第4話「うどん屋・3」
「そもそも、私の部下が調べて報告すること自体が……よろしくないのです」
「グループの他の商人から、色々言われるとかですか」
「はい。総帥候補の立場を利用して、私が横取りしようとしていた、などと言われると面倒になります」
いやだ、いやだ。
なんだか、とてもドロドロしている感じがする。
関わりたくないなあ。
「ですので、今回の件は第三者に動いてもらいたいのです」
「それが私ですか?」
「伝説の『腹ペコ猫』、バネッサさ――」
「その『二つ名』は嫌いって、言いましたよね!」
「失礼。全国的に高名なバネッサさんが、偶然気づいて報告した、という形にしたいのです」
「え。だって私、そこに行ったこともないですよ」
「旅行に来て、たまたま子供に会い、たまたま気づいたということで」
「……それ、相当無理がありますよ」
「近くに、とても良い温泉があるのですよ」
だめだ。
この人は、絶対に私を説得するつもりだ。
「それと、対象の子供についてなのですが」
「はい」
「私は、この子には転生者による保護は不要だと考えています」
「というと?」
「保護しているご夫婦は、誠実にこの子を育ててくれている様子なのです」
クロエは、数枚の写真をバネッサに見せた。
町中で撮影された写真だった。
かわいい小学生の男の子だ。
友達と笑っている。
あ、前歯が抜けている。
両親と写っている写真もある。
似てはいないが、言われなければ普通の親子にしか見えなかった。
「義理とはいえ、そんな両親とこの子を引き離すのは、間違っていると考えます」
「……」
「あなたは、商人ギルドにも互助会にも、大きな『しがらみ』がない。公平な視点でこの子の能力を調べ、判断することができます。これが今回、あなたに依頼する理由なのです」
◆ ◆ ◆
結局、言いくるめられてしまった。
店はバイトリーダーのミサトちゃんに任せる算段をして、バネッサは東北へ向かう列車に乗った。
車内販売で購入した駅弁を頬張る。
うん。
私のお弁当の方が勝っていますね。
でも、この総菜の組み合わせは参考になる。
あとでメモしておこう。
うどん屋の存亡もかかっている。
だが、今回の調査業務は、ただ子供が転生者かどうかを調べればいいという話ではない。
『少年が無害である』ことを証明しなければならない。
なんとも面倒臭い内容だった。
バネッサは、先行きが不安でしかなかった。




