会した。


彼女は、クロエのことを覚えていないようだった。


当然だ。


四十年以上前、森で硬直していた採取師見習いの少年など、記憶に残るはずもない。


しかし、再会後に依頼した仕事の最中、クロエはバネッサの脆さを知る。


久遠。


老いを知らないバネッサは、長い年月を過ごしている。


人によっては、それを羨ましく思うだろう。

しかし彼女は、数えきれない別れを経験し、その痛みにすら慣れてしまっていた。


心が、時代の変化に追従していない。

価値観もだ。


そのズレに気づくたび、彼女はまた傷つく。

そして、それに慣れようともがいていた。


時代の濁流に取り残された彼女が浮かべる、諦念の混じった微かな微笑。


それはクロエの心に、古傷をなぞるような痛みを残した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ