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第12話「夏の日・4」

その夜は、バネッサの提案で、地元のそば屋で夕食をとることにした。


アキラとしても、ご馳走とはいえ、二日連続のバイキングである。

少しあっさりしたものが食べたいところだった。


うどん専門の店はなかったので蕎麦屋にしたが、うどんも提供してくれるようだ。


バネッサは納豆ざるうどん。

アキラは山菜冷やし蕎麦。


座敷席だったので、小声で今後の作戦を相談する。


アキラは、バネッサが顔を見られたことを逆手に取った作戦を提案した。


「夏の日の不思議な金髪のおねえさん」作戦だ。


田舎町。

観光地でもある温泉街とは違い、金髪で緑の瞳を持つバネッサは目を引く。


ターゲットのさまざまな距離に出没し、その反応をバネッサとアキラが観測する。

並行して、光学隠蔽装置への反応も見る。


バネッサは同意した。


同意はしたが、作戦名は、


「夏の日の不思議な金髪の()()()おねえさん」作戦にして欲しいと言った。


アキラは同意した。

そこは、どうでも良かった。


◆ ◆ ◆


そこから数日、バネッサとアキラはさまざまなテストを行った。


川で沢蟹に指を挟まれて「えっちゃっちゃー」と悲鳴を上げるおねえさん。

公園のブランコで遊んでいるおねえさん。

通りの向こうで、謎の踊りをしているおねえさん。


ターゲットからの距離を変え、阻害装置の種類も変えてテストした。


アキラは、後の報告の証拠になるよう、その様子をすべて動画に撮影した。

クロエの身内が関わっているとなるとまずいので、バネッサの友人が撮影している体にした。


なお、報告書には作戦名を記載しないことで、二人の意見は一致した。


◆ ◆ ◆


調査スケジュール最終日前の夜。


二人は、これまでの観測結果をまとめた。


その結果、ターゲットの少年は「認識阻害」のみを無効化する「ギフト」持ちであると、ほぼ確信する。


海で遊ぶターゲットが、アイテム類を所有していないことも確認できている。

つまり、彼のギフトはアイテムではなく、能力だ。


念のため、音響阻害や精神記憶に関する魔道具も試したが、不審な反応はなかった。


アキラは、バネッサが精神記憶系の魔道具の使用を非常に嫌がっている様子が気になった。

だが、最後は納得して使ってくれたので、文句はない。


最終日の明日は、町のお祭りだ。


ターゲットが友人たちと夕方に待ち合わせていることは、会話から分かっていた。


夜間の調査結果が足りないので、好都合だ。

陽が完全に落ちるまで遊んでくれると良いのだが。


大浴場で、二人は汗を流した。


アキラは、バネッサが何か考え事をしているのが気になった。


◆ ◆ ◆


調査最終日。


温泉宿をチェックアウトする。


ああ、温泉気持ちよかったなあ。

バイキングも美味しかった。


名残惜しそうに宿を眺めるバネッサを、アキラが引っ張って軽自動車に乗せた。

ターゲットが住む町に移動する。


神社近くの小さな商店街は、いつもより人出が多いようだ。


今日もターゲットは、午前中はお勉強の様子だった。

念のためセンサーで確認するも、これまでと同様の反応である。


完全ではないが、手持ちの魔道具によるテストは終わらせてある。


夕方まで、少し時間がある。

アキラとバネッサは軽自動車の中で、少し暇を持て余していた。


「バネッサさん、何か気になることありますか?」

「え?」

「ターゲットの少年のことで、何か考えられている気がして」


アキラは鋭いなあ。

バネッサは、改めて感心する。


「あー、何というか。この調査報告って、結果としてどうなるのかなと」

「バネッサさんが気づいて、近隣のクロエ社長の商会に報告、ですよね。それが?」

「無害な存在であると報告します。これで、あの子は狙われることもないでしょうけど」

「けど?」

「あの子はその後、ちゃんと生活していけるのかなと」


アキラは、バネッサの懸念を理解する。

というより、アキラ自身も、心の片隅では考えていた。


転生者を保護した両親は善良だ。


山中をさまよっていた子供を保護し、家族に迎え入れたことまで分かっている。

相当な事務手続きもあっただろう。


運悪く遭難死するケースの方が多い転生者としては、格別の幸運児だ。


このまま一般の社会で生活できるのが一番だ。


普通なら。


だが、ターゲットの少年は「ギフト」のせいで、普通の人には見えないものが見えてしまう。


今回は、アキラが気づいた。

調査の結果、転生者社会の脅威ではないことも分かっている。


しかし、他の悪意ある転生者が気づいたらどうなるか。

もしくは、バネッサの報告書を読み、悪用を思いつく転生者が出てくる可能性もある。


しかし。


「私たちの今回の任務は、調査報告です。最終的な判断は、商人ギルドなり互助会が下すでしょう」


「……責任外の悩みではあると分かっているんですよ」

「……はい」

「なので、自分の納得いく仕事の終わらせ方をしたいなあと」


バネッサは、商店街の方を見た。


夕方になれば、あの子は友達と祭りへ行く。

普通の子供の顔で、普通の夏の中へ戻っていく。

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