第6話「温泉の街・1」
指定された駅に着いた。
小さな私鉄の駅だ。
コロコロの付いたトランクを引きながら、改札を出る。
薄い緑のワンピースに、白い帽子と革のサンダル。
温泉街にやってきた、普通の外国人観光客に見えるだろう。
こういう街では、金髪と緑の瞳も、必要以上には注目されない。
その分、気持ちが楽だった。
微かに硫黄の匂いがする。
温泉は、何年ぶりだろう。
駅前は広いロータリーになっており、宿のマイクロバスなどが停まっていた。
観光案内所や、お土産屋さんも見える。
ミサトちゃんたちに、お土産を買わないと。
ロータリーの端に、懐かしい顔が見えた。
アキラさんが、手を振っている。
ショートボブの黒い髪。
切れ長の目。
きれいな口紅。
以前、後方支援を担当してくれた有能な女性だ。
戦闘力は低いが、彼女の頭脳は、仲間を何人も守ってきただろう。
軽自動車の助手席に乗り込む。
宿までは徒歩でも行ける距離らしいが、荷物があるので車を出してもらえて助かった。
「お店はどうされました?」
「前回同様、バイトちゃんにお任せです」
「バイトさんたちも一緒に来ればよかったのに」
「臨時休業が何日も続くと、お客さんの足が遠のきます」
街の外れにある温泉宿に着いた。
古風で、掃除の行き届いた良い宿だ。
温泉、楽しみだなあ。
部屋に通される。
明るくて、きれいな和室だった。
今回もアキラさんと寝起きすることになるらしいが、それは別段問題ない。
部屋風呂もあるようだ。
だが、ここは大浴場でしょう。
「本当は、ターゲットの生活圏の近くに拠点を設けるべきなんですけど」
仲居さんが去っていった後、アキラさんがいたずらっぽく笑った。
「せっかくの温泉街ですし。役得です」
◆ ◆ ◆
「バ、バイキングですか!」
夕食は、広い食堂でのバイキング形式なのだそうだ。
和室だったので、部屋まで料理を持ってきてもらうタイプなのかと思っていた。
だが、これはこれで楽しみだ。
「まあ、バイキングは良いとして。時間まで、軽く打ち合わせしましょうか」
「は、はい」
そうだった。
仕事で来ているんだった。
ターゲットは、小学四年生の男の子。
アキラさんの調べでは、毎日普通に学校に登校し、放課後は友達と遊び、家に帰ってご飯を食べて寝る。
ごくごく普通の生活をしている。
近くの海岸や川で遊ぶのが好きらしい。
川で遊んでいる写真もあった。
両親ともにキャンプが好きで、彼の母のSNSを見ると、二人は若いころにキャンプ場で出会い、その後結婚したようだ。
父親は、地元の材木工場に勤めている。
会社のホームページには、社員紹介のインタビュー記事があった。
特に不審な点はない。
「つまりは、ごくごく普通のご夫婦で、この子も普通の小学生、というわけ」
アキラさんは一通り資料を説明して、そう締めくくった。
「アキラさんは、この子が転生者で、なおかつギフト持ちだと思ったと聞きましたが」
「うん。クロエ社長が信じてくれる……とは、思ってなかったんだけどね」
アキラさんは、少し困ったような笑みを浮かべた。




