第13話「夏の夕暮れ」
夕方。
あと少しで、日は完全に沈む。
バネッサとアキラは、祭りで賑わう商店街に入った。
バネッサは、薄い黄緑の地に金魚模様の浴衣。
アキラは、紺地にアサガオの浴衣。
似合わないが、アキラは大きめのカバンを肩にかけている。
車中では、あの後、互いに口数少なく、今晩の最終調査のすり合わせをした。
アキラは、バネッサの言葉には答えられなかった。
少なくとも、ターゲットの将来について、自分たちがどうこうできるわけではない。
バネッサもそれは分かっているのだろう。答えは求めなかった。
車中の雰囲気から打って変わって、バネッサは屋台を見ると楽しそうにしている。
この切り替えの良さは、バネッサの美徳だ。
久遠であることも関係しているのだろうか。
アキラは、少し胸が軽くなった。
ターゲットの少年が、友人と商店街を歩いている。
神社の屋台の方に向かっているようだ。
日が落ちた。
作戦通り、調査作業を始めよう。
打ち合わせ通り、バネッサは物陰に隠れて、認識阻害装置を起動した。
すぐさまアキラの手を握り、耳元で彼女の名前を呼ぶ。
アキラは、バネッサを意識の表層で認識する。
これで祭りの中で、バネッサを認識しているのはアキラだけだ。
あとは夜間における、ターゲットの少年の反応を観測するだけ。
二人並んで、神社の境内に向かう少年たちの後をつける。
人混みが多くなってきた。
「あっ」
ターゲットたちが、突然走り出した。
気を付けていたつもりだが、子供の行動は予測不能だ。
境内に並ぶ屋台前の人混みを進みながら周囲を確認するが、ターゲットと友人たちの姿を見失ってしまった。
「まいったなあ」
「仕方ないですね。彼の自宅付近で待ち伏せしましょうか」
「そうですね」
バネッサとアキラは、屋台前の人混みから逃れ、商店街に向かって歩き始めた。
「あ、これ食べません?」
バネッサは、いつの間にか焼きそばとトウモロコシを買っていた。
アキラは内心呆れた。
だが、車で自宅付近へ先回りするなら、少しは余裕があるだろう。
そう判断して、トウモロコシに齧りついた。
◆ ◆ ◆
「あ、変なねえちゃんだ」
バネッサとアキラが振り向くと、チョコバナナを片手に持ったターゲットの少年が立っていた。
「なあ、えっちゃっちゃー、ってどういう意味?」
バネッサは声を出せない。
調査作業に影響が出るからだ。
笑いながら手を振り、ごまかす。
これで、日没後の能力確認はできた。
結果は上々だ。
あとは、光学隠蔽のテストもしておきたいところだが。
ターゲットの後ろにいた子供二人が、なになに、と寄ってくる。
まずい。
一旦距離を取ろう。
アキラは、バネッサに目配せした。
「ねえ、教えてよー」
「なんだよ、どうしたの」
「この前話した、変なねえちゃんがいるんだよ」
「どこだよ」
「ほら、あそこだよ」
そんなやりとりを背中で聞きながら、浴衣姿のバネッサとアキラは、速足で神社の境内から離れた。
「こ、子供に集団で迫られると困りますね」
「確かに……色々と予測外の動きで……手間がかかります」
二人はターゲットを振り切り、商店街のパーキングに停めていた車に乗り込んだ。
日没後の認識阻害は、通用しない。
だが、確認すべき項目は、まだ一つ残っている。
光学隠蔽装置への反応だ。




