第3話「うどん屋・2」
「今回は、転生者保護に関するお仕事をお願いしたいのです」
「それは……観測士のお仕事では?」
「おっしゃる通りです。今回は、その前段階の調査が目的です」
現代の採取師が採掘のプロならば、観測士は転生者救助のプロだ。
採取師も、新しい転生者を保護することはある。
だが、それ自体を目的として山に入ることは、まずない。
観測士は、商人ギルドが選抜し、互助会によって任命される正式な資格である。
全国どこへでも足を運び、転生者を探し、保護する職能だ。
バネッサも、何度か観測士に推薦されたことがある。
そのたびに、丁重に辞退した。
単に、面倒臭そうだったからだ。
「前段階?」
「私の商圏に近い街に、一般人――つまり非転生者の夫婦に保護されている子供がいるのですが、その子を調べてほしいのです」
「え。もう保護されているなら、問題ないのでは?」
「そうなのですが、今回は少々、特殊な事情がありまして」
「特殊な事情?」
「その子が、《《ギフト持ち》》である可能性があるのです」
「……」
「ご存じでしょうが、ギフトは、稀に転生者が持っている強力なアイテム、あるいは能力です」
確かに、ギフト持ちの可能性があるなら厄介だ。
バネッサは軽く肩をすくめた。
面倒臭い話になってきた、とバネッサは思った。
うどんのお出汁の研究をしていた午後の方が、よほど平和だった。
クロエは地図を広げ、ある一点を指さす。
「この地域は、いわゆる『街』です。山間部ではありません。東北では、一般人が暮らすこのような場所を、商人の商圏にはしない慣習があります」
地域ごとに、商人同士の慣習がある。
ギルが活動していた地域では、街も商圏に含めていた。
その良し悪しは、バネッサには分からない。
「観測士が保護した転生者は、例外なく互助会に送られ、社会復帰の支援を受ける。それがルールです」
「はい。そのように聞いています。商人は、観測士が保護した転生者には手出しできないんですよね」
「そうです。ですが、ギフト持ちの転生者となると、ルールを破って横取りしようとする商人が出てくる可能性があります」
「ギフトがあるからですか」
「ええ。ギフトがアイテムなら、高額で取引される。能力なら、配下に置くことで商人の箔が付く」
「はあ。色々、逞しいですね」
クロエが苦笑しながらうんうんと頷いた。
「そして、それが私の所属する東北商人グループの商人だった場合、私の立場が困ったことになる」
「どうしてです?」
「私は近々、そのグループの総帥になります。配下の商人がルールを破ったとなれば、商人ギルドだけでなく、互助会をも巻き込んだ騒動になります。これを事前に止めたいのです」
「で、どうして私なんです? その子を最初に見つけたのは誰ですか。その人に任せればいいのでは」
「ギフト持ちの可能性に気づいたのは、あなたもご存じのアキラです。ただ、彼女は本件の調査には向きません」
「え。アキラさんは優秀ですよ?」
「ええ、優秀です。ですが、彼女の許可をいただいてきましたのでお伝えしますが、彼女は『一個持ち』なのです」
転生者は、普通なら二個の魔道具を装備できる。
センサーや認識阻害などの魔道具は、採取師にとって必須アイテムだ。
二個持てることから、通称「二個持ち」と呼ばれる。
たまに、それより多くの魔道具を装備できる者もいる。
個数に応じて、「三個持ち」「四個持ち」と呼ぶ。
ギルは「四個持ち」だった。
「一個持ち」というのは、蔑称ではない。
事務関係の仕事に就く転生者には、そもそも魔道具が必要ない場合も多い。
ただ、魔法絡みの調査においては。
確かに、向かないということだ。




