第14話「夏の夜」
ちくしょう。
変なねえちゃん、どこに行ったのかな。
商店街の入り口で、友達と別れる。
明日は海で集合。
貝殻を採ろうと約束している。
……いつまでも夏休みだといいのにな。
海沿いの道は、波の音が大きく聞こえて気持ちが良い。
背中の方からは、まだ太鼓の音が聞こえている。
お祭りは楽しかった。
もっと居たかったけど、お母さんに叱られる。
「お祭り、明日もあるといいのになー」
水風船をバシバシ鳴らしながら歩く。
もう少しで家だ。
海の護岸沿いの道を曲がろうとすると、道の先に、金魚模様の浴衣が見えた。
変なねえちゃんが、海を見ていた。
りんご飴を齧っている。
大人の女の人も、りんご飴を食べるんだ。
「あ、先ほどはどうも、少年」
「えっ」
「また、会いましたね」
日本語だ。
金髪なのに。
『えっちゃっちゃ』のことを聞きたい。
外国の言葉なのかな。
でも、何だか言葉がうまく出てこない。
変だけど、きれいなねえちゃん。
きれいな金髪が、潮風に揺れていた。
「キミは、お父さんとお母さんのこと、好きですか?」
急に質問された。
一瞬、何で、と思ったけど。
「……うん。好きだけど」
「なら良かったです」
何なんだろう。
やっぱり、変だ。
「あのね。今度から、私のような変な人を見ても、無視してくださいね」
「無視?」
「キミ、ギフト持ちなんですよ。見えちゃうの。私のような人が。……あ、ギフトとか言っちゃいけなかったか」
意味が分からない。
けど、変な人を無視しろってことは分かった。
「もし、変なものが見えすぎて困るようなら、ここに連絡してください」
名刺だ。
初めて、人からもらった。
けど、「うどん屋」さん?
住所は、見たこともない地名だった。
「では、これでお別れです。ごはんをたくさん食べて、大きくなるんですよ」
え?
名刺から目を上げると、変なねえちゃんがいなくなっていた。
「え?」
きょろきょろと周りを見る。
姿が見えない。
「変なねえちゃん?」
答える声はない。
おばけ?
でも、怖い感じはしなかったから、違うと思う。
しばらく、あちこち探してみたけど、どこにもいなかった。
何だったんだろう。
そう思いながら、家に帰った。
何となく、お母さんにはそのことを言わずに、お風呂に入って、ベッドに入った。
もらった名刺を、もう一度見る。
イシノ・バネッサ。
変なねえちゃんの名前だ。
この場所に行けば、もう一度会えるのかな。
いつか。
えっちゃっちゃの意味を、聞きに行けたらいいな。




