第15話「夏の日の終わり」
「夜間の光学隠蔽装置への反応も、変化なしですね」
「そのようですね」
「お疲れさま、バネッサさん。一通りの調査作業は終了ということで」
バネッサは軽自動車の中で、隠蔽装置のスイッチを切った。
ふう、と息をつく。
「なんで、あんなこと言ったんですか?」
アキラが横目でバネッサを見る。
「あんなこと?」
「見えても無視しろ、とか」
「……今の私の落としどころです」
昼間の車中で、ターゲットを保護しないことの意味について、バネッサは悩んでいた。
その答えが『無視しろ』だったのかと、アキラは少し意外に思った。
「クロエさんは、商人ギルドと互助会に、あの少年から手を引くところまでは働きかけてくれるでしょう」
「ええ。そのつもりだと聞いています」
「その後は、あの子の人生です。私は最後まで背負えるわけじゃない」
「……」
「だけど、あの日、森で座り込んでいた私に、誰かが『そこのお前、一緒に食うか』と言ってくれたように」
バネッサは、少しだけ笑った。
「そんなお節介くらいは、焼きたかったのですよ」
浴衣姿の女二人。
軽自動車の中。
二人は、クロエの商館へ向かっていた。
今晩は商館近くのビジネスホテルに宿泊する予定だ。
明日、クロエに最終報告を行う。
調査データは逐次アキラの部下に送っており、書類関係はほぼまとまっている。
先ほどの光学隠蔽装置の件は、備考欄に追加する程度の内容だ。
今晩中にはまとまるだろう。
「変なねえちゃん、かあ」
バネッサがぼやいた。
「『夏の日の不思議な金髪の美人のおねえさん作戦』だったのに」
「変なねえちゃん、でしたね」
「子供はひどいです」
歯の抜けた笑顔を思い出す。
私は今回、少年の役に立てたのだろうか。
分からない。
ギルさんだったら、もう少し気の利いたアドバイスをしてあげられたのだろうか。
美也子先生だったら。
いや。
これは、私の問題だ。
現在の私の限界なのだ。
今回の調査結果が、彼の人生を悪い方へ向けない手助けになれば、それで良い。
健やかに笑ってくれれば、変なねえちゃんも嬉しい。
そう思うのだ。
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